琉球の文人はマルチリンガル!? 骨董で感じるオキナワ

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歴史文化

初回投稿日:2015.12.02
 最終更新日:2024.03.27

琉球の文人はマルチリンガル!? 骨董で感じるオキナワ

漢詩の掛け軸
 
トゥクヌメー(床の間)より、ぐぶりーさびら(御無礼いたします)! 威風堂々たるこの漢詩の掛け軸は、琉球王国を代表する書家・鄭嘉訓(てい・かくん 1767〜1832)によるもの。中国へ外交使節として赴き、書の修行を積んだ後、独自の書風を確立。薩摩藩の書の師範としても活躍し、書家としても著名な西郷隆盛にも影響を与えたといわれています。

漢詩の掛け軸
 
仕事柄、沖縄の古いものに接する機会が多いのですが、ウチナーンチュとしてこの島に生まれ育って四十有余年、つい最近初めて知った衝撃の事実がありました。画像にある3本の掛け軸。左から、琉球王国時代の文人で琉球使節として江戸を往復した魏学賢(ぎ・がくけん 1806〜1850)による漢詩。真ん中は、筆者未詳ですが、琉歌で詠まれた「てぃんさぐぬ花」。(沖縄民謡としてもよく知られる歌です)。右は、琉球王国最後の三司官(現在の総理大臣)で近世沖縄最大の歌人でもある、宜湾朝保(ぎわん・ちょうほ 1823〜1876)による「紅葉」を詠んだ和歌です。

布
 
そう!なんと琉球の文人(政治家である士族)たちは、3カ国語(中国語・日本語・琉球語)を自在に操るマルチリンガルだったのです!

漢詩の掛け軸
 
当時、海洋交易国家として栄えた琉球王国は、小さな島ながら、朝鮮半島や日本(大和文化圏)、中国、東南アジア諸国など十数カ国と外交関係を持つ、東アジア海域の中心でした。3カ国語を“話す”ことは、有能な外交官ならあり得るかもしれません。
しかし、“その国の文芸にまで通じる”ということは驚異的なことです。異なる文化圏の歴史や古典に精通していなければ、その国の言葉で歌を詠むことなどはできませんから。
すぐれた政治家は、真の教養を身につけた、すぐれた文人でもあるのですね。まったく目からウロコでございました。

堆錦や箔絵などの独特の技法が美しい琉球漆器
 
さて!前置きが少し長くなってしまいましたが(笑)、ここからは少し最近の私のお気に入りの“沖縄の古いものたち”をご紹介したいと思います。まずは、堆錦や箔絵などの独特の技法が美しい琉球漆器。琉球王国時代、漆器は大切な産業のひとつで中国や日本へも多く輸出されました。

「朱漆箔絵四方盆(しゅうるしはくえよほうぼん)」
 
こちらは、「朱漆箔絵四方盆(しゅうるしはくえよほうぼん)」。18世紀頃の作品です。首里王府には貝摺奉行(かいずりぶぎょう)という部門が置かれ、そこで漆器や絵画、染色が製作されていたそうです。

ゆうなの黄色い花が見事な菓子皿
 
ゆうなの黄色い花が見事な菓子皿は、惜しまれながら2001年に廃業した琉球漆器の老舗「べんぼう」のもの。戦後は、米軍人用の土産品としても人気を博しました。

台の上の小さな瓶たちは、「フチュクル瓶」
 
高さ2〜5cmほどの台の上の小さな瓶たちは、「フチュクル瓶」とよばれるもの。焼物で有名な那覇の壺屋(つぼや)焼のもので19世紀頃のものです。泡盛を入れ、祖先へのお土産として、死者のふところ(フチュクル)にしのばせたのだそうです。ミニマムなので狭いわが家のインテリアにも重宝。野の草花がよく似合います。

紅型のランプシェード
 
こちらの紅型のランプシェードはなんともノスタルジックなようでいてモダンなようで不思議な存在感が気に入っています。とある現代の名工の紅型作家さんの工房でぽつんと置かれていたのを譲っていただきました。聞けばやはり、復帰(1972年)前後、米軍の将校クラス向けのインテリアとして製作・販売したものだそうです。
 
芭蕉布に染められた紅型
 
そして、こちらの芭蕉布に染められた紅型は、骨董市でボロボロになって破れていたものを購入。表具屋さんに持ち込んできれいに修復・額装していただきました。
 
丁寧な説明書き
 
表には小さなプレートと裏には丁寧な説明書きがあり、「1972年5月15日の沖縄の日本復帰を記念して、在琉日本法人商工会議所が関係者向けに作成・配布したもの」であることがわかります。
 
紅型は、名渡山愛擴(などやま・あいこう)さん、芭蕉布は、人間国宝の平良敏子(たいら・としこ)さんによるもの
 
紅型は、名渡山愛擴(などやま・あいこう)さん、芭蕉布は、人間国宝の平良敏子(たいら・としこ)さんによるもの。当時はまだ無名だった平良さんの貴重な作品のひとつといえます。
 
現代の作家さんたちの新しい沖縄の工芸も大好きですが、古いものにはまた風情があってよいものです。時間の仕業にかかったなんともいえないゆたかさ、奥ゆかしさが佇んでいます。美術館や博物館でももちろん出会うことはできますが、街なかにある骨董屋さんなどもぜひ気軽にのぞいてみてくださいね。ガラス越しに見るのとは違う、“目で本物に触れる”楽しみが待っていますよ。

〜那覇の壷屋のおすすめ骨董屋さん〜 陶宝堂(とうほうどう)

住所 /
那覇市壺屋1-7-9
電話 /
098-866-2008
営業時間 /
10時00分~18時30分
Webサイト /
https://www.touhoudou-okinawa.com/
《骨董市&ショップ情報》
 
〜今年最後の大きな骨董市ですよ!〜
第5回 沖縄大骨董市Antique Festival
日時:2015年12月4日(金)〜6日(日)の3日間
   (10:00〜18:00)※最終日は17:00まで
場所:浦添市美術館ピロティー


※上記イベントは終了いたしました。
ご来場ありがとうございました。

沖縄CLIP編集部

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