沖縄のイマイユ(新鮮な魚)を堪能できる那覇市のさしみや『今いゆ玉しろ』

Reading Material

食べる

初回投稿日:2019.09.24
 最終更新日:2024.03.27

沖縄のイマイユ(新鮮な魚)を堪能できる那覇市のさしみや『今いゆ玉しろ』

さかな

沖縄本島南部の糸満市(いとまんし)は、漁師町として知られる地。その糸満市に生まれた玉城弘康(たましろひろやす)さんは、オジー(祖父)が糸満の海人(うみんちゅ)で網元、オバー(祖母)がさしみ屋、両親が魚屋(仲買人)という生粋の糸満人(いとまんちゅ)です。

小学校の夏休みといえば、朝4時に起きてセリ市場へ連れていかれる日々。小さな頃から魚に慣れ親しみ、海人(うみんちゅ)に囲まれ育った思い出は、いつしか「糸満でおいしい魚料理が食べられるお店を作りたい」という想いにつながっていきました。


玉城弘康(たましろひろやす)さん

夢を叶えたのは、2013年。糸満市に魚のバター焼きと魚汁を看板メニューとした『糸満漁民食堂』をオープン。さらに2017年には、「沖縄の魚の魅力をもっとたくさんの人に知ってほしい」と、瀬長島ウミカジテラスでフィッシュバーガー専門店『Eightman’s SEA BURG』をスタート。沖縄の魚が持つおいしさを最大限に引き出し、その可能性を追求したアイデアレシピを開発、新鮮な驚きがつまった魚メニューを数々生み出してきました。


さかな

そして2019年5月、3店舗目となる『今いゆ玉しろ』を、那覇空港から車で8分という立地に本格オープン。“イマイユ”とは沖縄の方言で新鮮な魚のこと。ここは、イマイユをおいしいお刺身で提供することにこだわった“さしみや”さんです。

「今いゆ玉しろ」の店内

「僕が小さい頃の糸満は、スージグヮー(通り)に必ずさしみやがありました。主婦たちが夕飯の魚を買ったり、風邪を引いた友達に刺身を買って持って行ったり、おやつに魚てんぷらを買って差し入れしたり、さしみやは街のみんなが立ち寄る、なくてはならない存在だったんです。今はほとんどなくなってしまったけれど、あの頃、自分のオバーが営んでいたような街のさしみやさんをやりたい。そんなもう一つの夢を実現したのがこの『今いゆ玉しろ』です」

今いゆ玉しろ

店頭には、まるで魚が海を泳ぐようにパタパタと風に舞う大きな大きな暖簾。沖縄在住のアートディレクター信藤三雄さんが筆をとったという力強くダイナミックな書が目印です。


さかな

毎日の仕入れは、仲買人である玉城さんのお兄さんが競り落とした魚を市場から直送で。ときには、信頼している海人から直接仕入れたり、目利きのある魚の達人たちが選んだイマイユが日々お店に集まってきます。


魚のイラスト

店内の壁には、玉城さん本人が描いたというかわいい魚のイラストも。販売されているお刺身は持ち帰って楽しむことはもちろん、その場で刺身定食にしていただくこともできます。気になるイマイユを選んで目の前でさばいてもらい、お好みの調理法で味わうことだって可能。ステージのようなオープンキッチンをぐるりと囲むカウンター席で、玉城さんと会話を楽しみながら気軽に食事を楽しめる空間が用意されています。もちろん、お土産にしておやつ感覚で食べられる魚の天ぷらもありますよ。

沖縄天ぷら


「沖縄の魚をよりおいしく提供するにはどうしたらよいか?」

これは、玉城さんにとって、常に挑んでいる大きなテーマです。

「沖縄の魚は、内地の魚に比べると“ゆるい”とか“淡白”とか言われて、苦手だという方もいらっしゃいますよね。でも僕はそれを個性だと捉えています。それぞれのお魚に合った仕立てをすることで、個性を活かしたおいしさを追求しよう、と。たとえば、塩をふって余分な水分を抜くことで旨味を凝縮させたり、湯引きをすることで皮目のコリコリした食感を出したり、皮目を炙ることで香ばしさを加えたり。漁場も近く新鮮な魚がとれる沖縄だからこそ、さまざまな調理法でイマイユの魅力を表現したいと考えています」

玉城さん

そんな想いのもと生まれた『今いゆ玉しろ』の看板メニューは、“海人のさしみ丼ぶり”。全国3位という豊富な漁獲量を誇るマグロをメインに、セーイカ(ソデイカ)、シャコガイ、南洋金目鯛、タマン(ハマフエフキダイ)、アカジンミーバイ、スジアラ、夜光貝など、その日にとれた魚をプラス。8種類のイマイユを盛った豪快な丼ぶりです。実はこの完成形に辿りつくまで玉城さんはずいぶん長い間、試行錯誤を重ねたのだとか。

