幸せを運ぶ帆掛けサバニ《ヘントナサバニ》

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歴史文化

放送日:2023.12.18 ~2023.12.22

初回投稿日:2024.01.10
 最終更新日:2024.03.27

幸せを運ぶ帆掛けサバニ《ヘントナサバニ》

人生を変えたサバニとの出会い

穏やかな塩屋湾に、小さな木造の舟が浮かんでいます。近づいてみると、それはハーリーでお馴染みのサバニでした。羽のように生えた白い帆が風に揺れていたので、いつもと違って見えたのです。
この帆掛けサバニを作っているのは大宜味村宮城にルーツを持つ邊土名徹平(へんとなてっぺい)さん。石垣島の船大工のもとでサバニづくりを学んだサバニ職人です。

サバニ職人の邊土名徹平さん

「今年40歳になります。22歳まではメロディックパンク系のミュージシャンをしていました。バンドが解散となった際、私は観光業の道に進みました。その後沖縄を離れ、日本からも離れて生活する中で気づいたんです。綺麗な海や心地良い気候があたりまえではないということを。やっぱり生まれ島が好きだったんでしょうね。あらためてこの生まれ育った沖縄に何か貢献できる仕事がしたいと思うようになりました」
その後邊土名さんは32歳で石垣島に移り、旅行会社の仕事に就きました。そんな中運命の出会いが訪れました。​​​​​​​

サバニの帆を確認する邊土名徹平さん

サバニの帆

仕事の打ち合わせのために、船大工の吉田さんの元へ初めて伺った際、『海に浮かんでいるサバニを見に行きますか?』と石垣島の静かな浜辺に連れて行かれました。そこに浮かぶサバニを見て一目惚れしたそうです。「なんて美しい舟なんだろう。自然の風景に自然素材でできた舟が溶け込んでいる」一生の仕事にしたいと、このとき邊土名さんは決意しました。

海に浮かぶサバニ

サバニを通して先人の知恵を伝えていきたい

「木の舟が風で進む。素材も動力も地球からの贈り物。その心地よさ。沖縄には空手や三線などたくさんの伝統文化がありますが、私にとってはこのサバニなんだと。パズルのピースがはまった感じがしました」サーファーであり、海に潜ることが好きな邊土名さんにとって、海は馴染み深い世界。

サバニの帆を操る邊土名さん

「現代のマリンアクティビティのほとんどは海外発祥のもの。沖縄生まれのサバニがアクティビティになるのはすごくクールだなと。先人の知恵を後世に繋いでいく一役を担いたい。必要なのは熱意と覚悟。自分にはきっとできる」美しい舟とその舟をつくった方を目の前にしたとき、決して簡単なことではないが自身の努力次第で必ずできるという確信が生まれたそうです。

サバニを動かす邊土名さん
 

サバニは幸せを運ぶ舟

「サバニに出会って豊かな人生を送れるようになった自分がいるので、ほかの人にもサバニの魅力に出会うことで今以上に幸せになってほしい。そういう思いで、小さな子どもから気軽に楽しめるツアーを行っています。サバニを通じて海と出会い直す。風を感じて自然とつながり直す。参加してくださった人たちの人生がより良い方向に進んでいく。そういうきっかけになったら嬉しいです」
実際に何かが変わったという人も少なくありません。それまでサバニを知らなかったご夫婦がツアーに参加、サバニの魅力にすっかり取りつかれました。「かわいい孫をじーじの舟に乗せたい」と、邊土名さんにサバニの製作を依頼しました。

サバニを制作

サバニの材料を削る作業
 

サバニが運んだ不思議なご縁

「師匠の吉田さんが暮らしている村は、私の祖父達が開拓した村の隣村で、同じく開拓の村だったんです」
戦後、琉球政府が八重山への移民を奨励していた頃、邊土名さんの祖父、朝興さんは開拓移民約350人を率いて石垣島に渡りました。
「朝興の孫というだけで現地の皆さんが温かく接してくださったんです。血がつながっているということだけで良くしてもらえて自分は恵まれていると感じました」
それまで、祖父が石垣で開拓団長として活動していたことなど詳しく聞かされたこともなく、ほとんど知らなかったという邊土名さん。
「先祖に導かれて石垣に来たんだと思いました。祖父と同時期に大宜味から移住してきた方に言われたんです。『大宜味村があなたの故郷だから、そこでサバニをやったら素晴らしいよ』と。その時はまだどこで独立開業するか決めていなかったので、このひとことが背中を押してくれました」

サバニ制作の作業

サバニを制作する邊土名さん

大宜味村宮城に工房を構えようと決心してから、下調べのために集落内を散策していたときのことです。邊土名さんは集落にある商店に立ち寄りました。ふとした会話から名前を名乗ると、「私も邊土名だよ」とお店の人が言ったそうです。「おじぃの名前は?」と聞かれ、「朝興です」と答えると、予想だにしない言葉が返ってきました。「あなたが今立っているこの場所は朝興さんの屋敷があったところだよ。屋号は『チョーコーヤー』というんだよ」見えない力に導かれていると、この時も感じたそうです。

小さな子供とサバニに乗船

手渡され続けるバトン

「『娘に自然と触れ合う機会を与えたい』という希望を持つご両親と一緒にサバニツアーに参加した小さなお子様がいたんです。最初は緊張している様子でした。帆とつながるロープを持って風の力を体感してもらったり、エーク(パドル)を使って漕いでもらったり。そうすると、積極的になっていくんです。その子が浮かべる表情とそれを見守るご両親の顔。次の世代にサバニの魅力を感じてもらえたんだなぁと私も嬉しくなりました」
サバニのおかげで自分が幸せになったからこそ、その魅力を伝えることが自分の使命だと、自然に思えるようになったのでしょう。

「私は、サバニが幸せを運ぶ船だと信じています。自分自身の経験や、サバニに関わる周りの方々が幸せになっていく様子を見て、たくさんの人にサバニを通して得られる幸せを感じてほしい。と考えるようになりました」
サバニの魅力をより多くの人に、とりわけ未来を生きる次の世代に伝えたい。そういう思いを胸に、今日も邊土名さんは木を刻みサバニづくりに励んでいます。
 

ヘントナサバニ

住所 /
沖縄県国頭郡大宜味村宮城365-3
TEL /
090-9787-7926
営業時間 /
8:00~20:00
定休日 /
年中無休
Webサイト /
https://www.hentonasabani.jp/

沖縄CLIP編集部

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放送日:2023.12.18 ~ 2023.12.22

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