沖縄観光情報:タイトル/サバニが生まれるまで<最終回>キランニとサバニ帆漕レース

タイトル / サバニが生まれるまで <最終回> キランニとサバニ帆漕レース

post : 2017.08.15 21:00

 
<当コラムについて>
糸満(いとまん)のサバニ大工・大城清さんと高良和昭さんが、2017年7月2日に開催された「第18回サバニ帆漕レース」に出艇される自チームのレース用サバニを制作されていく様子を連載でお届けしております。詳しくは前回までのコラムをご覧ください。
 
第1回 ティーンダシ
第2回 ハラケーギ
第3回 ンニタミーンワジャ(前編)
第4回 ンニタミーンワジャ(後編)
 
 
光陰流水。つぎに、大城清さんと高良和昭さんが手掛けていたサバニを目にしたのは、「第18回サバニ帆漕レース」の前日、2017年7月1日、夏空が広がる古座間味(ふるざまみ)ビーチでした。スタート地点である慶良間(けらま)諸島に属する座間味島(ざまみじま)の古座間味ビーチには、レース前日の船検を受けるために、参加チームのサバニが次々と集まってきていました。私は慶良間諸島の阿嘉島(あかじま)のサバニチーム「阿慶座美陽(あぎじゃびよう)」のメンバーです。今年もサバニ帆漕レースに参加するために、阿嘉島からチームのサバニに乗って古座間味ビーチへ上陸しました。
 
 
目の前には、いくら見ていても飽きることのない、清々しいケラマ・ブルーが広がります。明日のレースに向けて練習している幾艘かのサバニが、コバルトブルーの海上を行き交います。毎年サバニ帆漕レースに参加している私たちにとっては、その風景は夏の到来を告げる風物詩。レースへの期待と緊張で、自然とチムドンドン、胸が高鳴ります。
 
 
自チームの船検が終わると、大城さんたちのサバニを探して古座間味ビーチを歩きました。スタート地点は、前年の順位でサバニが並んでいます。上位に向かって白い砂浜をホロホロと歩いていくと、無垢なサバニが一艘、異彩を放っていました。近づいて確かめてみると、それは、大城さんと高良さんが日夜コツコツと制作したサバニでした。帆も何もかも真っさらなサバニは「松助」と名付けられていました。工房内で材木の状態から眺めていたサバニが、大海原を疾走するために、いま、ここにありました。
 
 
レース参加者の人混みから高良さんの姿を見つけて、「間に合いましたね!」と声を掛けました。「フンルー(木片の留め具)も入っていませんし、まだ完成とは言い切れませんが、なんとかレースに間に合いました」と高良さん。キランニ(美しい船)松助の前で、大城さんと高良さんのチーム「エミ丸」のみなさんと記念撮影。いつも落ち着いた雰囲気の高良さんも、この日ばかりは少しテンションが上がっているように感じます。同じく大城さんもワクワクしているようです。かくいう私は、年に一度のレースが待ち遠しく(本当は心配で怖いけれど)、“血湧き肉躍る”という表現を使いたくなるほど舞い上がっていました。
 
 
2017年7月2日の朝9時、「第18回サバニ帆漕レース」がスタートしました。フェリーで約90分、およそ40キロの海上を36艇のサバニが、セール(帆)とウェーク(櫂)、風力と人力のみでゴールの那覇市うみそら公園海上を目指します。
 
 
この日は、2000年にレースがはじまって以来、もっとも過酷なレースとなりました。これまで経験したことのないような非常に強い向かい風のレースになってしまったのです。レース中、向かい風と流れに捕まってしまい二進も三進も行かなくなって、伴走船に曳航されていくサバニも何艇か目にしました。私たちのサバニは漕げども漕げども、遅々として進まず、苦戦を強いられていました。どれだけ時間が経過しているかなんて考える余裕もなく、とにかく前へ前へ進むことだけを考えてみんな必死でした。
 
