沖縄独自の伝統工芸技法「堆錦(ついきん)」に触れる琉球漆器体験

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あそぶ

初回投稿日:2019.02.18
 最終更新日:2024.04.08

沖縄独自の伝統工芸技法「堆錦(ついきん)」に触れる琉球漆器体験

沖縄県内各地には、紅型(びんがた)、首里織、壺屋焼をはじめ、さまざまな伝統工芸がいまなお息づいています。

琉球漆器もそのひとつ。1300年代から始まった中国との進貢貿易とともに、「螺鈿(らでん)」、「沈金(ちんきん)」、「箔絵(はくえ)」など、中国漆器の技法を取り入れつつ発展した琉球漆器は、300年以上の歴史を有します。これらの技法は日本各地に伝わる漆器にも施されていますが、沖縄で考案された「堆錦(ついきん)」は、立体的な文様を表現できる沖縄独自の加飾技法です。


那覇市伝統工芸館前

那覇市国際通りに位置する「てんぶす那覇」2階にある「那覇市伝統工芸館」。こちらでは「琉球ガラス吹き体験」、「琉球びんがた体験」、「首里織体験」、「壺屋焼体験」、「琉球漆器・堆錦体験」の5つの体験工房が用意されています。今回はそのなかのひとつ、「堆錦体験」をご紹介いたします。


深緑色と黄色の2色の堆錦餅
 深緑色と黄色の2色の堆錦餅(ついきんもち)。

堆錦とは、漆と顔料を練り合わせた「堆錦餅(ついきんもち)」と呼ばれる餅状の材料を薄く伸ばし、それぞれの文様に切り取り、器物に貼り付ける加飾技法です。

「堆錦は1715年、首里の工芸技術者・比嘉乗昌(ひが・じょうしょう)が、漆を何十回と重ね塗りして厚みをつけた上に彫刻していく中国漆器の代表的な技法・堆朱(ついしゅ)をヒントに考案されたと言われています。堆錦は、沖縄独特であること、厚みがあり立体感があること、何枚でも上から重ねて貼れるという特徴があります。漆だけでなく、ガラスの上にものせることが可能で特許も取っていますよ」と堆錦の特徴を解説される与那国島出身の講師・後間義雄(こしま・よしお)先生。(※「沖縄独特の技法ですが、戦前、沖縄から宮崎へ疎開された方が堆錦をされているらしいです」と後間先生。ちなみに、沖縄県内で堆錦が使われているのは沖縄本島のみだそう。)


堆錦体験スタート

今回の堆錦体験は、用意された堆錦餅に、色付けをしたり凹凸加工を施し、ごーやーの文様に切り出して、漆塗りのコースターに加飾するコースです。

堆錦技法は、堆錦餅をつくりローラーで薄く伸ばす前半工程、堆錦餅を型取り貼り付ける後半工程と大きく分けられます。先生が前半部分を準備されるので、体験工房では後半部分を約1時間の工程で体験できます。完成した作品はその場で持ち帰ることができます。堆錦餅は1ヶ月ほど自然乾燥させれば固く仕上がります。

後間先生のご指導のもと、さっそく堆錦体験スタート。


堆錦体験

ごーやーの実となる部分と、葉になる部分の2色の堆錦餅が用意されています。白い顔料で下書きされているデザインの縁(ふち)をシーグ(小刀)でなぞっていきます。「つきたてのお餅のようにやわらかいです」と今回体験していただく森山亜希さん。


堆錦体験中

刃先が斜めになっているシーグでていねいに下書きの白線をなぞり、ボーガニー(棒金)で切れてしまわない力加減で葉っぱの葉脈をなぞります。


堆錦餅にごーやー表皮を表現
 ボーガニー(棒金)を使って堆錦餅にごーやー表皮のブツブツを表現します。

ごーやーと言えば、表面のブツブツが特徴。斜めに倒すように持ったボーガニーを転がしながら、ごーやーのブツブツをつくっていきます。ボーガニーを転がしていくと、だんだんブツブツらしくみえてきました。「へー、こんなのでブツブツが表現できるんですね!」と感心する森山さんと筆者。

