【連載】めぐり逢う沖縄の染め織り vol.1 紅型工房ひがしや

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初回投稿日:2023.06.17
 最終更新日:2023.12.08

【連載】めぐり逢う沖縄の染め織り vol.1 紅型工房ひがしや

沖縄の現代工藝ギャラリーのオーナーが県内の染め織り作家を訪ねて、作家との対話から魅力を発見するインタビュー企画。第一弾は染め織りの中でも人気の「紅型」の工房へ。

沖縄のやちむん、琉球ガラス、紅型など魅力的な工芸が集うギャラリーショップ「Galleryはらいそ」。そのオーナーで沖縄CLIPフォトライター・河野こずえが、沖縄各地に点在する染め織りに魅了され「沖縄の染め織りの魅力をもっとたくさんの人に広めたい!」という思いからはじまる、沖縄県内の染め織り工房を訪れる連載「めぐり逢う沖縄の染め織り」。初回は世界遺産に認定されたやんばるの森に佇む「紅型工房ひがしや」を訪ねてみました。

意外と知らない500年以上の歴史を持つ伝統工芸「紅型」

 

「紅型(びんがた)」

沖縄に訪れたら一度は目にするもの。空港やホテルなどの土産コーナーで色鮮やかな模様で型染めされたハンカチやエプロン、鞄などの小物たち。それが「紅型(びんがた)」です。可愛らしい柄の染め織りは、かつて沖縄が「琉球(りゅうきゅう)」と呼ばれ、一つの国だった頃から500年以上続く伝統工芸です(詳しくは「南国の風土から生まれた艶やかな色彩を奏でる『琉球びんがた』」をご覧ください)

旅行者にはお土産的なイメージの紅型ですが、琉球王国時代の王族や貴族だけが着用を許された高貴な着物でした。現代でも着物愛好家から「憧れの染め織り」として定評のある工芸品です。

「紅型工房ひがしや」の「紅型(びんがた)」制作

そして、県内には300年以上続く老舗工房から個人で制作する工房まで、多彩な紅型作家が各地に点在しています。

今回は沖縄本島北部「やんばる」の今帰仁村(なきじんそん)に工房を構える「紅型工房ひがしや」へ訪れ、おはなしを伺ってきました。

初めて紅型工房ひがしやの紅型の帯をみたとき、老舗の紅型工房で染められる艶やかな色使いと、伸び伸びとした躍動感のあるデザインが融合した独特な印象を受けました。一体、どんな背景を持つ方々なのか。とても興味を持ちました。


 

紅型で結ばれた「どさんこ」と「うちなんちゅ」夫婦

 

紅型工房ひがしやを営む道家良典(どうけよしのり)・由利子(ゆりこ)夫妻

紅型工房ひがしやを営む道家良典(どうけよしのり)・由利子(ゆりこ)夫妻。良典さんは北海道出身で草木染めや型染め体験をきっかけに染め織りの世界への興味を抱き、沖縄の紅型に出会います。「紅型三宗家」と呼ばれ琉球王府からの御用を務めていた工房の一つ「城間びんがた工房」で紅型を学びます。

城間びんがた工房といえば、和装を嗜む人たちにとって一度は帯や着物を着てみたいと夢見る憧れの工房のひとつ。16代に渡り300年以上続く歴史ある工房に身を置いた経験から得られる技や美意識は、ひがしやの紅型作品に少なからず影響しているはずです。「藍型(エーガタ・藍色で染める紅型)」や海をモチーフにした紅型から垣間見ることができます。

「藍型(エーガタ・藍色で染める紅型)」
(琉球藍で染める「藍型」の技法を城間びんがた工房で習得した良典さん)

一方、生まれも育ちも沖縄の由利子さん。那覇市の伝統工芸「首里織(しゅりおり)」の織子をしていた母親の影響から、幼少の頃より沖縄の工芸品に囲まれて育ちます。ものづくりに対する関心を深め染織科のある高校へ進学し、「染め」の世界へ。糸満(いとまん)の「びんがた工房くんや」で修行を重ねます。

びんがた工房くんやは、冝保聡(ぎぼさとし)さんによる紅型工房です。500年以上の歴史を持つ紅型の文脈を読み取り、伝統的な紅型から現代に生きる自身の作品に昇華した作風が特徴です。生地選びや色の置き方、図案の構成など徹底したこだわりに定評のある紅型工房です。

型彫
(作業中に流れていたBGMはもっぱら「折坂悠太」さん。型彫は「くるり」、染めの作業は「Vaundy」がしっくり来るとか(2023年5月現在))

SNSの「紅型コミュニティ」で出会うこととなった良典さんと由利子さん。修行先で紅型の技術を磨きながら、やんばるで工房をオープンしました。

「紅型工房ひがしや」の工房

現代の和装に合わせた帯や着尺の制作がメインの工房に身を置いた良典さんと、古典の奥深さを追求する工房に身を置いていた由利子さん。最初はお互いの勝手がわからず、意見の衝突も多かったといいます。手探りで制作をしながら対話を重ねるうちに「紅型工房ひがしや」のものづくりが確立していきます。


 

「かわいい」と「美しい」が行き交う「紅型工房ひがしや」の3つの取り組み

 

「紅型工房ひがしや」の紅型を着た写真

「古典紅型の世界の枠にとらわれず、二人ならではの 『現代の自由な紅型の世界』を目指したい」と語るお二人。生地選びや用途によって染めや作りも自由でありたいと話します。

「身近に触れられる」「沖縄文化に寄り添う」という軸から3つのブランドを展開しています。

①紅型工房ひがしや

紅型工房ひがしやの染め上がったばかりの名古屋帯「長浜ビーチ」
(染め上がったばかりの名古屋帯「長浜ビーチ」)

