沖縄の本島南部の美しい自然が詰まった紅型絵本「やどかりの夢」

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歴史文化

初回投稿日:2016.03.18
 最終更新日:2024.03.27

沖縄の本島南部の美しい自然が詰まった紅型絵本「やどかりの夢」

クワズイモ、アダン、モンパの木…。色鮮やかな沖縄本島南部の自然がたくさん詰まった、沖縄の伝統文化である紅型を用いてつくられたやどかりの絵本。絵本作家、やらだ出版主宰の渡邊直加さんと紅型作家で雑貨屋・虹亀商店を経営する亀谷明日香さんが製作したCD付き絵本「やどかりの夢」が今、話題を呼んでいる。

絵本「やどかりの夢」
 
海にいるやどかりたちは毎日、前の晩に見た夢について語り合うのだが、ある日貝を引っ越したやどかりは夢を見ることができなくなってしまった。実はやどかりが貝だと思って入った宿は、人間が捨てたペットボトルの蓋だったのだ。村の長老やしがにお爺は、夢が見られない原因は蓋の宿だからではないか、という。けれどみんなの愛とイマジネーションで、その蓋やどかりは、蓋の宿のまま夢をもう一度取り戻すことができたのだ…。
 
全編紅型で製作される絵本というのは珍しい。紅型は高価で時間もかかりそれをページ数の多い「絵本のイラスト」として使用するのはハードルが高いのだが、なぜそんな事が実現したのだろう?
 
紅型
 
作者の直加さんは奈良県出身。前作の久高島に縁をいただいた絵本「ぼくはうま」のお礼の為に来沖したのが、2015年の3月だった。その際に初めて出会った人に、「あなたはやどかりみたいな人だねー、やどかりのお話を書きなさい」と突然言われたのだ。最初はいくらなんでもそんな偶然の流れだけで絵本を書くことを決めるのは良くないと思い、少し余った時間で貝拾いをして、そこでやどかりに出会えたら書いてみようと決めた。
 
すると貝拾いの最後に手にとった貝が小さなやどかりだった。そこに運命を感じ、こうなったらやどかりのお話を書くしかないとおもっていたところ、ユキさんという女性に出会った。彼女が斎場御嶽(せいふぁーうたき)で工房アマムという雑貨屋を経営しているので、旅の最後にお土産を買って帰る為にそのお店に立ち寄ると、そこには亀谷明日香さんが製作した色鮮やかな紅型の雑貨がたくさんあり、まさにやどかりの絵本に理想のイラストだ!とピピっときたそう。とはいえ紅型が高価な物だと知っていた直加さんはいきなり頼むこともできず、こういうイラストが理想的なんだよね、という話をしていたら明日香さんからずっと絵本のイラストを描きたいと聞いていたユキさんが明日香さんに話をつないでくれ、運命の出会いを果たした。

出版記念イベントで影絵と舞踊の講演をする小谷野哲郎さん、絵本作家・渡邊直加さん、紅型作家・亀谷明日香さん
写真左から出版記念イベントで影絵と舞踊の講演をする小谷野哲郎さん、絵本作家・渡邊直加さん、紅型作家・亀谷明日香さん
 
絵本に付属するCDには三線奏者でもあるユキさんや、沖縄で音楽活動をしているハルコニーさんが参加。まるで引き寄せられた糸のようにそれぞれのやりたかったことが重なりあい、あっという間に話が進んでいった。その後の1年間の多くの時間を沖縄で過ごした直加さんは、アイデアが溢れて興奮しっぱなしだったという。絵本をつくるということだけしか考えていなかったのに、協力してくれる素晴らしいクリエーターがどんどん集まってくるという予想以上の展開で、日々驚きの連続だった。絵本の中でやどかりがイマジネーションで自分の夢を実現したことは、直加さんが実際に体験したものだ。
 
人間が残したゴミや、やしがにお爺が体験した暗い時代など、絵本の中には沖縄の環境問題や歴史問題が読み取れるようなエッセンスもある。けれど何かひとつのことを限定的に伝えたいと思って作ったのではなく、直加さん自身が沖縄にいて実際に目にしたもの、出会った物をつなぎ合わせたら自然とできあがっていったものだった。

絵本「やどかりの夢」
 
「絵本からどんなメッセージを受け取るかは読む人それぞれに考えて欲しいけれど、あえてフォーカスするならイマジネーションが現実をつくっていくということかな。信じて夢をみて、やってみると意外とどうにかなるものです。そんなことがみんなにも起こる、この本を作った時みたいに。特に沖縄には島の持つパワーみたいなものがあって、そういうことが起こりやすい気がする」
 
伝統的な沖縄文化の紅型が、子どもにもわかりやすく手に取れる形になったのも嬉しい。もちろんそれを読み聞かせている大人にも入ってくるメッセージはあるし、絵本にはどんな人にも響くマジカルな魅力がある。そして付属のCDには南城市にある湧水、垣花樋川(かきのはなひーじゃー)や波の音が全編に入っていて、視覚でも聴覚でも沖縄を感じられるつくりになっている。
 
紅型の鮮やかな色を紙の印刷物に忠実に再現することにも苦労した。特に難しかったのはマットな質感と風合いのある紙にこだわったり、草木染めの色が沈まないようにすること。印刷所に何パターンも見本を出してもらい、修正を繰り返して最終的に完全に納得できる色が表現できた。
 
素晴らしいクオリティーで完成された絵本は、県内の大手書店、雑貨屋や一部県外の書店でも購入可能。また、絵本を置いてある県内の書店や雑貨屋では、絵本の中に使われている絵柄をモチーフにしたグッズも購入することができる。沖縄の海の世界観をぎゅっと詰め込んだ絵本と雑貨を手に入れたら、帰ってからもさざ波の音が聞こえてくるような気がする。

絵本「やどかりの夢」と他の商品
販売店、その他本に関する情報はやらだ出版、または虹亀商店まで。

型紙
 

沖縄CLIP編集部

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