沖縄旅行のガイド役としておすすめの二冊の本、『シマとの対話』と『前略 南ぬシマジマ[新・シマとの対話]』

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初回投稿日:2017.01.20
 最終更新日:2024.04.12

沖縄旅行のガイド役としておすすめの二冊の本、『シマとの対話』と『前略 南ぬシマジマ[新・シマとの対話]』

同じ場所を訪れ、同じ風景を眺め、同じ匂いを嗅ぎ、同じものを食べても、受ける印象が変わることがある。その時の気分や体調、あるいは、考えていることや関心のあること。そういうものに感受性が影響されるからだろうか。そして、旅先ではその違いがてきめんに現れるようにも思う。何となく受けとめていた風景や物も、ある時、輝いて見えたりする。対象の背景にある人の思いとか関係性とか歴史を知ったうえで、同じものを目の前にすると、違った印象を受けることがある。


『シマとの対話【琉球メッセージ】』という一冊の本

まずご紹介したいのは、沖縄の旅をひと味もふた味も違ったものにしてくれるだろう言葉と写真が収められた、『シマとの対話【琉球メッセージ】』という一冊の本だ。現代版組踊『肝高の阿麻和利』で知られる南島詩人、平田大一(ひらた・だいいち)さんと、沖縄CLIPを代表する写真家、桑村ヒロシ(くわむら・ひろし)さんとの共同作業から誕生した大人のための“絵本”は旅先で受ける印象をより鮮やかに、よりシャープにしてくれるだろう。

桑村ヒロシの写真
[写真提供:桑村ヒロシ]


遠い空の下で書くこの便りが
誰の元に届くのか僕は知らない
寒い空の下で頑張る君のもとに
必ず降りそそぐあの陽の光のように
届いてくれたらそれでいい

都会で暮らす見知らぬ誰か、出会ったことのない未来の友人。様々な人に宛てて書かれたような詩で始まるこの本には、愛するシマ(沖縄)との対話を縦糸にして、文章と写真との間に生まれる対話を横糸にして、一般的なガイドブックには書かれていない沖縄が、いきいきと綴られている。

ガジュマル
[写真提供:桑村ヒロシ]

例えばp16~19には二枚のガジュマルの写真がレイアウトされ、ユートピアについて書かれた自由詩が添えられている。そこに書かれたニライカナイ(海の遥か彼方にある異郷)と現実世界との対比を読むことで、読者が暮らしている場所と、旅先である沖縄の関係性と日常と非日常の関係性に想いを至らせることができる。そこに添えられた写真を心に刻むことで、亜熱帯の森や夜空や海を眺める目が、少し変わるかもしれない。

洞窟
[写真提供:桑村ヒロシ]

p24~26では島の哲人が小さな島と大きな世界との関係性を、障子の穴を引き合いにし、読み解く様子が紹介されている。小さな穴の手前からは大きな世界を眺めることができるけれど、その逆はあり得ないという話だ。

サバニのレース
[写真提供:桑村ヒロシ]

p54~56では島を吹き抜けるいろんな風が、p80~82には、かつて祖母から聞かされた蝶の話が登場する。このページを読んだ後、島を囲む果てしない海を遠くから渡ってきた風と、沖縄では神の使者だとされる蝶が、神秘的な存在に思えてくる。

また、斎場御嶽(せいふぁーうたき)やヤハラヅカサなど、南城市内に点在する聖地を巡る前に目を通してほしいのが、p88~90だ。『道標』と題されたこの一節には、平田さんが思うあの世とこの世の関係性が、さらりと書かれてあったりする。

大綱引き
[写真提供:桑村ヒロシ]

週に一度、一年を通して書き綴られた文章と、カメラで切り取られた沖縄の風景。そこで繰り広げられる「シマとの対話」は、今まで私たちが知らなかった沖縄の表情に気づかせてくれる。それは、ふたりが沖縄に根を張るように暮らし、自分のことのようにこの島々を大切に思っているからだろう。

桑村さんと平田さん

平田さんは、伝統と革新を上手に融合させた現代版組踊という舞台芸術を通じて、新しい沖縄文化を提供するなど、演出家として、あるいは詩人としての顔を持つ。また、沖縄県文化観光スポーツ部長を経験した後、沖縄県文化振興会の理事長を務めるなど公的なフィールドでも能力を発揮している。「人づくりのための文化・芸術、コミュニティの再生のための舞台」がいつも根底にある平田さんの活動からは、沖縄の未来を担う若い世代が着実に育っている。

