【連載】めぐり逢う沖縄の染め織りvol.3  TEORI WORKS OKINAWA

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初回投稿日:2023.11.17
 最終更新日:2023.11.29

【連載】めぐり逢う沖縄の染め織りvol.3  TEORI WORKS OKINAWA

沖縄の現代工藝ギャラリーのオーナーが県内の染め織り作家を訪ね、魅力を発見するインタビュー企画。三回目は沖縄一の織物生産量を誇る南風原町(はえばるちょう)へ。 

沖縄の魅力的な工芸が集うギャラリーショップ「Galleryはらいそ」。オーナーで沖縄CLIPフォトライター・河野こずえが「沖縄の染め織りの魅力を広めたい!」という思いからはじまった「めぐり逢う沖縄の染め織り」。今回は、不思議な巡りあわせで南風原にであい、織物工房を立ち上げた「TEORI WORKS OKINAWA」の宮城麻里江さんにお話を伺いました。

織物の町、南風原町で受け継がれる琉球絣

TEORI WORKSの工房

沖縄本島南部にある南風原町(はえばるちょう)は那覇市の隣に位置し、沖縄県で最も人口が多い町として知られています。首里城から近く琉球王国時代から王朝へ貢ぐための着物を生産する「織物の産地」としてその名を馳せています。
  
南風原の織物の特徴としてまず挙げられるのは「琉球絣(りゅうきゅうかすり)」と「南風原花織(はえばるはなおり)」のふたつの代表的な織りです。

TEORI WORKSの作業

琉球絣とは主に南風原町でつくられる絣の技法を用いた織物のこと。600種に及ぶ多彩な図柄が特徴的。絣とは織物の技法の一つで、部分的に染めた経糸と緯糸を使って、かすったような風合いを出す模様のことです。

TEORI WORKSの藍の経絣と若草色の緯絣
藍の経絣(たてがすり)と若草色の緯絣(よこがすり)の生地

絣の技術は14〜15世紀にかけて東アジアから琉球へ渡り発展しました。琉球から薩摩、久留米など日本各地に絣の技術が渡ったことから、日本の絣のルーツは「琉球(沖縄)」と位置づけられており、多くの絣ファンの憧れとなっています。
 

多様な織りの種類が特徴の南風原花織

TEORI WORKSの南風原花織
南風原花織

南風原の織りを代表する「南風原花織」。両面に浮かせた糸で柄を構成し、リバーシブルで利用できる織り方が特徴の「両面浮花織(りょうめんうきはなおり)」。そのほかにも「タッチリー」「十字花織」「喜屋武(きゃん)八枚」「南風原絽織(はえばるろおり)」など南風原ならではの呼び名を持つ多彩な織りの種類が特徴です。
  
琉球王国時代、王族たちの祝い着として発展した南風原花織は、母から娘へと技術が受け継がれ、戦後復興の際に沖縄で一番の生産量を誇る産地として昇華していきます。 
 
そんな南風原町で、伝統的な南風原花織や琉球絣の技術を取り入れながらユニークな手織り工房を立ち上げた「TEORI WORKS  OKINAWA」の宮城麻里江さんにお話を伺ってきました。

沖縄で生まれた南風原花織にめぐり逢うまで

TEORI WORKSの宮城麻里江さん

奄美大島出身の母を持つ宮城麻里江さんは、鹿児島県に生まれたのち、沖縄県本島にある沖縄県北谷町(ちゃたんちょう)で幼少時代を過ごします。中学生の頃からファッションデザインに興味を持ち始め、県内のデザイン科のある高校へ進学しました。そこでデッサンや、陶芸、木工、写真、グラフィックなど多岐に渡りデザインの基礎を学びます。
  
「高校で基礎を学ぶうちにファッションをより学びたいという気持ちが強まった」
  
と語る宮城さん。服飾デザインを学ぶため、大阪にある専門学校に進学します。
  
卒業後、念願のアパレル企業へ就職を果たしたものの、希望の部門に進めず不安を募らせる日々。そんな折に、余命僅かな母親の看病のため沖縄へ戻ることに。
  
「母の病気が判明して、あっという間でした。最後に一緒の時間を過ごせたことは良かったと思います。」
  
看病をつづけながらファッション業界を離れた宮城さんは、その後、人生のパートナーに巡り逢います。転勤族だったパートナーと共に県外で働いたのち、二人は沖縄へ戻ります。

TEORI WORKSの宮城麻里江さん

結婚の挨拶のためパートナーの実家へ訪れたとき、お母さんが南風原織の工房「竹工房」を営んでいることを知りました。
  
義母から「(織に)興味ある?」と聞かれた宮城さんは二つ返事で「あります!」と答え、体験させてもらうことに。
  
ファッション業界から離れていた宮城さんは、自分が求めていたジャンルとは異なる「着物」の世界ではありましたが、複雑な工程で作られる南風原の織物に魅了されていきます。

南風原で受け継がれた染め織りから生まれた新ブランド「MARIKASI(マリカシ)」

TEORI WORKSの作品

宮城さんは、本格的に染め織りを学ぶために沖縄県工芸振興センターで草木染めの研究をし、琉球絣組合で絣括りの修行を3年間しました。その後、義母が営んでいた工房でさらに技術を磨きつづけました。
  
「義母が営んでいた竹工房は、伝統的な南風原の織物が中心でしたが、少しずつ自分のなかでやりたいことが膨らんできました。」
  
義母の工房で織物制作をしながら、専門学校やアパレル時代に培った知識を使って、現代のライフスタイルに合わせた洋装ブランド「MARIKASI」を立ち上げます。ジャケットやワンピース、ストールなど、伝統的な染織物の中に新しい風を起こし始めます。
  
その後、義母の工房に勤める織子さんと共に琉球絣や南風原花織の伝統を受け継ぎながら新たな取り組みを始めるために「TEORI WORKS OKINAWA 」を2020年に設立しました。

宮城麻里江が放つ色彩とデザインの魅力とは?


