沖縄観光情報:八重岳でパンを焼いて、畑を耕す人。

八重岳でパンを焼いて、畑を耕す人。

post : 2015.11.21 21:00

 
 

チュチュッチュチュッ、チュチュッチュチュッ。
風にそよぐ草むらの向こうで泣いているのはメジロだろうか。
 
左手にはフクギ並木で知られる備瀬の集落を見おろせるし、右の方に目をやると、奥間ビーチだろうか、やんばるの山々と青い海とに挟まれるように細長く続く白い砂浜がぼんやりと揺らめいている。
 
条件さえ整えば与論島も見渡せるという八重岳の丘の上。

 
「人工物が何もない広ーい場所に来ると心が癒されるでしょ。ここからね、遠くの山の林とか海の向こうの離れ島を眺めてるとね、自分では大きくて手に負えない悩みがちっぽけに思えてくるんですよ」
 
胚芽パンを主力にした手作りのパン屋を今から40年ほど前に一から始めた比嘉恵美子さんが語る言葉はかじかむ肌をやさしく温めてくれる冬の太陽のようにすーっと胸に入ってくる。


 


丘の上に立つ十字架の近くの低木が赤い実をつけていた。「これはね、あんまーちーちー(お母さんのおっぱい)といってね、野生のいちじくなんですよ」。深い皺が刻まれて小さな掌から受け取った小粒のいちじく(イヌビワ)を口に含むとほのかな甘さが広がった。


 
原野だったこの場所を、比嘉さんが家族や仲間と開墾して、パン屋と教会と畑と住居からなる八重岳ベストライフセンターをスタートさせたのは、土に触れながら心と体を分けることなく「丸ごと」癒せる場所をつくりたかったからだという。



 
カウンセリングに農的療法。大空と深い緑とふかふかの大地に囲まれた場所で、畑を耕すようにライフスタイルを整えていくことで、ゆっくりと自分を取り戻していける場所。
誰にも責められることもなく、誰にも急かされない。あるがままの自分を豊かな自然の中でみんなが認めてくれるから、元気をなくした人が精神的にも肉体的にもゆっくり回復するのだそうだ。

 
「ほら! ここはね、琉球処分のあと首里から逃れてきた士族が住み着いて、藍の栽培をしたりして生計を立ててた集落の跡なんですよ」
 
指で指し示した場所には、野生化した琉球藍がうっすら茂っている。土に覆われてはいるが、昔は藍を浸して発酵させていた大きな水瓶がいくつも残されているのがわかる。

 
 
 
「あちこちにね、石垣が残ってるでしょ。暇を見つけたら草刈りしてね、きれいによみがえらせたいのよ」
 
以前は若者たちと一緒にパン作りにいそしんでいた工房に、最近はあまり行けなくなったと少し悲しそうな表情を覗かせたが、比嘉さんの顔はすぐに輝きを取り戻した。
 
「汗を流したあとにね、草がきれいに刈られたところを振り返ると気持ちいいのよね。いま努力しておけば、きっといつか夢は叶えられるから」
 
 
『なんくるないさ(十分に努力をしていれば、必ず報われる)』
『命どぅ宝(命は宝であり、尊いもの)』
『平和はスマイルから始まります』
『私たちの最高の名誉はぜったいに倒れることのない事ではなく、倒れてるたびに立ち上がる事です』

 
見晴らしのいい丘から畑のある麓へ、そして八重岳ベーカリーの前へと降りていく細い道には沖縄の黄金言葉(くがにことば=金言)のほか、マザー・テレサや孔子の名言が書かれた看板が所々に立てられている。

 
「バッテリーチャージにたまにはいらっしゃいね。ここに来て、空を見上げたり大地を見下ろしたりしていると自分を見つめ直せますよ」
 
比嘉さんが案内してくれた丘や畑は私有地だが、八重岳ベーカリーでひと言お願いすれば、散策してもいいのだそうだ。

この場所は晴れた日はもちろん、靄がかかった日も、雨の日も、いつでも気持ちよく迎えてくれるはず。焼きたてのパンを買って、仲のいい友人や、大切な家族と、見晴らしのよい丘を目指して歩いてみるのはいかがだろう。
 
 
 
八重岳ベーカリー&八重岳ベストライフセンター
住所/沖縄県国頭郡本部町字伊豆味1254
電話/0980-47-5642
営業時間/10:00 ~ 17:00
定休日/土曜日
http://yaedake.com
 
沖縄CLIPフォトライター 福田展也

Information

沖縄県国頭郡本部町字伊豆味1254