平安座島で出会った、子どもと大人の自然に寄り添う島の暮らし
平安座島で出会った、子どもと大人の自然に寄り添う島の暮らし
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歴史文化
初回投稿日:2017.01.15
最終更新日:2024.04.23
最終更新日:2024.04.23
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沖縄は旅人にやさしいとよく耳にする。自分自身、旅人として沖縄を訪れたときにも、そういう風に感じることは少なくなかった。実際に暮らし始めると、沖縄は高齢者と子どもにやさしい地域だと実感することが多い。
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昭和の日本がそうであったように、小さな子どもが自分よりもさらに小さな子どもの面倒を見る光景をよく見かけるし、知らない子どもに笑いかけたり、話しかけたりする大人の姿も少なくない。たとえば外出した時に赤ちゃんや小さな子どもが泣くとする。
それが山手線の中ならば多くのお母さんやお父さんはものすごいストレスを感じるだろう。でも、沖縄だと、「子どもは泣いてあたりまえ」がスタンダードなので、比較的ストレスが少ないのだそうだ。レストランやカフェも、内地にくらべれば、子どもに対してオープンなところが多い気もする。
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先日、うるま市(沖縄本島中部)の「試住プロジェクト」を取材したときにも、そういう話を耳にした。話の主は宮城島(みやぎじま)の池味(いけみ)という30世帯ほどの小さな集落に5年くらい前から暮らしている河野さんご夫妻。公二(こうじ)さんはサーファーで太鼓の演奏家。西アフリカのギニアで4ヶ月太鼓を学び、ジャマイカも2度訪れて音楽の腕前を磨いてきた人だ。ちなみに、お連れ合いの瞳(ひとみ)さんは公二さんの太鼓教室に生徒として通っていたそうだ。
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ふたりには小学校1年生と幼稚園生、そして保育園児の子どもがいる。3人ともに集落のみなさんにとってもよくしてもらっているという。顔馴染みのご近所さんならよくある話だけど、顔も知らないおばあちゃんがお小遣いをくれたりするという話はあまり聞かない。
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穏やかでせかせかしたところがないところが素敵だという宮城島にも、気にかかることがある。「チェーンソーがない時代に山から切り出した木材をみんなが力を合わせて人力で運んできて、釘一本使わずに、近所の人たちが総出で建てたはずの貴重な家が、島から消えていこうとしているのはみていられないね。アートによる地域おこしも、観光に力を入れるのもいいことだけど、空家に人が住むようになんとかしてほしい」。河野さんが借りている家もお隣の伊計島(いけいじま)から移築された昔ながらの伝統的な家屋。手をかけさえすれば何十年も住めるはずの古民家ににもっと人が住んでほしいという。
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沖縄本島と海中道路や橋でつながる、平安座島(へんざじま)、浜比嘉島(はまひがじま)、宮城島、伊計島は沖縄本島よりもさらに“沖縄”な地域。時計の針の進み方が少しゆっくりしているのか、ひと昔前の空気が流れている。お互いに名前と顔を知らない人同士が道端で挨拶を交わしたり、「あんたどこの子ねー?」と子どもに声をかける島の人は普通にいたりする。
「そうそう来週、幼稚園のクリスマス会で太鼓をたたくから来てみない? 地域のおばあちゃんやおばさんたちも紙芝居をしてくれたりするし」。なんだか、ほのぼのしたクリスマス会になりそうな気がしたので河野さんに誘われるまま、出かけることにした。
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数日後にむかったのは平安座島にある彩橋幼稚園。平安座、浜比嘉、宮城、伊計の四島に住む子どもたちが通う小さな幼稚園だ。開演までずいぶん時間があるのに、河野さんたち太鼓のメンバーや、紙芝居の担当の読み聞かせのメンバーはせっせと準備をしていた。しばらくすると賑やかな声が外から聞こえてきた。同じ敷地にある彩橋小学校の1年生と2年生もクリスマス会に招待されているそうだ。
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最初の演目は先生たちによるティンカーベルの演奏だ。披露されたのは「聖しこの夜」。子どもたちは先生たちが一生懸命演奏する姿に感動を隠せないでいる。
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続いてのプログラムは紙芝居『クリスマスのきょうだい』。 30代から60代の読み聞かせグループのメンバーは平安座や宮城などこの辺りの島で生まれ育った先輩たちだった。声優顔負けの語りとオカリナの演奏に子どもの目は釘付けになっていた。

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いよいよ最後は太鼓の演奏。アフリカの衣装に身を包んだメンバーが登場すると、会場が歓声に包まれた。聞きなれないリズムでも子どもたちはすぐに順応する。手を叩いたり、体を揺すったり、あっという間に太鼓のリズムに馴染んでしまった。
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「いろいろな幼稚園を転任してきましたけど、ここは地域とのつながりが濃いですね。仕事で忙しくしている保護者よりも、地域に住むおじいちゃんやおばあちゃんなど大人たちとの結びつきが強いんですよ。血が繋がっていなくても家族同然。みんなで島の子どもたちをかわいがってくれています」。教頭先生の言葉通り、ステージに上がった大人たちと子どもたちの距離はすごく近い。子どもたちはいろんな世代の大人たちに見守られ、愛情を受けて育つ。大人たちは、実の子や孫のように慕ってくれる子どもたちに元気をもらう。人と人の距離が近いぶん、安心できるのだろう、みんなの表情はとてもリラックスしていて幸せそうに見えた。
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