ネイティブ・オキナワンとの出会い:その3

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歴史文化

初回投稿日:2015.09.16
 最終更新日:2024.03.27

ネイティブ・オキナワンとの出会い:その3

 
6月から続いているこのコラム(「ネイティブ・オキナワンとの出会い」)もいよいよ今回で最終回。インタビューの最中、古我知毅(こがち・つよし)さんから発せられた言葉の中で特に印象的だったのが、「沖縄的でいることって大事だね」というシンプルなひと言だった。
 
人や物や土地を魅力的だと感じたその時に、その「感じ」を言語化しようとすると、美しいとか、味わいがあるとか、可愛らしいとか、そんなふうになりがちだけど、何かを美しいと感じる時、その背景には、必ずと言ってよいほど、その人やその場所にしかない「らしさ」(何かオリジナルなもの)がある。
 
「自分を持てれば世界が広がるんだよね」
 
東京という異郷で沖縄と深く向き合うことになった古我知青年は、見知らぬ場所やまだ見ぬ人との出会いを通じて、人生の基本的な原理を発見した。
それは、伊波普猷が好んだニーチェの言葉「汝の立つ所を深く掘れ、そこには泉あり」とぴったり重なっているようにも思える。
 
北海道、インド・ネパール、東京、屋久島。それぞれの場所で地球とつながって生きている魅力的な人たちと出会うことで、沖縄という大地に根を下ろして、自然との関わりの中で生きていくことが自分の生きる道だと確信したのだろう。
 
沖縄に帰ってからは兄の古我知浩さんが立ち上げた沖縄リサイクル運動市民の会を手伝った。その後は、ペンキ屋で2年ほど働いた。とある現場で出会った大工に惚れ込んで「弟子入り」することになった時「沖縄的な人生」が始まった。
 
工房「地球のかけら」の椅子やテーブルなどの家具
 
そして今、工房「地球のかけら」を主宰して、椅子やテーブルなどの家具から住宅の内装まで手がける職人として活躍中。
 
工房「地球のかけら」のテーブル
 
工房「地球のかけら」の椅子
 
特徴的なのは端材や流木を使ったクラフトや古材と廃材の独特な木肌を活かした家具。例えばそれは、畑の畔道に敷いてあった木の板を利用した椅子だったりする。
 
雨風に晒されて柔らかい部分が時間とともに朽ちていくことで生まれる「でこぼこした感じ」をそのまま活かした椅子はまるっきりの一点もの。工房に置かれたこの椅子は一つ一つの生命がかけがえのないものであることを静かに語っているようにも見える。
 
端材や流木、古材、廃材
 
「小さい仕事は大きい仕事に活かせるし、大きいものは小さいものに活かせるんです」
素材が持つ魅力を最大化する方法は設計士の図面通りに仕事しなくてはならない内装仕事や建具の仕事にも活かされているのだそうだ。
 
「木肌が見せる独特の表情を表に出すことで、壁や床も表情がイキイキしてくるでしょ」
 
独特の視点と「見立て・使いこなし」の技術は、古我知大学に在学している時に体験した旅を通じて獲得したそうだ。古我知さんがつくりだすもの達に共通する世界観はそこから生まれているのだという。
 
環境教育施設「森の家みんみん」のスッタフとして子供の手伝い
 
そして、旅がもたらしたもう一つの贈り物は環境教育のファシリテーターとしての顔だった。旅で見つけた種は20年ほど経ってから芽を出した。契機になったのは、大工としての人生を歩み始めて10年ほど経った頃に訪れた新たな出会い。
子どもたちが自然と触れ合ったり、環境との関わり方を学ぶための環境教育施設「森の家みんみん」でのスタッフとしての経験が、「ものをつくる自分」に「木の良さを伝える自分」を新たに付け加えた。
 
環境教育施設「森の家みんみん」のスッタフとして子供の手伝い
 
子ども達を対象に木工のワークショップ
 
「愛の反対は無関心」というマザー・テレサの言葉を座右の銘の一つにしている古我知さんは、子ども達を対象に木工のワークショップにも意欲的に取り組んでいる。
「たとえ数時間だけの体験だったとしても、命に触れるこの体験が記憶のどこかに残ってくれさえすれば、自然や生きものの生命の重さに思さを感じ取れる大人になってくれるかもしれないよね」
木に触れることで生まれてくる興奮は、木を育む森と川の関係や、もっと大きな人と自然の関係にやがて子ども達の目を向かわせるだろう。
 
木端(こっぱ)を使った立体壁画ワークショップで作成のユニークな鯉のぼり
 
ユニークな鯉のぼり
 
今年のゴールデンウィークには20人ほどの親子が集まって木端(こっぱ)を使った立体壁画ワークショップを開催。完成したのはユニークな鯉のぼりだ。
 
大人と一緒になって、しかも対等にものづくりをする体験は子ども達への大きなプレゼント。
 
「小さな木片を使っての造形では技術というより感性が求められる。だから子どもも大人も同じ土俵の上でものづくりを一緒に楽しめるし、かえって子どもの方が能力を発揮できるんだよね」
 
木の肌触りや匂いを直接感じながらのものづくりは、子ども達だけでなく、大人の感性をも刺激する。
 
広場のツリーハウス
 
久しぶりに訪れた工房では学童保育の子どもを招いてのワークショップが開催されていた。
 
飽きた子は広場のツリーハウスに決まって登るのだそうだ。木の幹に触れたり、高みからの風景にワクワクした子どもはやがて元の場所に帰っていく。
 
ここで、古我知さんに出会った子ども達は将来どんな大人になるのだろう。覚えていないだけで、自分にもこんな体験があったのではないか。子ども達のイキイキした顔を眺めながらふと思った。 
 

工房地球のかけら

住所 /
〒901-0404 沖縄県八重瀬町高良338番地
電話 /
090-9782-7312

沖縄CLIP編集部

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