沖縄観光情報:<沖縄の伝説・歴史ぶらり歩き>霊験あらたかな嘉手納町の「屋良ムルチ」【PR】

<沖縄の伝説・歴史ぶらり歩き> 霊験あらたかな嘉手納町の「屋良ムルチ」【PR】

post : 2019.03.16 15:00

沖縄本島中部に位置する嘉手納町(かでなちょう)。バス停「嘉手納町運動公園入口」を降りると、「道の駅かでな」の建物と、大きな龍のモニュメントが目に入ります。「なぜこんなところに龍が?」と気になって近づいてみると、モニュメントの台座に、「屋良(やら)ムルチ伝説」が記されていました。

道の駅かでな


<屋良ムルチ伝説>
義本王(ぎほんおう)の時代(1249~1259年)、北谷間切屋良村の漏池(ムルチ)という古い沼に大蛇が棲んでおり、暴風を巻き起こしたり、農作物を喰い荒らすなど、住民に禍を及ぼしていました。

あるときユタ(霊能者)が「大蛇を鎮めるには童女の人身御供を捧げよ」と告げたため、童女の人身御供を募りました。そこへ、とても貧しい親孝行な娘が人身御供に志願してきました。

生け贄儀式の最中、大蛇が姿を見せ、いよいよとなったときのことです。娘の強い孝行心が天に届き、神様が現われ大蛇を退治してくださりました。おかげで孝行な娘は無事でした。

その話を聞いた義本王は、娘の孝行心にたいへん感心し、娘にたくさんの褒美を与えました。そして、娘家族は末永く幸せに暮らしました。

この伝説を元に作られた組踊が玉城朝薫(たまぐすく・ちょうくん)作の「孝行の巻」です。「二童敵討」や「執心鐘入」などとともに、組踊の「五番」と呼ばれています。
<監修・伊波勝雄氏> 


屋良ムルチ

屋良ムルチは、バス停から県道74号線を東に向かって歩くこと約10分。右手には基地、左手には田畑やお墓、雑木林が続き、これといった建物や目印はありません。車だとうっかり通り過ぎてしまいそうなところに、屋良ムルチの入口がぽっかりと口を開けていました。草樹が鬱蒼と生い茂り、少し恐ろしげな感じ。もし案内がなければ、ひとりで入ってみようとは思いません。


屋良ムルチ

階段を降りると、しっとりと濡れた路面に、てぃーだ(太陽)を隠すような樹々。いかにも御嶽(ウタキ)らしい幽玄な雰囲気を醸し出しています。小路を進むとすぐにムルチらしき沼が見えました。


屋良ムルチ

ムルチに向かって、丸い香炉と「ムロキノ嶽 神名アキミウハリ ミウノ御イベ」と刻印された石碑がありました。石碑には「2014年2月吉日建立」と記されていますので、まだ最近のことです。いったいどのような想いで石碑を建立されたのでしょうか。


石碑

「屋良ムルチは、比謝川(ひじゃがわ)の漏斗(ろうと)のようなユニークな地形の漏池(ムルチ)です。ここは、たいへん霊験あらたかなところです。石碑の神名は1713年の『琉球国由来記』に記されています。つまり、首里王府が編纂した琉球最古の地誌に記されている由緒ある御嶽なのです。しかし最近は、神名や御嶽のことをわからない方が多くなってきているので、正しく知っていただきたい、という想いからこの石碑を建立しました」と、建立された字屋良共栄会・顧問の伊波勝雄(いは・かつお)さん。


屋良ムルチ

「屋良ムルチでは年に一度、旧暦4月14日までに『ムルチ御願(ウガン)』が挙行されています。ムルチ御願は、水神に対する感謝、健康・生命の再生、村の繁栄、豊作を祈る祭祀です」と伊波さん。

伊波さんのお話では、そのむかし、首里王府からも毎年、わざわざ屋良ムルチに出向いて御願(ウガン)を執り行っていたそう。やがて首里王府は、北谷(ちゃたん)ムラに祭祀を任せようとしました。しかし、北谷ムラが断ったので、祭祀は屋良ムラに任されることになりました。そのため屋良ムラは褒美として、屋良ムルチから比謝川河口までの水利権を王府から与えられたそうです。


屋良ムルチ

義本王時代はいまから約770年前、『琉球国由来記』はおよそ300年前、伝説が義本王時代のものであったとすれば、首里王府がその伝承に則って御願を行っていたのも頷けます。

「むかしはムルチの龍神への生け贄として豚一頭が捧げられていたそうです。それが時代とともに鶏に代わり、いまでは鶏の卵3個を捧げています」と伊波さん。

少しずつ変遷しつつも、歴史書と伝説から、ムルチ御願は少なくとも300年以上前から続く伝統ある祭祀なのだと言えるでしょう。


伊波勝雄(いは・かつお)さん
 字屋良共栄会・顧問の伊波勝雄(いは・かつお)さん。『屋良の民俗誌』『平成甘藷考』をはじめ、おもに歴史・民俗・教育に関する多くの書物を執筆されている嘉手納町の名士です。

そのほか、「このあたりでは、屋良ムルチ伝説の人身御供になったのは、宜野湾の娘さんだったと言われています」といったお話や、「ムルチは水神様なので、旱魃のときには雨乞いを行うこともあります」というお話を伊波さんから伺いました。

世俗から隠れるように静かに水を湛える屋良ムルチ。沖縄各地に伝わる歴史や伝説は、ひっそりと、しかし、しっかりと確かに、地元の方々によって脈々と受け継がれているのでした。



屋良ムルチ


屋良ムルチ
住所/沖縄県中頭郡嘉手納町屋良
アクセス(路線バス)/バス停「嘉手納町運動公園入口」下車徒歩10分(62系統「中部線」)
Webサイト/http://www.town.kadena.okinawa.jp/kadena/historic_sites.html


沖縄CLIPフォトライター 安積美加 

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Information

沖縄県中頭郡嘉手納町屋良