コーヒーの栽培から、精製、焙煎、抽出まで。「コーヒーを0からつくるおもしろさ」を追求しているDONABE-COFFEE
コーヒーの栽培から、精製、焙煎、抽出まで。「コーヒーを0からつくるおもしろさ」を追求しているDONABE-COFFEE
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食べる
初回投稿日:2018.03.13
最終更新日:2024.03.27
最終更新日:2024.03.27
名護市(なごし)のほぼ中心部に「みどり」という名前のスナック街がある。ミードーリ(新しい通り)が転じて定着したといわれるみどり街だ。夜の町らしからぬ爽やかな名を持つこの場所に、『DONABE-COFFEE』という一風変わったコーヒー屋がある。ここで出されるコーヒーは名前の通り土鍋で焙煎したコーヒーだ。
焙煎を教わったコーヒー豆店で最初に覚えたのは機械焙煎で、自宅では手網で焙煎していたというオーナーの船田弘さんが、なぜ土鍋で焙煎を始めたのか? 理由は思っていたよりかなり単純だった。コーヒーが大好きな船田さんは1日に何杯もコーヒーを飲む。手網だと一度にローストできる豆の量が限られているから、煎ってもすぐなくなってしまう。どうしたものかと考えていたら、ある時何かが閃いたというのだ。「そうだ美味しいご飯を炊ける土鍋がある!」と(上の写真で船田さんが手にしている土鍋がまさにその時のもの)。
それで、試しにやってみたら、いい具合にローストできた。今までチャレンジした方法の中で一番美味しいと、本当に思えたそうだ。機械焙煎だと見ることのできない豆の変化を、土鍋なら好きなだけ眺めることができたというのもお気に入りポイントを高めたという。コーヒー豆の様子を観察しながら焙煎するのが何より楽しいという船田さんにとって、土鍋焙煎はまたとない方法だったのだ。
土鍋だと、いったいぜんたいどこがどう美味しくローストできるのだろう? 尋ねてみたら次のような答が返ってきた。「機械焙煎だと豆に含まれている水分が外に逃げにくいので蒸焼き効果で熱が伝わるといわれてますが、土鍋の場合は炭火焙煎と同じような遠赤外線効果で、豆の中まで火が通るんです。そういうことが影響して、さっぱりした口当りの豆に仕上がるんです。ファーストインパクトはそれほど強くないのですが、コーヒーの甘みとか旨みが後から伝わってくるんですよ」。
電気やガスが何かの事情で止まっても、土鍋方式なら、卓上コンロさえあればどこでも焙煎ができるのも船田さんには魅力のようだ。DONABE-COFFEEで飲めるコーヒーはこのように土鍋で焙煎されている。現在定番で扱っているのはインドネシアのマンデリン、ブラジルのピーベリー、そしてビターブレンド、サワーブレンドなど(いずれも300円)。深いコクと独特の後味で知られるマンデリンは日本では馴染みの深い豆。丸く大きく成長したピーベリーは香味が強いのが特徴だそう。また、「注文焙煎」としてカフェインレスや、その時々のオススメの豆を楽しめる。たとえば今だと、パプアニューギニアとミャンマーといった具合だ。
「色々な産地の豆を焙煎してきた結果です。結構大変なんですよ。あれもこれも、やりたいんですけれどね」と、本音を語る船田さん。ちなみに現在使っているこの土鍋は隣村の大宜味村(おおぎみそん)にある螢窯で特別に作ってもらったものだ。何度もやりとりして満足いく土鍋ができあがった。それでも、土鍋を使っての焙煎できるコーヒー豆は1回あたり700g。これは生豆の量で、仕上がりはおおよそ500gにしかならない。
そのほかのドリンクメニューは、ほぼ週単位で豆が変わるアイスコーヒー(300円)、徳島産の黒蜜を使った黒みつカフェオレ(350円)、コーヒーフロート(400円)、シークヮサイダー(350円)など。土鍋を使っているくらいだからコーヒーフロートに使っているアイスクリームもこだわりがあるんじゃないかと何を使っているか訊いてみた。
「レディーボーデンです」。少し意外な答にキョトンとして顔をしたからだろう。「原料がシンプルなハーゲンダッツも候補に入っていたんですが、昭和っぽい雰囲気の店なので、バニラ感が強いレディーボーデンを選びました」と、すぐに言葉が続けられた。
