満月と新月の海から誕生。伊江島おじいの塩「伊江島みーぐるましゅ」
満月と新月の海から誕生。伊江島おじいの塩「伊江島みーぐるましゅ」
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初回投稿日:2020.06.24
最終更新日:2024.03.27
最終更新日:2024.03.27
料理には欠かすことのできない「塩」。10数年前まではさほど特別視されなかったこの調味料は、今や沖縄を代表するアイテムの一つとして定着しつつある。粒の粗いもの、さらさらとした粉状のもの、塩辛さの強弱、他の食材と組み合わさった色鮮やかなものなどバラエティに富み、那覇の国際通りに建つ塩専門店は、味見をしながら自分好みの塩を探し求める観光客で賑わっている。
那覇から北へ車で2時間の本部港(もとぶこう)から、さらにフェリーに乗って30分の離島・伊江島(いえじま)にも、島の海から生まれる塩がある。つくり手は古堅幸一さん。真っ黒に焦げた肌にしかめっ面、ゴリゴリの方言で、会えば「あぁ、離島に来たな」と実感させてくれるおじいが塩づくりを始めたのは今から約20年前だ。
当時漁師として働いていた幸一さんの心を塩づくりへと突き動かしたのは、飲み屋で先輩がこぼした何気ない一言だった。
「白い塩を見たことがない」。
20年前の塩は果たして白くなかったのか? その真偽は定かではないが、幸一さんが語るには、伊江島では戦後間もなく塩づくりが始まるも、小さなチリやゴミなどが混ざって今売られているような状態とは少し違っていたらしい。
その一言を聞いた幸一さんは塩の作り方を習うため知人を訪ねて沖縄本島へ。そこで見た塩づくりの仕組みや流れを目で覚え、島に帰って釜を作るところから始めた。
塩釜は、幸一さんの手で一から作られたもの。「あえて、塩が固まる1番釜(下側)と、1番釜の余熱で海水を温めている2番釜(上側)の二段階構造にしている。汲んできた海水をそのまま炊くよりも、2番釜で一度温めることで塩分濃度が濃くなり、より多く塩が作れるわけよ」。
2番釜で温まった海水を1番釜に流し込み、4時間ほどぐつぐつ煮込む。カニの穴と呼ばれる気泡がぷつぷつとできてきたら少し火を弱めて26時間焚き続ける。塩の変化に合わせて火加減を調整しなければならないこの時間がもっとも神経を使うそうだ。この間は家に帰らず塩工場で寝泊まりする。
塩づくりを始めた当初は、この火加減がうまくいかず何度も失敗したという。
「薪の量もそうだけど木材の性質も関係してくるから。どんな木が良いのか見極めるまでに時間がかかった」。
そうして結晶化した塩をシャベルですくい、遠心分離器にかける。にがりが抜けて残った塩を1日天日干しして「伊江島みーぐるましゅ」が完成する。
島人(しまんちゅ)に「美味しい」と言われるようになったのは塩づくりをはじめて2年経った頃だった。
「最初は売れるなんて思わなかったけど、あんまり辛くなくて美味しいって言うわけよ。塩なのに辛くないってあるか!って思ったけど、普通と違うっていうわけ。」
確かに、みーぐるましゅは海の塩辛さとは違う。料理に塩辛さだけでないコクや旨味を足してくれる。なんとなくぼやっとするな、と感じる時、つまんで入れると味が締まって落ち着く。
幸一さんがみーぐるましゅを作る上でこだわっているのは海水を汲む場所とタイミングだ。伊江島を囲む海をまわって調査をし、塩分濃度が高いイノー(礁池)を見つけた。その珊瑚と珊瑚の間に貯まる海水を汲むため、満月と新月の日に船を出す。
「大潮の日は干満の差が激しいから、地球全体の潮が動くだろ。潮が引いたり満ちたりして混ざり合ってるから、いろんな海藻のミネラルが入った潮がイノーに貯まってくるわけ。だから満月と新月の日に行く。これはもうただのこだわり。旧暦で勝負する漁師のゲン担ぎみたいなもん」。
日本食品分析センターが調べた成分表を見てみると、みーぐるましゅのカルシウム量は、一般的な食塩の約4倍高い。栄養度の高い海水を汲むポイントは、伊江島の海のありとあらゆる場所を調べつくして見つけた。
知識と経験、失敗と修正、それに勘も交えながら、みーぐるましゅは今の味になった。
「この塩は島の人の協力がないとできない。薪とかの材料も持ってきてくれるし、味の批評もしてくれるから」。
これからは新商品として粗塩も作りたいという野望があるそうだ。「まだまだ頑張らないとな」。幸一さんは今日も釜の前に立ち続ける。
みーぐる工房
- 住所 /
- 沖縄県国頭郡伊江村字西江上126
- TEL /
- 080-1708-1256
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