珍しい作業を筆者も少し体験させていただきました。ん!? 指先を使ってボーガニーを転がすこの動き、意外とちょっぴり難しいかも?? 「先生、こんな動作は人生で初めてです。このテクニックは何と言うのでしょうか?」と尋ねてみました。「え?! うーん。とくに名前はないかなぁ」と先生。名前もつかない、職人さんにとってはテクニックとも呼べないような動作なのでしょうか。いずれにしても、このような動きは人生で最初で最後かもしれません(笑)。


先生からアドバイス

続いて、堆錦餅に刷り込むように顔料で色付けを行います。「ごーやーは熟すと黄色くなりますから、少し熟した部分も入れるとリアリティがでてきますよ」と先生。「なるほど。確かにそうですよね」と納得しながら堆錦餅に色付けをしていきます。


色付けができたら、余白部分を切り離す
 色付けができたら、余白部分を切り離します。

「40年ほど前は、琉球漆器といえば、堆錦が8割から9割を占めていました。いまはローラー(堆錦を伸ばす道具)がありますが、むかしは堆錦餅を手で伸ばしていたので、手のひらにタコができていましたよ。堆錦餅をつくる作業は難しく、現在、漆芸家は数えるほどです。後世に残すためには弟子を育てないと、と思っています」と漆器職人として55年以上の経験を有する後間先生。

体験作業中、後間先生とのゆんたく(おしゃべり)にも花が咲きます。後間先生は気さくなお人柄です。気になることはどんどん質問されてみてください。沖縄の伝統工芸や歴史への理解が深まりますよ。


楽しい堆錦体験

「すごく楽しい」と笑顔の森山さん。体験後、「すべての工程が面白かったです。とくに楽しいのは、堆錦餅を切り離すところでした。形が出てくるし、切り出したごーやーがコースターにのるんだと思うと感動です」と語られました。


堆錦体験

切り離したごーやーの実と葉を、黒い漆が美しく塗られているコースターの上にのせます。


堆錦体験

完成まであとひと息です。


ごーやーの堆錦餅を置いたら、しっかりと貼り付け

コースターにごーやーの堆錦餅をすべて置いたら、トレーシングペーパーをのせて、上からしっかりと貼り付けるように押さえます。「私たちはパラピン紙(ぱらぴんし)と呼んでいますが、今風だとトレーシングペーパーと言いますかねぇ」と後間先生。先生が経験を積まれてきた歳月と時代を感じます。


ごーやーの堆錦コースター完成

しっかりと貼り付けた後、トレーシングペーパーを一気に剥がし、コースターをきれいに磨いたら、ごーやーの堆錦コースターの完成です。森山さん、お疲れさまでした。


堆錦コースターの完成

「すごく楽しかったです。思ったより面白くて、思ったより難しくありませんでした。どうなっていくんだろう、という作っていくワクワク感がありました。不器用な人にもできるし、いい思い出になると思います。今後は工程がわかるからこそ、作品を観て楽しむことや作品の価値がわかるようになったと思います」と森山さん。

後間先生とのユンタク(おしゃべり)も楽しみながら、和やかな時間が流れるなかで、使うのがもったいないと思うほどの美しい工芸品ができあがりました。気軽に沖縄独自の伝統工芸技法に触れらて、形として思い出を持ち帰ることもできる堆錦体験、おすすめです。
 

那覇市伝統工芸館・琉球漆器体験 ※3日前までに要予約

住所 /
沖縄県那覇市牧志3-2-10 てんぶす那覇2F
電話 /
098-868-7866
定休日 /
水曜日
年末年始(12月30日~1月2日)
営業時間 /
10時00分~17時00分
体験受付時間 /
10時~16時(12時~13時は除く)
琉球漆器体験時間 /
1回目 10:00~ 2回目 13:00~ 3回目 15:00~

沖縄CLIP編集部

安積 美加(あさか みか)

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