同じ踊りが見られるのは8年に1度。戦前から受け継がれる伊江村の村踊

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初回投稿日:2020.06.23
 最終更新日:2024.04.15

同じ踊りが見られるのは8年に1度。戦前から受け継がれる伊江村の村踊

島くとぅば(琉球方言)、組踊、琉球舞踊など沖縄の島々には、まだまだ知られていない独自の文化があります。

沖縄本島北部、本部町(もとぶちょう)よりフェリーで30分の場所に位置する離島「伊江島(いえじま)」では、村踊を伝承するため島独自のイベントが行われています。毎年11月村主催で開かれる「伊江村民俗芸能発表会」です。

伊江村民俗芸能発表会


伊江村に存在する8つの行政区(沖縄では字(アザ)と呼ばれる)が毎年1区ずつ踊りを披露する行事で、通称「字マール」と呼ばれています。発表の順番が字を回っていくことから「字マール」。

東江前(ひがしえまえ)→川平(かわひら)→東江上(ひがしえうえ)→西江上(にしえうえ)→阿良(あら)→西江前(にしえまえ)→真謝(まじゃ)→西崎(にしざき)の順で回っていくのですが、1年につき1つの区がその年の「字マール」を担うため、発表を終えると次に回ってくるのは8年後。
1980年(昭和55年)に始まったこの恒例行事は、2019年(令和元年)11月に最終番である西崎区の発表で5巡目を終えました。

伊江村民俗芸能発表会のステージ

沖縄で『踊り』というと、習い事として琉球舞踊を習っているか否かで、“踊れる人・踊れない人”と分かれるものですが、伊江村においてそれは重要なことではありません。牛を育てる人、菊やらっきょうを育てる人、村役場に勤める人、建築現場で働く人など、その地区に住む若者であれば誰でも取り組むもの。それぞれ仕事を終えて公民館に集まり、約半年間夜遅くまで稽古を積みます。

発表会当日は、その字に住む人だけでなく村全体から老若男女集まります。これまで踊ってきた先輩方から「あれはもっとこうだろ。ちょっと手が違うんだよなぁ」と批評をされる場にもなるため、演じる若者たちは緊張の面持ちで舞台にあがります。

観客

発表会のステージ

字マールについてより詳しく知るため、伊江村民俗芸能保存会の発足に携わり、現在会長を務めている内間亀吉さんにお話を伺いました。伊江村民俗芸能保存会は、伊江村の村踊を後世に残すために昭和48年設立され、字マールのはじまりを率いた団体でもあります。

記念誌


「第二次世界大戦、伊江島では2人に1人が亡くなったといいます。そのあと捕虜となって2年間は島に帰ってこれず、渡嘉敷島(とかしきじま)や座間味島(ざまみじま)、旧久志村(くしそん ※現在の名護市久志)で食料もままならない生活を送っていました。そんな状況でも、村民たちは慰めのために村踊を踊ったそうです」。

「そういった話を子どもの頃から聞いてきたので、伊江島に伝わる村踊がどんなに大切にされてきたか、幼な心にもわかったんですね。この踊りをずっと伝えていかなければならないと字マールをはじめました」。

字マールでは、その区独自の踊りが演じられます。使用されている歌が同じだとしても、各区によって違った振り付けがされているのです。

それには当時、島の東側と西側の間で生じていた派閥が影響しています。単に仲が悪かったという話ではなく、自分の住む地域を愛するがゆえの妙なライバル心やプライドのようなものだったかもしれませんが、東の人は西の踊りを踊ってはいけない、西の人は東の踊りを踊ってはいけないという暗黙の了解があったそうです。
そのため、足踏みの仕方、手の構え方、腰の落とし方など踊りの型は各区によって違いがあり、衣装の紋付きや帯の結び方も異なります。

伊江村民俗芸能発表会


このような時代を経て「伊江島の村踊」は平成10年、「国の重要無形民俗文化財」に指定されました。

「でもやっぱり、踊り手や地方(じかた ※歌三線や太鼓などの伴奏者)が少なくなってきているという課題があります。お祝い事で踊る習慣が根付いていますから踊り手はなんとか続けられていくと思いますが、地方(じかた)の場合は三線が弾けるから歌えるというものではない。民謡と古典音楽は別の領域ですから、古典をできる人が少なくなっていくのではないかという心配はあります。これには村全体が一つの心になって継承していく必要があると思います」。

踊り手


2020年は、10年に一度の横浜公演を控えているため字マールはおやすみです。来年2021年に6巡目がスタートします。

その島にしか流れない音楽があり、その島にしか受け継がれていない踊りがあります。村外の方も観覧可能なので8年に一度しか見られないその年の「字マール」をぜひ鑑賞してみてください。

 

伊江村教育委員会

電話 /
0980-49-2334

沖縄CLIP編集部

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