那覇市の国道58号線沿いで組踊をカジュアルに楽しむ「58組踊(ゴーパチくみおどり)」

那覇市の国道58号線沿いで組踊をカジュアルに楽しむ「58組踊(ゴーパチくみおどり)」

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初回投稿日:2020.02.29
 最終更新日:2024.07.30

最終更新日:2024.07.30

那覇市の国道58号線沿いで組踊をカジュアルに楽しむ「58組踊(ゴーパチくみおどり)」 クリップする

琉球歴文化体験モニタープログラム

沖縄を代表する伝統芸能のひとつといえば、組踊(くみおどり)。昭和47年に国の重要無形文化財、平成22年にユネスコの世界無形文化遺産に指定された、世界に誇る芸能です。2019年は、組踊上演300周年という大きな節目を記念して、多くの企画イベントが開催。長きに渡り伝承されてきた組踊の魅力が再確認される年でもありました。

 

組踊地謡工工四附教本

 

そんな組踊をもっと多角的に楽しんでほしいと、これまでにないユニークな方法で発信するチームがいます。琉球古典音楽演奏家の仲嶺良盛(なかみねよしもり)さん、舞台の企画制作を行う平岡あみさん、小川恵祐さんの3人が中心メンバーとなった「ウザシチラボ」。2015年に出会った3人は、翌年から週に一度「琉球芸能を考える会」という勉強会をスタート。沖縄の芸能が持つ可能性や課題をディスカッションすると同時に、「もっとこんな楽しみ方があっていい!」という新しい視点で独自のプログラムを開発してきました。

 

組踊かるた

たとえば、百人一首の沖縄版として作った「組踊かるた」。

「琉歌(りゅうか)バージョンの百人一首を作って、旧正月に遊べたらおもしろいんじゃないかと思って」と、発案者の平岡さん。組踊は、唱え(セリフ)、音楽、踊り(所作)という3つの要素で構成されています。そして、セリフや音楽の多くは、サンパチロク(八・八・八・六調)のリズムからなる「琉歌」と呼ばれる形式でできているのが特徴。「組踊かるた」では、「上句(かみく)」と「下句(しもく)」で区切り、上句を読む札、下句を取る札として制作。組踊の創始者、玉城朝薫(たまぐすくちょうくん)の名作として知られる5演目「朝薫の五番」から100種の琉歌をピックアップし、それらを手書きの文字とイラストで仕上げた作品です。

 

組踊かるたで遊ぶ
写真提供/ウザシチラボ

「組踊かるたで遊ぶときは、琉球古典音楽の演奏家が被る『ハチマチ』をみんなも被ります。お手付きしたらハチマチを脱いで一回お休みというルール(笑)。琉歌に馴染みがない人にとっては、わりと難易度が高い遊びだと思うんですけど、これまでいろいろな場所で開催してきた中で、大人も子供も夢中になって楽しんでくれました」

「琉歌ワークショップ」も、おもしろい取り組み。仲嶺良盛さんが、解説してくれます。

「とある人から『琉歌っていったいどうやって作るの?』と質問されたのがきっかけで、誰でも琉歌が作れるようになるワークショップを開いてみよう、と。組踊は、演者が初めて舞台に登場したとき、自分の名前を名乗るという約束ごとがあります。それに沿って、それぞれの名前を入れ込み琉歌で自己紹介してみたり、皆さんが好きなお題で作った琉歌を僕が旋律をつけて唱えてみたり。しくみを知ることで、琉歌をより身近に楽しく感じてもらえたらいいなと思って始めたプログラムです」

 

三線

そんな新しい視点で組踊を楽しませてくれる「ウザシチラボ」ですが、中でも代表的な企画が、気軽に組踊を観られる小さなコンサート「58(ゴーパチ)組踊」。58とは、国道58号のこと。那覇市久茂地(くもじ)の58号線沿いにあるコワーキングスペース「OKINAWA Dialog」にて、2017年10月から月に一度開催されてきたイベントです。

 



組踊は、「国立劇場おきなわ」など大きな舞台で上演されることがほとんど。若手演奏家がそうした大舞台に立てるチャンスは少なく、かといって小さな規模の会場で演奏できる機会も少ないのが実状です。そこで「もっと若手が場数を踏める実験的な場があっていいのでは?」と立ち上げたのが「58組踊」。今でこそ「国立劇場おきなわ」に数多く出演する仲嶺さんも、2017年の「58組踊」スタート時は、組踊研修をようやく終えたばかりのころ。

 

三線


「若手が出演できる大きな舞台がなかなかなかったので、当時はたまに出られるとなると、ものすごく緊張してしまって。もっと経験を積んで成長したいという意味でも、あの頃からひとりで唄三線を披露できる場を作れたことは大きかったですね。『58組踊』は貴重な修行の場になったと実感しています」

「58組踊」は、“組踊をカジュアルに楽しむ”がコンセプト。では、いつもの組踊といったい何が違うのでしょう? それを確かめるべく、コンサート会場へ。まずは「58組踊」の特徴を仲嶺さんが教えてくれました。

