風の人、土の人、沖縄の田んぼで人をつなぐ人
風の人、土の人、沖縄の田んぼで人をつなぐ人
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歴史文化
初回投稿日:2016.09.10
最終更新日:2024.04.12
最終更新日:2024.04.12
梅雨明け前にもかかわらず南の島の太陽がさんさんと降り注ぐある日曜日のこと。バイパス沿いの駐車場に車を停めドアを開けると、「うわー!」、「きゃーっ!」、「いやー!」と子どもたちの歓声が聞こえてきた。
小川を渡って田んぼに向かうと、渡り鳥だろうか、子どもたちの声に混じって鳥のさえずりも聞こえてくる。きょろきょろあたりを見渡していると、田んぼの持ち主の男性が、「こっちに鳥の巣があるんですよ、ほら見えるでしょ」と声をかけてくれた。
沖縄本島中部にある宜野湾市(ぎのわんし)。都市化が進むこのエリアにかろうじて残されている昔かながらの田んぼを会場に、自然に触れ合うイベントが開かれていた。主催したのは農家と消費者をつなぐ仕事を始めて2年を迎えるという大城雅史(おおしろ・まさふみ)さん。沖縄生まれ沖縄育ちの青年が時々見せる笑顔には、たくましさと優しさが同居しているように感じられる。そう見えるのはたぶん、沖縄の歴史と自然に包まれて彼が育ってきたせいだろう。
農家と消費者をつなげるために大城さんが最初に関わったのは、沖縄で栽培された有機野菜を県内外の小売業者に卸す問屋での仕事だった。その会社で2年間流通を学んだあと、独立。「流れのままにやってきた」と当時を振り返るが、独立して今に至るきっかけはある人たちとの出会いだったという。
3.11で原発に変わるソフトエネルギーの必要性を痛感していたというエネルギーの専門家、同じ時期にそれまでは関わりのなかった農業の世界に身を投じた電力会社の元職員、そして、農業という土地に根ざしたなりわいを地域を支える産業に進化させようと考えている実業家。そういった人との出会いによって、大城さんの心の中にもともとあった「土地とのつながりを重んじる気持ち」が刺激され、海中に隠れていた氷山の全貌が現れたのだそうだ。
それまでの大城さんはどちらかといえば「風の人」だったようだ。小さい頃からひと通りのことがまんべんなくできる、いわゆる「器用貧乏」タイプ。実際、一つのことにのめり込んで、深掘りしていくのではなく、いろんなことに関心を持って、風のように自由に動き、人と人を結びつけるようなことに興味をそそられてきたという。
今でも風の人という一面を持ってはいるが、新たにプラスオンされたのが「土の人」の要素だった。「自分のルーツを掘りなさい」というアドバイスに背中を押され、家系を調べ始めた大城さんは、家系図の中に地域の伝統を復活させた人物がいることをつきとめた。その頃から、土地とのつながりが彼の関心空間を占めるようになる。
土地やそこで暮らす人への敬意を持ち続けること。自分のルーツを遡るうちにいつのまにかルールのようになったのが、地域で崇められている場所に手を合わせること。初めての集落では、御嶽やカーと呼ばれる井戸などそこに住む人が大切にしている場所に行き必ず手を合わせ挨拶するようにしているという。
「土地とつながっていれば何とかなる。土地に敬意を払うことを忘れなければ、しかるべき時に風が吹く。風によって、必要とされている何かが運ばれてくる。そして、何か一つアクションを起こせば次に必要なものが見えてくる」大城さんはそう感じるようになったそうだ。
独立して1年目は農家が育てた野菜がどのようにして台所に届くのか、流通について勉強をした。二年目となる今年は、作り手と使い手をつなげることに軸足を移している。4月には「アースデー」にブースを出して宜野湾の田んぼで育てられている田芋の魅力をアピールした。5月には沖縄料理に欠かせない田芋(たーんむ)が栽培されている宜野湾の田んぼで、親子で泥にまみれたあと、田芋を使った料理を味わうイベントを開催した。最近ではベジタリアンでなくてもおいしく味わえるベジ&ヴィーガンの店で、生産者と消費者が交流できるイベントを開催した。
「子どもはもろんだけど、お母さん、お父さんの方がむしろ楽しんでるんですよね」。田んぼでのイベントの日、田芋(ターンム)の茎で作ったムジ汁をお椀に盛りつけながら大城さんは語ってくれた。「泥の力ってすごいんですよ。腰をおろすと立ち上げれなくなるんです、気持ちいいから。子宮のなかの赤ちゃんみたいに大地が受け止めてくれる。仕事とか生活とかでたまったいろんなものを田んぼが吸収してくれるし、閉じかかった心を再び開いてくれるんですよ」。
田んぼとか畑で泥まみれになって遊んだ経験を持つ人は最近どんどん減ってきているようだ。そんななか、大城さんが提供するイベントは、ほんとうはこう過ごしたかったという子ども時代を、もう一度生き直すめの貴重な機会なのかもしれない。
大城雅史(Food Chord 代表)
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