沖縄のソウルフード、ヒージャー(ヤギ)料理を外人住宅でおしゃれに味わってみる。
沖縄のソウルフード、ヒージャー(ヤギ)料理を外人住宅でおしゃれに味わってみる。
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初回投稿日:2024.01.08
最終更新日:2024.08.22
最終更新日:2024.08.22
浦添市(うらそえし)の港川(みなとがわ)といえば、宜野湾市(ぎのわんし)の大山と肩を並べるオシャレなお店が軒を連ねるエリア。米軍関係者向けにつくられた「外人住宅」を街ごとリノベーションした「港川ステイツサイドタウン」は沖縄ならではの空気感を味わえる場所として地元でも人気が高い。
おしゃれでユニークなカフェやショップが軒を連ねているとあって、平日でも多くの人で賑わっているこの街から今回ご紹介するのは、ヤギ料理に初チャレンジするのにおすすめのレストラン。沖縄本島の生粋のローカルに愛されている「rat & sheep」だ。
この店をひと言で表すと、「ヤギ料理をおしゃれに味わうカジュアルなレストラン」ということになるだろう。おすすめのメニューは「ピンザハンバーグ」と「ピンザカリーライス」。ピンザとはヤギを意味する宮古島の言葉。いずれもヤギ肉をメインに据えているものの、直球というよりゆるやかなカーブやキレのあるスライダーで勝負した感じ。クセのある肉が苦手な人には食べやすく、ヤギ肉が大好物な人にも、ヤギの風味をしっかり味わってもらえる絶妙なアレンジがrat & sheepの魅力と言える。
「ヤギ食の入口になってくれればいい」という平良淳(たいら・じゅん)さんの言葉通り、県外から来た人や子どもにも好評だというヤギメニュー。実際に食べてみるとヤギ料理専門店で体験した強烈な印象とは打って変わってソフトでマイルドな風味と味わいが伝わってきた。マニッシュというよりもフェミニン、ワイルドというよりエレガント。いままでにないヤギの新しい美味しさがていねいに引き出されている。
「海の近くで育ったヤギは美味しいんですよ。ミネラルたっぷりの草や潮風を体に取り込んでいるからでしょうね」と淳さん。ヤギ汁やヤギ刺を食べたことがある人ならばわかるはずの個性的な香りと歯ごたえ。その強烈さに尻込みする人もいるが、試行錯誤した淳さんの手にかかると強烈さが抑えられ、魅力のエッセンスがしっかり感じられる料理に生まれ変わるのだ。
「沖縄のヤギは美味しいけど痩せているし、赤身が少なく脂肪が多いのが特徴なんですよ。最初はラムチョップのような仕上げ方を考えていたんだけど、歩留まりが悪いから想定していた提供価格を上回ってしまったんです」。地元の人に気軽に食べてもらえる価格帯を目指していた淳さんは、ヤギ肉をミンチにすることでこの壁をクリアしようと考えた。カレーとハンバーグ。辿り着いたのは誰もが大好きなメニューだった。
次の課題は、レシピづくり。ヤギオンリー、ビーフとの合挽き、ポークとの合挽き。3つパターンで試行錯誤を繰り返し、最終的にヤギ肉の長所を盛り立て短所を補うポークとの合挽きに決定した。
ハンバーグの材料はヤギミンチと豚ミンチと玉ねぎ、味付けは塩と胡椒のみ。シンプルさを追求することでヤギの風味をしっかり引き出すことにしたのだという。カレーはキーマ。玉ねぎとトマトを4~5時間じっくり炒めてルーを作り、コリアンダー、クミン、ガラムマサラで味付けをする。このように、てまひまかけてテーブルに運ばれてくるヤギ料理は実に美味しい。そして、話を聞けば聞くほど、味わいはそれだけ深く感じられる。
どうして、ここまでヤギにこだわるのだろう。その訳を尋ねてみるとじーんとする言葉が返ってきた。「ヤギ料理って沖縄独特の食文化なんですよね。それに、戦後の食糧難の時代には沖縄に暮らすぼくらの親世代の命をつないでくれたものなんです」。
淳さんが中学生くらいの頃まではヤギを飼う風景は沖縄で珍しいものではなかったという。祝い事があるとヤギが潰されてご馳走になり、近所の人にもそのご馳走を共有する。ヤギ料理は生きものの命について考える素材でもあり、ハレの日に地域の人をつなぐ共同社会の象徴的存在でもあったのだ。
「窓が大きくて、自然光がたっぷり入る場所だし、庭も結構広いでしょ。だから、彫刻とか陶芸とか、絵画とか。屋内のギャラリーではできないようなアートイベントも開催していきたいんです」。プロのフォトグラファーでもある淳さんはこのお店を通して沖縄といろんな関わり方をしているのだ。
料理とアートが架け橋になって人と人がつながる場所。ここでは2つのヤギメニューのほか、島野菜のグリーンカレーも楽しめる。ドリンクは生まれ育ったうるま市石川の山城紅茶やオリジナルのレモネードなどのソフトドリンクに加え、アルコールも充実。沖縄本島中部の泡盛のほか、オーガニックワインも赤白6種類ずつ用意されている。
食後のデザートはぜひ、クリームサンドスコーンを。パンと同様、パートナーの真寿美(ますみ)さんが丁寧に焼き上げているので、ひと口、ふた口と口に運ぶ度に、やさしい味が広がってくる。最近では沖縄県もヤギの価値をあらためて認識したようで、地域商品の目玉にしようとブランド化を進めているとのこと。この機会にぜひ、ヤギの魅力に触れてみてはいかがだろうか。
rat&sheep
- 住所 /
- 沖縄県浦添市港川2-13-9
- 電話 /
- 098-963-6488
- Instagram /
- https://www.instagram.com/rat.sheep/?hl=ja
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