 

組踊のメンバー

「本来の組踊は1つの演目が長く、1時間ほどの上演時間があります。全部を集中して観るのはなかなか大変という声も聞いたので、ここでは、その中の一場面を切り取って10分ほどでコンパクトに上演することにしています。でも、その一場面だけではどんな物語なのか伝わらないので、あらかじめ、あらすじを説明するトークコーナーを作りました。トークは、僕の高校時代の同級生でお笑い芸人の『キンピラゴボウ』と一緒に3人で。おもしろおかしく、わかりやすく、初めて組踊に触れる人でも理解してもらえるように、お客さんと確認し合いながら解説を進めています」

 

仲嶺さんの「一人語り組踊」

10分の上映は、仲嶺さんの「一人語り組踊」なる内容で行われます。本来の組踊は、立方(たちかた)と呼ばれる演者がセリフを唱え、地謡(じかた)が音楽を奏でますが、「58組踊」では、仲嶺さんがセリフと音楽と両方を1人で担当。毎回、手書き・手作りの台本も準備しています。

 

組踊の台本

「組踊は、大事な場面で演者の動きが止まったり、うつむいたりして、その後ろで音楽が朗々と流れているのが特徴的。音楽性が豊かな芸能と言われているんですよね。そこを際立たせることで、組踊を“聞く”ということにチャレンジしたのが『一人語り組踊』。これも『58組踊』ならではのスタイルです」

この日の上演演目は、地上に舞い降りた天女と親子の物話「銘苅子(めかるしー)」。母親が松の木に登り天に帰っていく場面、天に飛び立った後、子供たちが泣き悲しむ場面。前編、後編と2回に分け、仲嶺さんの感情豊かな「一人語り組踊」による名場面を堪能しました。

 

カラオケ組踊

「58組踊」のみどころは、まだあります。それは、題して「カラオケ組踊」! まずは、組踊のセリフをお客さんとみんなで一緒に練習。その後、仲嶺さんの唄三線の伴奏で、お客さんがセリフを唱えるという生伴奏カラオケです。

「組踊の醍醐味は、セリフが終わる直前に唄三線がフェードインしていくところ。大事な技法です。その醍醐味を、お客さんに体感してもらえたらと思い共演企画を考えました。観るだけでなく、一緒に唱えを体験することで、メロディーやセリフが持つ雰囲気がわかってもらえると思うんです。それから本来の組踊の舞台を観てみたら、より楽しんで頂けるんじゃないかなって」

 

三線

プログラムのラストは、「〆の一曲」。仲嶺さんが組踊で演奏される琉球古典音楽を1曲選び、最後に美しい唄声と三線で独唱を聞かせてくれます。この日は、平敷屋朝敏(へしきやちょうびん)による名作「手水の縁(てみずのえん)」から、「仲風節」で締め括られました。

 

おでかけ58組踊写真提供/高野大

ときには、いつもの会場を飛び出し “おでかけ58組踊”として別の場所で開催することも。2020年2月6日には、那覇市のテンブスホールで劇場版が開催されました。特別ゲストに、琉箏奏者の池間北斗(いけまほくと)さん、琉球歴史家の賀数仁然(かかずひとさ)さんを迎えたこの日の演目は、切ない恋物語を描いた「手水の縁」。華麗な箏の調べで一層豊かな広がりを見せた音楽性と、作者である平敷屋朝敏の人生、組踊の歴史背景に触れた奥行のある解説で、濃厚な一夜に。会場に集った大勢の人が一斉に唱える「カラオケ組踊」の響きもとても印象的でした。

 

おでかけ58組踊

 

琉球歴史家の賀数仁然(かかずひとさ)
写真提供/高野大


インタビューの最後に、「組踊は、琉球王朝から続く沖縄のアイデンティティであり、僕のアイデンティティでもあると思う」と語った仲嶺さん。

「琉球古典音楽を演奏し続けることで、僕が沖縄に生まれてきた意味を確認できるような感じがしています。地道に続けてきた『58組踊』も今回で30回目。この場をきっかけに、沖縄には、組踊という素晴らしい総合芸術があるということをもっとたくさんの人に知ってもらえたら嬉しいですね」

 

琉箏奏者の池間北斗(いけまほくと)さん
写真提供/高野大

「58組踊」
開催日/毎月1回 ※詳細は以下のFacebookページかメールにてご確認ください。
開催会場/「OKINAWA Dialog」沖縄県那覇市久茂地2-15-8 フージャース那覇久茂地ビル
問い合わせ先電話/080-5030-4646
問い合わせ先メールuzashichi.lab@gmail.com
Facebook/ウザシチラボ | Facebook
ホームページ/ウザシチラボ |沖縄の伝統芸能を楽しみたい人へ。 (uzashichilab.wixsite.com)


※こちらの情報は取材当時のものです。最新の情報はHP、または直接お問い合わせください。

岡部 徳枝

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