捨てられた鉄に命を吹きこみ蘇らせるシマの鍛冶屋、カニマン鍛治工房

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歴史文化

初回投稿日:2015.02.01
 最終更新日:2024.04.11

捨てられた鉄に命を吹きこみ蘇らせるシマの鍛冶屋、カニマン鍛治工房

「ポケットには誰もがナイフをしのばせてたんだよね」

映画『スタンドバイミー』に登場するリバー・フェニックス顔負けの、

少年らしさを顔いっぱいに浮かべた元少年がぽつりと言った。

 

 

戦後まもない沖縄では、生きることは食べること、

暮らすことは自分で何かをつくることだった。

町なかや野原から使えそうなものを拾ってきては生活道具につくり変え、

おもちゃをつくり、楽器をつくって日々を過ごした。

知名定順(ちなていじゅん)さんもそんな少年の一人だった。

 

 

「中学生なんかはさー、アーミーナイフを持ってたわけさー。

うらやましくてねー」

子どもの頃から大のナイフ好きだった知名さんは

地元の博物館に勤めていた数十年の間に、

沖縄中の刃物だけでなく、県外の刃物を見て歩き、鍛冶屋を訪ね歩いた。

 

 

「ほら、ここ、先端が尖って、大きくカーブを描いてるでしょ。

魚とか、鶏や豚をさばくときにいいわけよ。

カーブをテコみたいに使えば硬い根っこも押し切れるんだよ。

平らなとこはねまな板用さね」

 

 

どこよりも鉄が貴重品だった昔の沖縄では、

一本の包丁で何役も兼ねていたという。

それが徐々に刺身用、肉用、菜っ葉用と細分化されていったそうだ。

 

 

知名さんの手にかかれば、自動車のスプリング材やトラクターの爪、

サトウキビのハーベスターの刃が包丁などの刃物に生まれ変わる。

鉄の種類は何種類もあるそうで、それぞれ性質も違うという。

性質の違いを見極めて、それぞれの特徴にあった刃物に生まれ変わらせるのが

この仕事の醍醐味なのだそうだ。

例えば、振り下ろして使うナタには衝撃に強いスプリングが、

草取り用のヒーラーにはすり減りに強いトラクターの爪がいいそうだ。

 

 

性質の違いを見極めるヒントの一つは火花の色。

鍛冶屋を始めて6年になる知名さんは、

自分なりに統計をとってきたおかげもあって、

ようやく見極めがある程度はできるようになったという。

 

 

今ではプレス機で型押ししてつくられるものが主流となって、

手作りの刃物は珍しい存在だ。

「形は悪かもしらんけど、切れ味はいいよ」

 

 

もち米を蒸して杵でついてつきまくってはじめて、

粘り気のある餅ができるように、

鉄を何度も叩き続けてはじめて、

粘り気のある、丈夫で切れ味の良い刃物ができるという。

手間ひまがかかるせいで、姿を消しつつある伝統の手仕事には

長い年月を生き残ってきただけの大きな価値があるのだ。 

 

 

「滑り止めとして大きなギザギザを刻んでいるこの柄はね、

沖縄独特の形なんだけどさ、握力が弱った高齢者とか、

視力が弱い人から使いやすいって評判なわけ」

沖縄に昔から伝わる伝統的な暮らしの知恵は

現代のユニバーサルデザインにそのまま使えるのだ。

自信満々に語る知名さんの口元がすこし笑った。

 

刃はもちろん、柄も手作り。

この世に一つしかない自分だけの刃物を探してみてはいかがだろう。


 

*カニマン鍛治工房の刃物は工房近くの松田販売店や未来ぎのざでも購入可能。


*柄の部分に使われるのは地元の木々ばかり。脂が多く水に強い琉球松や、

海岸線に育つ木ということでカヌーにも使われるというヤナブー、

白っぽい線香花火のような花でやんばるの森を彩るアディク(アデク)といった木だ。

カニマン鍛冶工房

1702960088213 /
沖縄県宜野座村字松田2629-10
1702960086878 /
098(968)8459

沖縄CLIP編集部

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