TEORI WORKSの生地

宮城さんの織りなす生地の魅力を一言で表現するとすれば「アーバン」という言葉が浮かびます。
  
沖縄の染め織りは日本の産地として唯一全て手織りでほとんどが草木染めを施した糸で作られています。それは土着的で有機的なイメージといえます。
  
それを踏まえつつ宮城さんの手によって生まれる生地は、色彩もデザインもスタイリッシュで都会的なイメージなんです。

TEORI WORKSの打合せ

宮城さんの色彩の世界を表現する修飾語は
  
スタイリッシュ/粋/アーバン/都会的な/洗練された/上品な/シックetc 
 
といった言葉がふさわしいでしょう。
 
 ここ数年、宮城さんの作品をお客様に紹介するたびに、この言葉だけではどうしてもその魅力が伝えきれていないとモヤモヤとしていました。今回はそれを解消するために「宮城さんがインスパイアされているものって何?」と直球で尋ねてみました。
  
「もともとファッションに興味があったんですが、基本的に人の作ったものから影響を受けます。例えば建築だったり、アートだったり。」
  
ーどんなアーティストに影響を受けましたか?
  
「ドリス・ヴァン・ノッテン(ファッションデザイナー)やクリスチャン・ボルタンスキー(現代アーティスト)や、ヤン・シュヴァンクマイエル(シュルレアリストの芸術家)あたりが好きですね。これらの作品に影響を受けて、織物で表現する際にあえてモノトーンにして織りの素材を楽しめるようにしたり、絹や銀糸、金糸などの異素材を組み合わせたりしてます。」
  
ードリス・ヴァン・ノッテンの落ち着いたカーキやグリーン、光沢のあるパープル、ブラックは、まりえさんの織る生地に通ずるものがあります。また、金や銀のメタル系の素材と合わせる斬新な感じも! 宮城さんの色彩は、身につけているお客様を見かけると「まりえさんのだ!」ってすぐわかるんです。色彩に対するこだわりってなんでしょう?

TEORI WORKSの糸

「糸を染めるときは草木染めと化学染料を両方使いますね。草木染めはその時にしか出せない季節感が感じられます。化学染料は自分のイメージに合わせて色を作ることができますが、その色を出す技術はかなり高度になります。私の色ってわかるのは・・・作る素材に合わせた色作りを心がけてますが、なんでしょう、、、あ、全ての糸を染める時にベースに秘伝の色を入れているところかも!」
  
秘伝の色!! と隠し味的な存在に驚きを隠せませんでしたが、その色に巡り会えたのは、インスパイアされた巨匠たちのおかげなのかもしれません。

自分らしい琉球絣と南風原花織をもとめて

TEORI WORKSの織物
 
「今までは、花織を中心に、着尺や帯、服地の布を自分の求める色彩で表現してきました。作品作りのためのインプットは、アートや建築、音楽など基本的に違うジャンルのものからも得られます。これからは「不揃いな世界観を織りで表現」することがテーマです。経糸と緯糸のグリッドの世界ではありますが、絣という技術には不揃いな世界を表現できる可能性を秘めていると思います」
  
と自身のヴィジョンを語ってくれました。
  
伝統的な織りの技術と自分の培ったセンスを融合させ、常識にとらわれない自由な表現で琉球絣や南風原花織の魅力を改めて世に伝えています。
 
TEORI WORKSの宮城さん 
母から娘へと受け継がれる閉鎖的な地域工芸「南風原織」に、人生のめぐり逢わせで飛び込んだ宮城さん。制約のなかから生まれる自由な織りを求め、さまざまな芸術からインスパイアされ巧みに取り入れる。TEORI WOKS OKINAWAの世界は、これからどんな作品が生み出されていくのか今から楽しみで仕方ありません。

TEORI WORKS OKINAWA&MARIKASIが楽しめるイベント

この秋、沖縄にてTEORI WORKS OKINAWAの宮城麻里江さんが手がける和装と洋装ブランド「MARIKASI」の企画展が開催されます。
  
宮城さんによるアーバンでスタイリッシュなエッセンスが散りばめられた新しい南風原の染め織りをお楽しみください。

MARIKASI POP UP EVENT
会場 PLAZA HOUSE SHOPPING CENTER FLAG SHIP OKINAWA
会期 2023年11月23日(木)〜12月10日(日) 
時間 10:30〜19:00


工房、イベントに関するお問い合わせ先

Galleryはらいそ

住所 /
沖縄県うるま市石川曙1-9-24
TEL /
098-989-3262
Webサイト /
https://haraiso.gallery

monobox(河野哲昌・こずえ)

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