作品のストーリーもお土産に。移住者目線で沖縄文化を伝える港川外人住宅街の雑貨店「Proots」
作品のストーリーもお土産に。移住者目線で沖縄文化を伝える港川外人住宅街の雑貨店「Proots」
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初回投稿日:2017.12.30
最終更新日:2024.05.17
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浦添市港川の外人住宅街「港川ステイツサイドタウン」。青い空に映える白のコンクリート平屋がぽこぽこと建ち並ぶ街並みは、異国情緒あふれる雰囲気。パン屋さんやカフェ、雑貨店など、店舗として使用されているこの住宅街は、通りを歩くだけでも旅気分が味わえる沖縄らしい景色が広がっています。青や黄色、グリーンやピンク。ドアや窓枠は、お店によって色とりどり。その中で一際目を引く鮮やかな赤の外装に惹かれ、「Proots」に立ち寄ってみました。
迎えてくれたのは、ウッディなぬくもりと、レトロなアメリカンテイストがミックスされたおしゃれな空間。そして、美しく配置された、たくさんの雑貨。やちむん(焼き物)や琉球ガラス、木の器や手ぬぐい、キャンドルにアクセサリー、ジャムやお菓子。さまざまな種類のアイテムがお店いっぱいに並べられているけれど、1つひとつを手に取る合間に、ほっとひと呼吸おけるような、それぞれの存在感が引き立つ飾られ方が印象的です。
「うちの商品は、全部沖縄で作られたものなんですよ」。声をかけてくれたのは、店主の萩原悠さん。ちょっぴり関西のアクセント。聞くと、兵庫県出身なのだそう。サラリーマンをしていた約3年前、転勤を機に沖縄へ移り住むことに。もともと、ものづくりが好きなことから、伝統工芸などの工房を訪れるうち、その世界に魅了されていったとか。
「こんなに身近に工房があって職人さんがいて、内地にはないものづくりの環境がすごく新鮮でカルチャーショックを受けました。大学生の頃から沖縄が好きで、何度も訪れていたけど、住んでみて初めて気づいた沖縄のおもしろさ。それを内地目線で、旅に訪れた人たちへ提案できる場があったらいいなって。同時に、沖縄に住んでいる人が来てもどこかに発見があるような。そういう思いを形にしたのが、このお店です」
萩原さんが感じた、沖縄のおもしろさ。それは、たとえば琉球ガラスのルーツ。戦後の物不足の時代、米軍施設が捨てたコーラの瓶を溶かしてガラスを再生したというエピソード。「琉球ガラスは、歴史をふまえて成り立っている。まさに沖縄じゃないと生まれない土地に根付いた文化ですよね。その生きる知恵、才能がすごいなと感動します」。
会社を辞めてお店を作る。そう心に決めて、サラリーマン時代から仕事の合間に物件探し。偶然ネットで見つけたのが、この港川の外人住宅でした。
「ここのエリアがそんな人気だとは知らずに、ただ外人住宅が気に入って即決したんです。何も知らないまま始めたのがよかったのかな、逆にいろいろ知っちゃうと動けなかったかも(笑)。外人住宅は見た目もかっこいいし、歴史がある。それだけでストーリーがあるから、“沖縄”を伝える上で、この箱が必要だなと感じたんです」
オープンは2015年1月。店名の「Proots(プルーツ)」は、沖縄の文化とルーツを多ジャンルで伝えていきたいという思いから。英語の「roots」と、沖縄方言の「チャンプルー」の響きを組み合わせた萩原さん独自の造語です。「知識も人脈もなかった」というオープン当初は、雑誌でひたすら調べ、「おもしろいな」と思う職人さんのもとへ出かけ、直接話をしてお願いをする日々。それを続けていくうちに、人から人へと紹介が増え、人の輪が広がっていったといいます。
「そこの器、沖縄の作家さんが作っているんですけど、どこか北欧っぽい雰囲気ありませんか? いい意味で沖縄らしさがない。そこが僕のツボにハマってしまいました」と、紹介してくれたのは、南城市在住のよぎみちこさんの作品。「空気感がすごくほんわかしてますよね。よぎさんご本人もふんわりした人柄で、それが作品に現れているなって思うと、ますます魅力的に感じます」。