「紅型工房ひがしや」では着物の帯や琉球舞踊の衣装を手がけます。「伝統芸能に携わる若手の踊り子にはできる限り寄り添って沖縄の文化を残していきたい」と語る由利子さん。踊り子の声を聴きながら、一から舞台の衣装を作り上げています。

紅型工房ひがしやの魅力は、身近にある熱帯植物や浜辺の風景など、大自然のやんばるをモチーフに描かれるのびのびとしたデザインと色彩の豊かさ。彼らの紅型からは、描かれた海にそよぐ風や燦々とふりそそぐ太陽の光、芳しい花々の香りまで感じられることです。

初めてこの長浜ビーチを拝見したとき、色彩の多さと流れるようなイメージ、動きのあるデザインに驚きました。紅型工房ひがしやの帯は、スタンダードな帯のしめ方である「お太鼓(帯を結んだ時に背中に出る部分)」の限られたスペースを使うのがとても上手です。ともすると均一的な柄に落ち着きがちな型染めを、型染めらしからぬ躍動感をみせていくところが、お二人ならではの個性と技術。見るたびにため息をついてしまいます。

「ポイント帯(六通帯:全体の6割程度模様が施されている帯)」という、お太鼓と胴の前の部分のみを染めた、手に取りやすい価格のラインナップがあるのも魅力の一つ。初めて紅型の帯を使ってみたい、という方にもおすすめできます。


②南の島の布紀行いろいろ

紅型シーサーのおきあがりこぼし

「南の島の布紀行いろいろ」は紅型シーサーのおきあがりこぼしや、「桃の節句」「端午の節句」「クリスマス」といった行事タペストリーなど、身近なアイテムを展開するブランドです。

サイズもコンパクトでお土産として手に取りやすいアイテムながら、伝統的な技法が散りばめられた一品ばかり。はじめての紅型としておすすめです。「帯や衣装と同じ情熱を持って制作しています」と語る良典さん。


③ー花色ーhanairu

紅型の琉装(りゅうそう:帯を使わずに着用する沖縄に伝わる着物)

紅型の琉装(りゅうそう:帯を使わずに着用する沖縄に伝わる着物)を着て撮影するサービス「花色(はないる)」。「レンタルでも本物に触れあい、小さい頃から沖縄の伝統文化に出会ってほしい」。いずれは工房で着付け体験もしたいと夢を膨らませています。


 

作り手と売り手が考える紅型の魅力とは?

 

「紅型工房ひがしや」の紅型

「紅型の魅力は色の存在感。 友禅や草木染めでは表現できない、顔料ならではの色の厚み。そこに沖縄の自然光が合わさったときの美しさにあると思うんです」

そう語る良典さん

「沖縄の人は着物を持っていなくても、紅型を知っている。そしてアイデンティティとして大切に思っている。それが伝わってくるので作り手として嬉しい。お客様が袖を通したときの満足した表情を見ると、とてもやりがいを感じます。沖縄の人たちが大切にする「紅型」に携わることで幸福感がある。紅型に限らず、沖縄の風土から生まれる工芸品を、たくさんの人に知ってもらいたい」

と由利子さんは語ります。

そして二人とも声をそろえて「染めてると元気になるんですよね」と笑顔になる姿が印象的でした。

ライフスタイルが西洋化へシフトし和服の需要が激減したことで、日本の染め織りは伝統工芸としての存続も先行き不透明です。そんな厳しい状況でも、沖縄の紅型は豊かな色彩と自由なグラフィックで現代の暮らしに寄り添うアイテムとしてポテンシャルがあります。

季節ごとに染められる「桃の節句」「端午の節句」「クリスマス」などの行事に合わせたタペストリーはGalleryはらいその店舗やオンラインで人気の商品です。

晴れの舞台で身に纏う「着物」。初めての紅型として持ち帰れるシーサーの置物やタペストリーで暮らしに色を添える。そして、紅型の琉装に袖を通す感性豊かな体験。夫婦それぞれの背景にある紅型の系譜が一つになり、工芸の未来に灯火をつける。それは、良典さん、由利子さんの二人の情熱がなせた技なのでしょう。


 

年に一度、沖縄の染め織りが集う展示会「めぐり逢う沖縄の染め織り」

展示会のポスター

毎年6月の後半に東京日本橋で、Galleryはらいそが企画する展示会「めぐり逢う沖縄の染織り」が開催されます。紅型、首里織、芭蕉布、宮古上布、竹富ミンサー、琉球藍など、沖縄の多彩な染め織りが丸善3階ギャラリーに集まります。沖縄の染め織り作家が1年かけて制作した新作をお披露目。毎年新潟や北海道、愛知県など遠方からこのイベントを楽しみにいらしてくださる方もいらっしゃいます。

沖縄にとって大切な「慰霊の日(6月23日)」を挟んだ1週間、沖縄の工芸を紹介していくイベントです。紅型工房ひがしやも参加が決まっています。沖縄でもなかなか見ることができない染め織りが一同に会する「めぐり逢う沖縄の染織り」をどうぞお楽しみに。

沖縄の染め織りが買えるイベント

Galleryはらいそpresents めぐり逢う沖縄の染め織り
【場所】丸善 日本橋店 3皆ギャラリー
【会期】2023年6月21日(水)〜27日(火)

※工房、イベントに関するお問い合わせ先
Galleryはらいそ
 

Galleryはらいそ

住所 /
沖縄県うるま市石川曙1-9-24
電話 /
098-989-3262
HP /
https://haraiso.gallery

monobox(河野哲昌・こずえ)

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