『前略 南ぬシマジマ』の表紙

『シマとの対話』の続編となる『前略 南ぬシマジマ』の表紙には、桑村さんが那覇空港のすぐ近くに見つけたヒルギの写真が使われている。「目の前の課題をエネルギーに変えて未来を切り開くシマの力強さを象徴している」と平田さんは言う。「『シマとの対話』が沖縄のルーツや本来の姿にスポットを当て直したものだとすれば、新刊の『前略 南ぬシマジマ』はこれからの沖縄に光を投げかけたもの」だという。

二冊の本と一緒に沖縄を旅することで、県外に住むみなさんは、目の前の沖縄に故郷を重ねることで、あらためて自分の地域の将来を思い描くこともできるかもしれない。あるいは、今まで気づかなかった沖縄らしさを発見するかもしれない。


舞台での演劇
[写真提供:桑村ヒロシ]

「沖縄らしさは島々の伝統的な祭りの中にある」。桑村さんはそういうふうに考えているそうだ。「昔は当たり前だった共同体の姿をシマの祭りのなかに発見することができるんです。僕らが失ってきたかもしれない大切なものに気づかせてくれるんです。祭りを積極的に担っている人がシマの未来を背負っていくはずですが、今を生きている人たちの向こうには、シマを支えきた先祖の姿も見ることができるんです」。

ビーチ
[写真提供:桑村ヒロシ]

桑村さんは「沖縄本島や宮古島、石垣島といった大きな島だけでなく、その先にあるいろいろな離島にぜひ足を運んでほしい」という。そして、平田さんは「沖縄を形作っている様々な島で“ちゅら散歩”をぜひ楽しんでほしい」と考えている。

「島を歩くとそれぞれの島の風景が見えてくるんです。レンタカーではなく、足で歩くことで、島に住む人との間に対話が生まれてくるはずですから」。そうすることで「旅先の島に友だちができ、新しい家族ができる。お金を落としてくれる観光客ももちろん大切ですが、島に住む人と親戚付き合いをしてくれる人たちが今以上に増えてほしいと、僕らは願っているんです」。そのための指針となる“ガイドブック”として、『シマとの対話』は役に立ってくれるはずだ。

サバニ
[写真提供:桑村ヒロシ]

「沖縄らしさは生命力の豊かさにあると思うんです。生きるということを言葉で説明するんじゃなくて、身体で表現しているのが沖縄の人。生き死にに関する世界観、あの世に対する感覚、祈りの心に沖縄らしさがあるんです」。小さな島国である沖縄のさらに小さな島である小浜島で生まれ育った平田さんの感性は、本の中に忘れられない言葉となって息づいている。

シダ
[写真提供:桑村ヒロシ]

そして、平田さんの言葉を時に掘り下げ、時に広げるのが、桑村さんの写真だろう。「撮った写真は自分だけのものではないと思うんです。『撮らされている』と感じることも少なくないし、『自分の作品』という感覚が生まれてこないんですよ」と桑村さんはいう。『シマとの対話』の表紙を飾るガジュマルも、『前略 南ぬシマジマ』の表紙のヒルギの若木も、狙って撮りに行ったというよりも、何かに誘い出されたり、呼び止められるようにして出会った被写体なんです。そして、誘われるままにシャッターを切るわけです」。そういうふうに桑村さんが語っていること自体が、「シマとの対話」の一つのあり方なのかもしれない。

ハート形に番うトンボのカップル
[写真提供:桑村ヒロシ]

日没後の一瞬、条件がそろった時にだけ見ることができるグリーンフラッシュや、ハート形に番うトンボのカップルなど、偶然なのか必然なのか判断できない、絶妙なタイミングに桑村さんが居合わせることが少なくないのは、沖縄の自然や土地に対して、心が開かれているからなのだろう。

平田さんと桑村さん。タイプが違うおふたりのセッションを通じて形になった『シマとの対話』のシリーズには、沖縄との対話のヒントが隠されているのかもしれない。


シマとの対話【琉球メッセージ】
前略 南ぬシマジマ[新・シマとの対話]
著者/平田大一、桑村ヒロシ
発行所/(有)ボーダーインク
 

沖縄CLIP編集部

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