旧盆ウークイのあとは「ヌーバレー」

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初回投稿日:2018.01.14
 最終更新日:2024.04.08

旧盆ウークイのあとは「ヌーバレー」


旧暦7月16日(2017年9月6日)、沖縄本島南部の東海岸に位置する南城市(なんじょうし)知念(ちねん)の安座真(あざま)区を訪れました。旧盆ウークイ(お送り)の翌日にあたるこの日、訪れたお目当ては「ヌーバレー」です。「ヌーバレー」とは五穀豊穣を祈るとともに、旧盆ウークイのときに帰りそびれた霊たちをグソー(あの世)へ送り返すための地域行事です。語源については諸説ありますが、「ヌー」とはイノー(礁池)の欠け口のことで、ここから文物のみならず、さまざまな霊も入って来るので、それらの霊を再びヌーから払う(バレー)ので「ヌーバレー」と言うそうです。ちなみに、八重山(やえやま)では旧盆後に無縁仏をグソーへ送る「イタシキバラ(イタツキバラ)」と呼ばれる伝統行事があるようです。

「ヌーバレー」が色濃く残る地域を有する南城市。なかでも、知名(ちな)、久手堅(くでけん)、安座真の3区が代表的です。市内最大規模でヌーバレーが行われる知名、組踊『鏡の割(かがんぬわり)』で知られる久手堅、ほかにも、獅子舞の当間(とうま)、古式エイサーの手登根(てどこん)、棒術で知られる津波古(つはこ)など、市内の各区で独特の伝統芸能がヌーバレーで披露、奉納されています。ヌーバレーの開催日は地域によって少し変わりますが、いずれも旧盆後に行われています。

南城市観光交流・防災機能拠点施設「安座真ムラヤー」の舞台

人口606人(2017年1月現在)の安座真区では、ヌーバレーは区全体の行事としては最大だそう。私は夕方5時に安座真に到着しましたが、この日は午後2時から、村の守護神を祀る神アサギで祈りが捧げられ、3時からはミルク様(弥勒様)とともに区内を練り歩く道ジュネーなどが行われたそうです。夕方6時前頃から、この日を心待ちにした区民の老若男女が、公民館的役割も兼ねているであろう南城市観光交流・防災機能拠点施設「安座真ムラヤー」に集いはじめました。ほとんどが地元区民の方のようです。ご家族ご親戚、友人たちと和気藹々とされているなか、ポツンと独りでいたためか、「あなたは安座真の方ね?」と尋ねられることもしばしば。地元の方から話しかけられると、一体感ある輪の中に少し入れていただいたようで、少し嬉しい気持ちになります。

区民の老若男女

18時20分頃、沖縄定番の「かぎやで風節」で幕開け。各ご挨拶、乾杯の音頭と続き、余興がはじまりました。「長者の大主(うふぬし)」を皮切りに、安座真を代表する伝統芸能や琉球舞踊、子どもエイサー、子ども空手、「南城市音頭」などの創作舞踊、民謡ショーなど、さまざまな芸能が披露されました。

余興

ステージに向かって「シタイ!(でかした!) 直美!」と個人名をあげて褒め称えたり、いいあんべぇに気持ちよく酔って囃子たてたり踊ったり、余興が終わる度に「アンコール!」と叫んだり。楽しい村祭りらしく、とてもアットホームな雰囲気です。

演目「谷茶前(たんちゃめー)」

今年の「安座真ヌーバレー」で披露された演目から代表して、「谷茶前(たんちゃめー)」と「鳩間節(はとまぶし)」をご紹介いたします。2つの演目は、各地の祭事や芸能公演、観光施設などで目にする機会が多いものですが、安座真では独特の表現が取り入れられおり、安座真を代表する芸能です。「谷茶前」は、漁村の若い男女の様子を軽快に表現する雑踊りで、一般的には、男性は櫂を、女性はバーキ(笊)を持って踊りますが、安座真では男性が本物の火がついた松明を手に6人の男女がリズミカルに踊ります。白い煙をあげて燃える松明を使う表現はかなりユニークです。

演目「鳩間節(はとまぶし)」

「鳩間節」は、伊良波尹吉(いらはいんきち)が八重山巡行の際に出逢った名歌「鳩間中森(パトゥマナカムリ)」を持ち帰り、大正初期に創作したとされる雑踊りです。ゆったりとした元歌から、テンポを上げ、日本舞踊などの手を入れつつ、沖縄芝居の世界で振り付けられてきました。安座真では、艶やかな蝶をあしらった衣装に独自の振り付け、囃子に「シタリヌヨイヨイ」と入るのが特徴です。

エイサー

青年会のエイサーから、大盛り上がりのカチャーシーを終えたのは、夜9時過ぎ。すっかり夜の帳がおりていました。区民のみなさんが足早にムラヤーを後にすると、役員さんたちや地謡のみなさん、主だった方々が、ムラヤーから近くの神アサギへ歩いて移動されました。

歌や踊り


後を追いかけてみると、神アサギに上がったみなさんはまず、無事にヌーバレーを終えたことを神々に報告し祈りを捧げました。その後は唄三線を皮切りに、ささやかな宴がはじまりました。神アサギでの小さな宴は、今年も無事にヌーバレーを終えられたことに安堵し、肩の力が抜けた、さらになごやかな雰囲気です。区の最大行事を終えた満足感からあふれる清々しい笑顔とともに、歌や踊りが絶え間なく披露されました。

三線の演奏

安座真青年会会長の屋比久大樹さんに、安座真ヌーバレーについてどう思われているのか尋ねてみました。「育ててもらった安座真なので少しでも貢献したいと考えてます。伝統芸能はまだまだ復活してないお芝居などもありますので、先輩達から受け継いでずっと残していきたいです。一番はみんなでがんばった後のビールが最高です! 自分二十歳から那覇に引っ越して結婚して子供が産まれて大変ですけど、やっぱり安座真の伝統芸能が好きじゃないとやってないはずですね」。いろいろとご苦労もあるようですが、「それでもやっぱり安座真が、安座真の伝統芸能が好きだから」と笑顔で語る屋比久さんから、生まれ育った安座真への想いがひしひしと伝わりました。

安座真青年会のみんな

区民のみなさんが心から楽しみにしている安座真区最大の行事は、伝統と創作が入り混じるヌーバレー。誰もが生き生きと演じ、観る人たちをこころから楽しませてくれています。屋比久さんのような熱い想いを胸に抱く若者たちがこれからもこうして伝統を受け継いでいくのです。
 

沖縄CLIP編集部

安積 美加(あさか みか)

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