普段使いのコーヒー。船田さんが目指しているのは、たとえば仕事の合間に財布を気にせず飲めるコーヒーだという。「沖縄コーヒーをブランドとして育てたり、よりいいものを極めていく動きはもちろん必要でしょう。その一方で、価値が高まるにつれて価格が高くなるのは当然ですが、その結果、手が出ないという人も出てくるわけですよね。地元の人が自分が住んでいる場所の『いいもの』を味わえなくなるのは僕にとっては寂しいこと。だから、自分は誰もが飲めるコーヒーを選ぶことにしたんです」。
ちなみに船田さんはお店から車で30分ほどの今帰仁村(なきじんそん)に畑を借りていて、100本ほどのコーヒーを育てている。「以前はシークヮーサー畑だったんですが、10年くらい放置されていて…。直径30cmの木があちこちに生えていたんですよ。防風林に囲まれた場所で、ユンボ(ショベルカー)が入れなかったなので、ツルハシで少しずつ抜いてはコーヒーの苗木を植え、抜いては植えての繰り返しでした」。今でも週に二回か三回は畑に出かけて世話をする。夏に雨が降らない日が続くと毎日水やりをしなくてはならないという。農作物を育てるというのは簡単なことではない。
「それでも、やり続けているのは移住のきっかけになった3.11がある、普段使いのコーヒーにこだわる理由もそこにある」という船田さんが思い描いている理想の姿は、「自分の庭の片隅に何本かコーヒーの木を植えて、自分で育てたコーヒーを楽しむ人が増えていくこと」。「一部のセレブリティに高級豆を提供するよりも、『おじぃ』や『おばぁ』が自分の畑で育てて自分で飲むコーヒーを応援する方がカッコいいと思う」ようになったのも、やはり3.11のことが大きいのだろう。
3.11の後、沖縄に移住することにしたのはパートナーのまきさんが沖縄の出身だったから。お店の片隅でコーヒーを焙煎する船田さんの傍で、蛇の形の抜き型でサブレを作ったり、二人三脚でお店は切り盛りされている。2016年に商品化したオリジナルの「ハブサブレー」とその翌年に誕生した「こはぶちゃん」。今ではDONABE-COFFEEの人気商品に育っている。船田さんによると、明るい色の鳩サブレーが陽のサブレだとすれば、このハブサブレーは陰のサブレなのだそうだ。「鳩サブレーのファンなんです。会社の経営方針や地域貢献の姿勢が好きで」と船田さんは言う。
何でも2013年からの鎌倉市内の三つの海岸のネーミングライツを獲得した鳩サブレーの製造元、豊島屋本店は、どんな名前をつけようかと一般公募を実施したそうだ。一番多かったのは、「名前を変えてほしくない。今まで通りにしてほしい」という声だった。そこで社長さんは、名前を付ける権利をお金で購入したにも関わらず、由比ガ浜海水浴場、材木座海水浴場、腰越海水浴場のままで行くことに決めたという。その経緯を知ってから、船田さんは鳩サブレーにぞっこんになったのだそうだ。
「僕らは『普通の生活をやや面白く』という企業理念を掲げているんです。お客さんに笑顔になってほしいというのが僕らの考え方としてあって、ちょっと楽しいお菓子というか、クスッと笑ってもらえそうなお菓子にしたかったんです」。シークヮーサーの果汁が入ってコーヒーにもよく合う舌触り。DONABE-COFFEE以外では名護市役所と名護市内のお土産屋さんで購入できる。
DONABE-COFFEEではコーヒー豆も販売している。100gで450円から700円くらい。1,000円分以上買ってくれた人にはコーヒー一杯が無料で提供される。
船田さんは占いにも凝っていて、店内で1,000円分以上注文すると四柱推命占いを無料でやってくれる。メジャーレーベルからCDを発売したこともあるミュージシャンで、詩人でもあり、『コーヒーを飲みながら読む詩集【さなぎ】』の販売も行っている。
そういうユニークな船田さんが、同じくミュージシャンだったまきさんと、一緒に営んでいるDONABE-COFFEE。今はまだ、自分で育てたコーヒー豆を安定的に提供できてはいないけれど、沖縄の畑で育ったコーヒーを味わえる日が来るだろう。農園見学ツアーも開催しているので興味がある方はぜひ問い合わせを。
DONABE-COFFEE
- 住所 /
- 沖縄県名護市城1-22-32
- 電話 /
- 0980-52-5003
- 営業時間 /
- 11:00~18:30
- 定休日 /
- 日曜、祝日
- サイト /
- https://donabe-coffee.jimdo.com
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