宮古島のセレクトショップ「indigo」のアロマワックスバーは、島とうがらし、ゴーヤー、ジーマーミ―など島の素材をドライにしてつけこんだもの。沖縄本島ではあまり販売されていない貴重なアイテムだとか。
「こういう素材の“そのまんま感”が大好きなんです。土っぽいもの、ガラスっぽいもの……奥原硝子の作品は、窓ガラスを一度溶かして作っているんですけど、そういう厚みあるガラスの素材感とか鈍い輝きとか、たまりませんね」
その「indigo」のオーナーがデザインしたという「こくとう」のパッケージは、宮古島の海を思い起こすような美しいエメラルドブルー。見ているだけで島の輝きが伝わるような彩りと、自然豊かな島で育った黒糖のコク深い甘味が印象的です。
隣に置かれているのは、オキナワグロサリーの沖縄食文庫「尚和三盆糖」と、「粟国の塩」。文庫本をイメージしたパッケージがとびきりキュート。「こうやって棚に並べているだけで、テンションあがりますね(笑)。沖縄食文庫は、作っている人が音楽、文学が好きで、その思考、感性がそのまま出ているところがおもしろい。中に冊子も入っているし、食べて終わりじゃなくて、作り手のいろいろなものが見えてくる作品。お土産としても最高です」
1つひとつのアイテムについて丁寧に、そしてとにかく嬉しそうに教えてくれる萩原さん。そこにあるのは、「ストーリーを伝えたい」という思い。
「モノだけじゃなくて、その向こう側に見えてくるヒト、コトを大切にしたいんです。作品1つひとつにストーリーがある。それを選んで頂く方にも教えたいなと思うから、なるべくお客様にお話するようにしています。モノだけを持って帰るんじゃなくて、どういう人がどういう思いで作っているか、ストーリーも一緒に持って帰ってほしいなって」
ご近所の「沖縄セラードコーヒー」から豆を仕入れたおいしいコーヒーや、EMたまき牧場のアイスなどを味わえる奥のカフェ・ギャラリースペースでは、不定期でイベントやワークショップ、企画展などを開催しています。はじまりは、「ぼくとねこ展」。猫好きな萩原さんが「猫との関係性を考える場を作りたい」と呼びかけ、16組のアーティストが集まりました。
その一人、デザイナーの佐治俊克さんが手掛けるブランド「nonepro.」のアイテムも販売しています。港川エリアの猫を保護する目的で立ち上げられたブランドで、売り上げの一部はその費用にあてられるそう。タイミングがよければ、「Proots」のチャーミングな看板猫、黒猫の「クロエ」にも出会えますよ。
ちょうど取材時は、「エプロンのある年末展」が開催中。7組の沖縄在住作家によるオリジナルエプロンが店内のあちこちに飾られ、歩くたびにそれぞれ表情の違う個性的な作品と出会えました。
「お店はいつも流動的でありたいなと思ってます。モノというより、ムーブメントを大切にしていきたい。最近、企画展が多いんですけど、現地でローカルにおもしろいことを発信している人たちの表現の場を作りたいなと思って。伝統とか工芸とか、沖縄らしさにこだわりすぎず、その土地で活動している人と一緒にやることに興味があるというか。でもそこには必ず“沖縄”がついてくると思うんです。仲の良い職人が“伝統は過去の最先端だよ”って話してくれたんですけど、今は伝統と言われていなくても、将来的に伝統工芸になり得る可能性がある。そういうパッションを一緒に盛り上げていきたいです」
「僕自身が沖縄へ遊びに来ていたときに気づけなかったこと、僕だったらこういうものが欲しかったなというものを、ぎゅっと凝縮したお店」と語る「Proots」は、萩原さんが大好きなものを大切に集めた宝箱のよう。そこにあるストーリーを知ることで、また新しい沖縄と出会えるかもしれません。
Proots
- 住所 /
- 沖縄県浦添市港川2-16-7
- 電話 /
- 098-955-9887
- 定休日 /
- 水・土
- 営業時間 /
- 11:00~18:00
- Instagram /
- http://instagram.com/proots_okinawa
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