ナミヌウトゥ <波の音> 恩納村裏真栄田
ナミヌウトゥ <波の音> 恩納村裏真栄田
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歴史文化
初回投稿日:2015.11.28
最終更新日:2024.06.12
最終更新日:2024.06.12
「青い海を眺めながら暮らしたい」
そう思って賑やかな那覇から恩納村(おんなそん)へ2年間、居を移したことがあります。沖縄本島中央の西海岸を占める恩納村は、海岸沿いにリゾートホテルが立ち並ぶ日本屈指のリゾート地です。
恩納村で暮らすようになって初めて知ったのが、通称「裏真栄田」(うらまえだ)と呼ばれる海岸一帯。その名の通り、シュノーケリングやダイビングスポットとして有名な真栄田岬の近くです。駐車場、シャワー、トイレなど設備の整った真栄田岬とは対照的に、裏真栄田は何もない天然のビーチ。当時の自宅から歩いて約10分、クルマで2分ほどという気軽に行ける美しい海でした。
サンゴ礁に囲まれた浅い穏やかな海のことを沖縄の言葉で「イノー」と言うのですが、裏真栄田はまさにイノー地帯。地元民を中心に、大潮のときは潮干狩りに、シュノーケリングに、ピクニックに、お散歩にと、多くの方々が天然の青いプールを楽しみに訪れます。日々のお散歩、夏のシュノーケリング、パーコレーターを持参しての読書など、私も足繁く通いました。
恩納村から那覇に居を戻し、1年半が過ぎました。それでも、ときおり裏真栄田が恋しくなって、那覇から出掛けることもしばしば。「眺めても良し! 潜っても良し!」と私のワガママな要望に応えてくれる稀有な海だからかもしれません。
南国の沖縄にも冬の足音が聞こえはじめた平日。気持ちのよいお天気だったので、ひとり裏真栄田へと出掛けました。いまの住まいは那覇空港の近く。高速を使ってクルマで約1時間。裏真栄田へショートトリップ!
「何度きても、やっぱりいいな」
夏の喧騒から一転、やがて冬を迎える海は、ひと気もほとんどなく、まるで祭りのあとの静けさ。海は季節、天候でまったく違う印象を私たちに与えてくれます。ギラギラとした夏の強い陽射しから比べると、ずいぶんと陽射しがやわらぎ、海の色も主張の強い原色から少しアファイ(淡い)色になっています。
誰もいない裏真栄田の砂浜にひとり腰を下ろしました。ここは毎年ウミガメが産卵に訪れる貴重な砂浜。ウミガメが産卵するあたりの砂はフカフカとしていて、ウミガメの赤ちゃんのベッドに最適です。ウミガメが産卵に訪れる時期になると、地元有志の「海がめ見守り隊」の方々の手によって、産卵場所を守るための注意を促す旗がそこかしこに立てられます。旗には産卵された日にちと孵化予定日が記されているので、運が良ければ予定日にウミガメの赤ちゃんの孵化に出会えることも。
「この浜は人間と海が共存している浜なんだよ」海がめ見守り隊の方の言葉を思い出しました。人口30万人あまりの那覇からさほど遠くはないのに、ウミガメが訪れる自然豊かな海岸、裏真栄田。「いつまでも、ウミガメが産卵に訪れる浜であって欲しいな」そう願わずにはいられませんでした。
雲の流れやティーダ(太陽)の動きとともに、海の色は刻々と移り変わります。波の音もそう。風や潮の満ち引きとともに違った音を聞かせてくれます。
この日の海はとても静かな海。私のすぐそばでは、チャプン、チャプンというゆったりとした波の音。ときおりその音に紛れて、珊瑚のカケラどうしがヒソヒソ話をするかのようにキャラキャラと音を立てていました。遠くの方から英語の会話や、男の子の「おとーさーん」と呼ぶ声が聞こえました。干潮に向かっている時間とあって、少し離れたリーフ際には白波が立ち、少し荒々しいザザーっという波音も聞こえてきます。鏡のような水面をぼんやりと眺めつつ、いろいろな音(ウトゥ)に耳を傾けていました。
どれだけ聞いていても飽きることのないナミヌウトゥ(波の音)。「私たちも遠い遠い遥か昔、母なる海から生まれてきたんだ」ナミヌウトゥは、そんなことを思い起こさせてくれます。
自然界のウトゥには「1/fゆらぎ」というゆらぎの法則があるそう。人間の心拍リズムも1/fゆらぎと同じだそう。だからきっと、ナミヌウトゥは癒やしのウトゥなのでしょう。
日常の慌ただしさから少し離れ、ひとりナミヌウトゥと潮風に身をゆだねて、ほうっとした癒やしをじんわりと感じていました。不意に、チチーという鳥の甲高いさえずりが静寂を打ち破ったのをきっかけに、ゆっくりと腰を上げました。
晴れた穏やかな日は、ナミヌウトゥに会いに海へ行くに限りますね。それも裏真栄田へ。
安積美加
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