 
しかし、明らかに制限時間内にゴールできないと判断した艇長は、リタイアという決断を下しました。スタート時点から私たちよりずっと前を走っていた「松助」の勇壮を目にすることもなく、私たちのサバニは曳航されて阿嘉島へ引き返しました。過酷なレースの結果は、1位「海想」(6時間32分20秒)、2位「チーム西表」(6時間51分25秒)、3位「黒潮」(6時間54分20秒)でした。制限時間7時間内にゴールできたのは、36艇中なんと、たったこの3艇だけ。気持ちの良い夏空でも、それほど条件の悪い厳しいレースとなったのでした。「松助」に乗り込んだ強豪チームの「エミ丸」も今回は制限時間内にゴールできなかったようでした。
 
 
レースの翌日、大城さんと高良さんにお電話してみました。
 
「スタート時はトップで、前島(まえじま)までは2番手でしたよ。コロ(滑車部分)が引っかかってしまって、セールがうまく張れませんでした。レースは何が起こるかわかりませんからね。みんな歯を食いしばってがんばってくれたし、良かったですよ。サバニの面白さをわかってくれたと思います」とレースを振り返る大城さん。「レースは3年分の練習量に相当しますからね。今回のレースでみなさん3年分の経験と成長ができたはず」という大城さんの言葉は、今回のリタイアが悔しくて悔しくてたまらない私には、あの苦しい時間は3年分に値するんだ、と励みになる言葉でした。
 
「レースがあるからこそ、ほかのサバニと比較ができて、サバニの性能の良し悪しがわかるんですよ。今回のサバニは、去年のサバニより速いです。レースでサバニの性能が確認できて大満足です。気持ち的には9割できていますが、フンルーも入ってない手抜き工事みたいなものですから、これから微調整をしながら丁寧に仕上げますよ。また来年が楽しみです」と言った大城さんと電話を終えました。
 
 
一方、高良さんは、「まさか向かい風になるとは思いませんでした。熱中症気味にもなりましたし、最後は力尽きてガス欠になってしまいましたけれど、6時間のレースをみんなよくがんばったと思います」とレースの感想を述べ、「素晴らしい船が生まれましたよ。速いサバニです。9割5分出来上がっていますので、これからフンルーを入れたりして、完成まであと少しです」と満足されているようす。そして、シンプルだけれど、すべてを表すひとこと、「サバニはサイコーです」とおっしゃいました。
 
 
おふたりと個別にお話して、「フンルーを入れ、微調整をして、完成まであともう少し」と、おふたり異口同音に発せられたのが印象的でした。レースに間に合わせるために突貫工事的に作られたサバニだけれど、中途半端なことはしない、という職人の誇りを感じさせられました。かつては海人(漁師)が漁に使い、島々を行き交う運搬船として活躍していた伝統サバニを、温故知新、目的に合わせさらに進化させるべく、大城さんと高良さんの挑戦はこの先も続くのでしょう。
 
 
 
<あとがき>
今回のサバニ制作工程をもっとじっくりと追い駆けたかったのですが、私自身もレースに参加する兼ね合いもあり、全工程を取材することは叶いませんでした。それでも、サバニづくりの片鱗に触れる機会をいただき、ものづくりの現場とサバニに、より興味を持てたことが嬉しく思います。感謝とともに、つぎのサバニ制作ではもっとしっかり現場に足を運びたいと思っています。ご自身たちもサバニを操るサバニ大工・大城清さんと高良和昭さん。月並みな言葉だけれども、本当にかっこいいです。大城さんたちが情熱をかけてつくるサバニ、ウェーク、セールをはじめとした優れた海の道具には、美しさがともなっています。これが機能美というものなのかもしれません。ひとが道具を使うとき、機能美を備えた道具は反作用的にひとの才能を発揮させることができるということを、おふたりと出会って知ることができました。大城さん、高良さん、ありがとうございました。
 
沖縄CLIPフォトライター 安積美加
   
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