沖縄観光情報:呼吸する彫刻、体温を持つ物体。アートユニット与太郎【前編】

呼吸する彫刻、体温を持つ物体。アートユニット与太郎【前編】

post : 2016.05.17 18:00

 
空が青くて空気が透明な初夏のある日、沖縄本島中部にある工房を訪ねたら、彫刻家のお二人がものづくりにいそしんでいた。
 
風がそよぐ木の下でザッ、ザッ、ザッと彫り進める。眩しい太陽をまろやかにする木の下で、ペッタンペッタンと捏(こ)ねていく。
 
 
 
奥山泉(おくやま・いずみ)さんと吉田俊景(よしだ・としかげ)さん。子どものように自由で伸びやかな感受性と、力強くて体温が感じられる造形力から生み出される作品は存在感がものすごい。知る人ぞ知る伝説の漫画雑誌『ガロ』にでも登場してきそうな作風は老若男女にかかわらず、見る人の好奇心を刺激する。
 
 
 
お二人が暮らしているのは1970年代~80年代に沖縄のあちこちに建てられたコンクリートの平屋のお家。そして、アトリエは庭先の桑の木の下。
 
「世界一広いアトリエって言えなくもないんですよね」と吉田さん。
 
取り囲む壁も、大空と大地から二人を隔てる天井も床もないアトリエはこの星の隅々とつながっているから、アトリエは地球サイズというわけだ。
 
 
この場所で仕事をしていると、色んな音が耳に聞こえてきたり、自然や生きものの営みが目に入ってくるのだそうだ。
 
たとえば、近所で誰かがピアノを爪弾くのが風に乗って聞こえてきたり、黄昏時にコウモリがどこからともなくやってきて庭木の枝にぶら下がったり。そういう何気ない生の断片が、奥山さんと吉田さんの作品のモチーフになったり、器に描かれる物語の登場人物になったりする。
 
 
奥山さんの作品によく登場するモチーフにヤギがある。ご存知のようにヤギは沖縄ではダントツに人気の高い家畜。ほとんどの家庭で飼われていたという昔に比べると数こそ減ってきたものの、眺めてよし、可愛がってよし、食べてよしの人気者であることに変わりはない。
 
 
奥山さんもヤギ好きの一人。お気に入りは近所でヤギを飼っているおじいさんと彼のヤギたち。暇を見つけてはデッサンに出かけ、おしゃべりするのが楽しみだという。たまに野菜をおすそ分けしてくれるそのおじさんは、生計を立てるためというより、ただただ可愛いいからヤギを飼っているのだそうだ。
 
 
そのようにしてこの世に産み落とされるものたちは、彫刻以外にも、カトラリーやお皿、Tシャツ、バッジ、オブジェなどさまざまだ。最近注目されているのが、読谷(よみたん)村にあるパン屋「水円」や、宜野湾(ぎのわん)市のごはん屋「米や松倉」などこだわりの店の看板だ。
 
 
「彫刻って食べていくのが難しいんですよ」
 
沖縄にある芸術大学の大学院を卒業して社会に出た二人は、いろんな種類のアルバイトで生計を立てながら、時間を見つけて作品を作り続けた。もちろん、二人の努力が基本にあるが、首里城の修復や中城(なかぐすく)村の遺跡の発掘に関わる仕事を通じて知り合った地域の人との交流が彫刻家として自立していく上で大きな後押しになってもいる。
 
 
ある時、龍を彫ってくれないかと地元の人から依頼が来た。北中城村の大城集落の公民館に飾るものだという。
「ナイチャー(県外出身者)の自分たちに地域の人たちが大切な仕事を託してくれたことが嬉しかった」という奥山さん。完成まで8年。その間、公民館での作品づくりがきっかけになって、地域に住む人たちとの絆が次々に育まれていった。
 
 
「がんばってるねー」、「お茶飲んでー」と知らない人が集まってくる。「おじぃ」は野菜や弁当を差し入れてくれたし、「おばぁ」は孫の自慢話や昔話を聞かせてくれた。度々やってきては二人が龍を掘る様子をじーっと眺める男性がいた。聞けば昔大工をしていたという。最初は恥ずかしそうに覗き見していた小学生も、そのうち声をかけてくれるようになった。
 
作品が出来上がった時、「どんな龍が出来上がるかねー」と楽しみにしていたお年寄りの何人かがグソー(「あの世」を意味する沖縄の言葉)に旅立ち、小さかった小学生はたくましい高校生になっていった。
 
 
龍の制作を始めてしばらくすると、こんどは地元の小学校の創立記念モニュメントを制作してほしいという話がきた。
モニュメントをつくるにあたって、学校に通う子どもたちにいろんなポーズを取ってもらってイメージを膨らませていった。
 
「モニュメントの制作を通して、小学生たちに彫刻ができあがる過程を見せることができただけじゃなく、子どもたちとのやりとりから私たち自身も美術の力をあらためて感じることができました」と奥山さんと吉田さんは当時を懐かしそうに振り返る。その頃関わりがあった小学生のなかには現在彫刻家を目指している子もいるそうだ。
 
 
龍やモニュメントを通して知り合った村人たちとの交流は、もちろんいまでも続いている。暮らしの中で生まれてくる地域の人とのつながりや、日々の暮らしでふと出会う何気ない自然の営み。沖縄からいろんな影響を受けながら、二人は見る人、触れる人の心に火を灯す、温もりのある作品をつくり続けている。
 
◯後編では実際に購入することができる二人の商品を紹介します。
 
 
アートユニット与太郎
住所/沖縄県中頭郡北中城村
 
沖縄CLIPフォトライター 福田展也 
 
 
《アートユニット与太郎の奥山泉さんが手がけた看板のあるお店》
外国の童話に出てきそうな天然酵母のパン屋さん「水円」 
おいしいごはんを食べるために外国からも訪ねる人がいる、米や松倉 
 
 
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Information

沖縄県中頭郡北中城村