波照間の伝統祭祀と記録写真

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歴史文化

初回投稿日:2015.07.22
 最終更新日:2024.03.27

波照間の伝統祭祀と記録写真


本
2004年出版のモノクロ写真集『波照間島』と、近日出版予定のカラー写真を再現した電子書籍
 
沖縄CLIPを通して“沖縄の魅力をお伝えする仕事”のほか、自分が関わっている大事な仕事のひとつに、半世紀前の波照間島の祭祀を記録した写真を、電子書籍にして世の中に出版しようというプロジェクトがあります。
 
半世紀前の波照間島に何度も足を運び、まだ誰も記録したことがなかった島の年中行事を取材撮影したのは、オランダ人の学者のコルネリウス・ アウエハント氏(故人)と静子夫人。2004年には一度モノクロ写真集が出版されたことがありましたが、現在ではほぼ絶版に近い状態になっています。出版時に那覇で写真展が開催され、ぼくも一般客として拝見したことがありました。

半世紀前の波照間の神司たちとコルネリウス・アウエハント氏
 
それから10年後、僕の写真展にふらりと偶然現れたのが、 アウエハント・静子さんでした。写真展会場から近いところに、半世紀前の写真が保管されているとのことで、招かれて訪問させて頂いたことがありました。「この膨大な記録フィルムを世に残して、多くのかたにご覧頂きたいので協力してほしい」という相談があったのですが、あまりにも膨大な数と未整理な状態に、とても僕一人では手に負えるものではないと、そのときは諦めたものでした。

膨大な写真を整理するアウエハント・静子さん
 
その半年後、こんどはまったく別のルートを通じて「半世紀前の波照間島の伝統祭祀を記録した写真集を電子書籍化したい。担当になってもらえないか?」と、古写真の電子化や電子書籍を出版している実績のあるNanseiから相談がありました。それは6ヶ月前に一度お断りさせて頂いたアウエハント・静子さん所蔵の膨大な写真群のことでした。「逃げても逃げても追いかけてくるものは、自分が果たさなければならない運命なのではないか?」と覚悟を決め、引き受けることになったという経緯があります。

豊年祭の当日にようやく波照間島に渡ることができました
 
今年の7月13日には、波照間島の豊年祭があるとのことで、アウエハント・静子さんと共に波照間島に行くことになったのですが、台風9号の影響で直前まで船が全便欠航。豊年祭当日の朝になって、奇跡的に定期船が出航したのでした。

今も脈々と島の伝統行事を受け継いでいる波照間島の皆さん
 
島に到着するやいなや、祭祀が行われている各集落の御嶽へと御挨拶にまわりました。50代以上の方々は、「おぉ、静子さん、よく来たね!」とお声を掛けてくださるかたが何名もいらっしゃったのですが、とても近寄りがたい緊張感に包まれていました。それは、観光のための祭りではなく、島とそこに暮らす人のための伝統祭祀でした。一生懸命に祈りを通そうと真剣です。とても厳かなものでした。

現在の波照間島豊年祭。御嶽で祈る神司
 
実際に島に渡ってみて、現在も受け継がれている伝統祭祀のひとつに触れてみて判ったこと。それは、現代でも他所から参加するには敷居が高く感じられたものが、今から半世紀前はさらに困難なことだったでしょう。しかも、外国からの研究者があの当時に島に滞在しながら、豊年祭だけでなく、旧盆行事、節祭、結願祭、そのほかの年中行事のすべてを地道に記録されたことを、偉業に思います。

豊年祭の翌朝、波照間島に虹が。島の人々の祈りが天に通じたかのような大きな虹でした
 
撮影当時は、カラーフィルムで撮影された写真でしたが、2004年の出版の際は、印刷コストの都合でモノクロで印刷してしまっています。せっかくですから、オリジナルのフィルムの通りに、カラーで再現しようと思います。もちろん、50年も経っているフィルムなので退色や汚れなど劣化も激しいのですが、できるだけ汚れなどは除去していることろです。また未発表のものも多数含まれています。今年の秋頃には、電子書籍で出版予定です! ぜひ、半世紀前の波照間島の姿をご覧頂きたいです。
 
※波照間写真集プロジェクト:https://readyfor.jp/projects/hateruma

桑村 ヒロシ(KUWA)

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