海人のさしみ丼ぶり

「沖縄の魚は脂身が少ないので、コクを出すにはどうしたらよいか。刺身の研究をする中で、まず寿司屋さんがやる“熟成”をやってみようと思い立ちました。いろいろな種類の魚で試してみて、この魚は寝かせるとおいしくなるとか、寝かせても変わらないとか、違いを実感しながら、ご飯に盛って食べてみたんですけど、どうもしっくりこなくて。おいしいけれど、もっと沖縄らしさ、自分たちらしさがほしい。自分にとっては、沖縄の魚をおいしく提供することと同時に、“海人の食文化を今に伝える”ということも大事なコンセプトので、そこにもう一度立ち返ることにしました」

海人のさしみ丼ぶり

思い浮かべたのは、糸満海人の魚の食べ方。船上で釣れた魚をブツ切りにして、酢味噌を和えて食べる。冷蔵技術がない時代に生きた先人たちの知恵。そこで、「酢味噌和えを何年分かというほど食べまくった(笑)」という研究を重ねているうち、今度は発酵という視点から新たなひらめきが舞い降ります。

「塩麹です。糸満海人は、調味料がない時代、魚を海水につけてそのまま食べていたと聞いたことがあったので、塩を使うのはアリじゃないか、と。それで、叩いたマグロに塩麹を入れて寝かしてみたら、旨みがぐんと増してすごくおいしい。脂が少ないので、風味とコク出しにゴマ油も入れると、ネギトロのようなねっとり感に。これを海人のように、いろんな魚と豪快に混ぜ合わせてぶっかけて食べる。半年以上の試行錯誤の末、ようやく自信を持って提供できる看板メニューが完成しました」。

しびれ醤油

玉城さんおすすめの食べ方は、まずお刺身を一枚ずつめくりながら自家製の造り醤油とワサビでシンプルに。次は、ピリピリと花椒の香り高い自社商品『しびれ醤油』とともに。ここで、数枚のお刺身とマグロネギトロを残しておいて、〆は黄身醤油をかけ贅沢な卵かけご飯にして完食! さっそく教えて頂いたとおりに食べてみると、ん~最高です!

海人のさしみ丼ぶり

魚天ぷらはポピュラーでも、天丼となるとなかなか出合うことが少ない沖縄。『今いゆ玉しろ』では、沖縄の魚を使った“海鮮天ぷら丼ぶり”も食べられます。マグロ漬け、メカジキ、セーイカ、エビのすり身を使ったチキアギ(沖縄風かまぼこ)、さらににんじんシリシリ(千切り)のかき揚げ、半熟卵、茄子、しし唐がのった大ボリューム!

天丼

「ほんのりカレーっぽい風味がありますよね? その正体は上にふりかけている五香粉(ウーシャンフェン)という中国のスパイス。天つゆで作ったタレのダシとカレーの風味で、カレーうどんのような相性をイメージしています。『しびれ醤油』をかけてピリっとした刺激的な味も、とろーり卵を割って混ぜ合わせてマイルドな味も、いろいろな食べ方を楽しんでほしいですね」


賄い魚汁定食

カツオ、昆布、いりこ3種を使ったこだわりの一番ダシと、魚の濃厚なダシが体に染み渡る“賄い魚汁定食”も絶品。

「昔のさしみやでは、魚汁も定番でした。鍋を持っていって、そこに魚汁を入れてもらって家に帰って夕飯で食べる。この店でも、そんなスタイルを再現できたらいいなと思ってます。早い時間に魚を選んでもらって、“何時に行くから魚汁作っておいて”なんて。それで仕事帰りに鍋に入れて買って帰ってもらえるような」

玉城弘康(たましろひろやす)さん

目指すのは、地域に愛されるさしみや。そして、観光で訪れる人には、沖縄の魚をもっと好きになるきっかけとなってほしい。そのために、どう調理したら沖縄の魚のおいしさを伝えられるか、これからも探求し続けていきたいと語る玉城さん。

「初めての店『糸満漁民食堂』を立ち上げるときに出会った一冊の本があります。糸満の海人の歴史を記した「海の狩人沖縄漁民―糸満ウミンチュの歴史と生活誌」(加藤久子著)という本。そのページをめくっていくと、オバーの名前や両親のことが書いてありました。あの瞬間から“沖縄のイマイユの魅力を伝えたい”と勝手な使命感を持ち、今に至っています。“沖縄の魚っておいしかったんだね!”と言われるとすごく嬉しい。魚嫌いな子供たちから、“魚おいしかった!”と笑顔で言われるともうたまらないです(笑) 沖縄のイマイユはおいしい! ぜひその喜びを体感しにきてください」

今いゆ玉しろ

住所 /
〒901-0146 沖縄県那覇市具志875 那覇空港ボウルスカイレーン1F
電話 /
098-852-0088
営業時間 /
11時00分~15時00分(L.O.14:30)
定休日 /
火曜日
Webサイト /
https://hitosara.com/0006131303/?cid=gm_hp
facebook /
https://www.facebook.com/people/%E4%BB%8A%E3%81%84%E3%82%86%E7%8E%89%E3%81%97%E3%82%8D-okinawa-sashimiya/100063772470661/

岡部 徳枝

同じカテゴリーの記事