【ズミ宮古島!食・工芸・島めぐりの旅②】神の依り代、クバの葉を編む小川京子(スタジオゆい)さん
【ズミ宮古島!食・工芸・島めぐりの旅②】神の依り代、クバの葉を編む小川京子(スタジオゆい)さん
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初回投稿日:2018.03.21
最終更新日:2024.09.13
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『スタジオゆい』はアクセスが便利な宮古島(みやこじま)の市街地にある、住宅の一角を利用したバスケットアーティスト小川京子さんのアトリエ兼ギャラリー。かしこまったところがなくて、ご近所さんの縁側へふらっと散歩がてら立ち寄ったようなオープンな開放感が私は大好きです。
もともとは、画家だったお父様がアトリエに使っていた空間を、娘の京子さんが引き継ぎ、ご自身の創作や展示の場にされています。お邪魔したこの日は、たまたまお知り合いの方の陶器展を開催中。陶器の作品とともに、庭の南洋植物のクロトン、京子さんの作品のランプシェードがさりげなくインテリアとして配され陶器を引き立てていました。
沖縄では“神様の依り代(よりしろ)”とされる神聖なクバ(和名:ビロウ)の木。亜熱帯に自生するヤシ科の植物で御嶽(ウタキ)と呼ばれる拝所や聖地には必ずと言っていいほどこの木があります。スタジオゆいの軒先にも京子さんが植えたクバの木が緑濃く日の光を受けながら、訪れる人を迎えてくれます。
「工芸家として足元の暮らしに根ざしてきた素材を使わせていただきながら、その魅力や可能性を形に表現しているだけなの。長いこと工芸に携わる中で、アートを作るようになったでしょう。しいて私らしさをというなら、アートと工芸のはざまにある個性かしらね」と京子さん。作り手としての素材に対する純粋な敬意と、御神木に等しい神聖なクバへの“畏敬の念”にも満ちています。それにしても、手のひらを広げたようなクバの葉と、京子さんのバッと宙にひらかれた手のひら、なんとなく似ていますね。
クバの木の葉は、昔は生活の道具、いわゆる民具や玩具の材料としても重宝されてきました。きっと沖縄を訪れてことのある人ならば、クバの葉の扇やクバ笠などを目にされたことがあるかもしれません。写真のオブジェは、沖縄本島南部にある神の島、久高島(くだかじま)に滞在した折、そこで感じたインスピレーションをもとに製作されたものだそう。京子さんの生み出す作品は手のひらにのるサイズのものから、天井から吊り下げたり、壁を飾る大きなものまで実に多彩です。
こちらは現代住宅にもマッチするデザインで編まれたランプシェード。京子さんのクバの作品はどれも、クバ本来の持つ植物としての“面影”というか“ニュアンス”が漂うように仕上げられています。有機的な雰囲気が空間に優しいナチュラルさを織りなしてくれます。
宇宙の渦巻き、スパイラルのようでもあり、ぐるぐる巻いた龍のようでもあるこの作品『十1(じゅういち)』。1から10までいろんな個性や考え方がある中で、それぞれを尊重し、すべてを大事にするという意味合いを込め、プラス1と書いて“じゅういち”としたのだそうです。工芸家の目線に徹しつつも、自由な感性の元に生み出される作品たちは、壮大な夢やロマンを彷彿させる力強さ・包容力にも溢れています。
クバの葉を乾燥させ、裂いたり、丸めたり、編んだり、結んだり・・・。京子さんの手のひらの中で、手のおもむくままに形を変えていきます。
京子さんの作品作りは、“ミークバ”と呼ばれる子供のクバの新芽を必要な分だけ神様から分けていただき行われます。一方で、宮古島では乱獲などにより、本島や他の地域に比べ自生するクバが極端に少ないという問題にも直面しています。このことを重く受け止めた京子さんは、数十年後、百年後の宮古島を見据え、仲間たちと共に“クバの森”を再生させるプロジェクトを始動させています。作品の素材を宮古の土地から分けていただく作り手として、一人のミャークンチュ(宮古人)として。
こちらのショルダーバッグ、肩掛けの部分の布は、亜麻の布をクバの実で染めたものだそう。クバのバッグシリーズは、この他にも宮古上布と組み合わせたものなどもありますよ。
作り込まれているのに、自然体のようなデザイン。存在感があっても決して空間の邪魔はしない。触ってみたり、光に透ける葉脈の名残に見惚れたり。
植物を編み、道具にしてきた人類共通の叡智。京子さんの探究心は世界中のフィールドへ向けられ、これまでにもインドネシア、アメリカ、ベトナム、ヨーロッパなど各地で、素材としての植物やカゴの調査、ワークショップ、インスタレーションなど、工芸家・作家の両方の視点から精力的に取り組まれてきました。京子さんの作品が一見、奇想天外・奇抜なオブジェに見えて実は、普遍的な真理を表わすイメージだったり、どこか懐かしい見覚えのある道具の形だったりするのはきっとそのせいかもしれません。
ころんと大らかな丸みを帯びたクバのカゴバッグ。もちろん、どれも世界に一つしかない一点ものです。「ほつれやほころびが出ても大丈夫、補強してあげるからずっと使えるわよ」と京子さん。一生ものとして愛用できるカゴたちです。
京子さんのクバの作品たちといると、“植物のうつろいゆく姿”と時間を共にしている気持ちになります。青々と光る緑葉が幹から切り離され、次第に乾き枯れて行く。枯れることは一見、植物の生命の終焉のようにも思えますが、実はクバの面影を残しながら作品という形に姿を変えているだけのことではないのだろうか、例えば生物の“変態”のように。とさえ、思えてくるから不思議です。
そして、その感覚は眺めているだけ、持っているだけで、とても豊かな気持ちにさせてくれるのです。
少し話はそれますが、最近、スワッグというスタイルがお花屋さんでは人気のようです。リース飾りよりも手軽で植物をそのまま束ねて壁に吊るすだけ。なおかつ生花の状態からドライフラワーまで長く楽しめるというもの。植物が枯れて終わりではなく、変容していく姿を愛おしむというとても素敵なカタチだなと思います。京子さんの作品もクバという植物の“変容”のひとつなのかもしれないなと思うのです。
スタジオゆい
- 住所 /
- 沖縄県宮古島市平良下里549
- 電話 /
- 0980-72-2582
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