色で描く、亜熱帯の漆《漆芸家 原田城二》

色で描く、亜熱帯の漆《漆芸家 原田城二》

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歴史文化

放送日:2024.07.29 ~2024.08.02

初回投稿日:2024.08.06
 最終更新日:2024.08.09

最終更新日:2024.08.09

色で描く、亜熱帯の漆《漆芸家 原田城二》 クリップする

漆といえば木材で作った型に、赤や黒、沖縄では螺鈿(らでん)や沈金(ちんきん)、堆錦(ついきん)といった加飾技法が美しい琉球漆器を思い描きますが、本部町の山中に工房を構える漆芸家・原田城二さんの漆は、新たに伐採せず、自然に朽ちた植物や紙などを活用した、色鮮やかな発色が特徴です。

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漆との出会いで 人生が変わった

山中にひっそりと佇む古民家
山中にひっそりと佇む古民家は、住居兼ギャラリーになっています

京都で生まれ、東京でデザインの仕事に就いた後、奥様の郷里である秋田県へ転居し、漆の修業を重ねた原田さん。

その後は蒔絵専門の会社を立ち上げて何人もの職人を抱え、事業を軌道にのせました。

漆を知れば知るほど、その奥深さに惹かれていきます。古道具店を周り、古い文献を頼りに東北の漆を研究し、独自の漆を模索し始めました。

1988年、東京赤坂のホテルニューオータニ内ギャラリー「市中屋」での個展を皮切りに、全国での漆芸展や展覧会で画期的な漆作品を発表し、数々の受賞を果たします。

1994年(以後、毎年24回開催)に、沖縄の那覇にあったアートギャラリー「青砂工藝館」で展示会を行う機会があり、漆の産地であるタイやミャンマ―、中国などのアジアと、秋田や青森の間に位置する、南国沖縄での漆づくりに興味を持ちます。
 

南国ならではの発色

漆は、漆の木の傷口から分泌・浸出する樹液のことで、乾くとかさぶたのようなものを作り、傷口を保護する役目があります。この漆を木地(木材)に塗って乾燥させたものが漆作品になります。

漆が乾くメカニズムは「水分が空気中に蒸発する」とは逆で「空気中の水分を取り込んで」乾きます。

漆は、育つ土地の気候に合わせて乾くようになっていて、北で採れた漆はサラサラと乾燥地でよく乾き、粘着性が高い南国の漆は、湿度の中でゆっくりと乾く性質があります。

漆の精製作業の工程で鉄粉を混ぜ、酸化作用により漆を黒くしたものが一般的な黒い漆(黒漆)になりますが、原田さんは鉄粉ではなく、江戸時代以前から使われていた顔料の松煙を混ぜて、時間を経て漆作品の表面が劣化しても、黒の褪色を防ぎます。
さらに、漆に原色の顔料を加え、南国の強い紫外線の力を借りて、湿度をコントロールしながら生み出す色鮮やかな発色は、原田さんならではの表現です。
「漆から明るい色を出すには、沖縄の紫外線がとてもいいんです。紫外線を浴びると、漆の表面に透明感が出て、緑や青、黄色などが鮮やかに、きれいに仕上がります。本来漆は、何色でも作れるんですよ」

漆を塗った器
漆を塗った器を、最も簡単な漆室(密閉できる衣装ケース)に入れて乾かします。ある程度落ち着いたら、室の中に濡らした布を追加して、湿度を調整します。紫外線をしっかりと浴びて、こんなに鮮やかな漆に仕上がります

持続可能な資源で作る これからの漆

アレカヤシ
散歩途中に出合ったアレカヤシを持ち帰ります

原田さんのこだわりの一つは、ありのままの形を生かした木地に漆を重ねること。例えば、アレカヤシやカシワバゴムノキ。どれも自宅の庭や少し歩けば出合う植物ばかりです。 
「沖縄という小さな島の限られた森の中で、皆が木を使ったらいつかは緑がなくなってしまうかもしれない。漆は、放っておけばそのままゴミになるものに命を吹き込み、器として生まれ変わらせることができるのです。枯れて土に還っていく葉っぱの中で、形のいいものを器にできたら、未来永劫続く木地になるんじゃないかと思ったんですよね」

甕の中
①植物は泥水を混ぜた甕の中に一ヶ月ほど漬け込んで、バクテリアや細菌に葉っぱの油分や肉質を食べさせます

葉っぱの表面にある蝋を丁寧に削ります
②洗って形を整えて、乾燥させて、さらに葉っぱの表面にある蝋を丁寧に削ります

漆を塗った葉っぱに薄い和紙を貼る
③漆を塗った葉っぱに薄い和紙を貼って、さらに麻布を重ね、形が崩れないようにして、漆を重ねていきます

漆によって生まれ変わります
朽ち果てたままなら、誰の目にもとまらない天然素材が、漆によって生まれ変わります

作りたいものを 漆で表現する

文献などから興味を持った技法があれば、まずは取り入れている原田さん。

昔読んだ童話をモチーフにした鳥の器は、羽根の部分がフタになっていて、脱胎乾漆という技法を用いました。

粘土で原型を作り、その表面に麻布を張り固め、内側の粘土をくり抜いて空洞にし、表面に漆を塗り重ねる、とても手間のかかる作業ですが、自由な造形と軽くて丈夫な仕上がりになります。

脱胎乾漆は、奈良時代の興福寺の阿修羅像など、主に仏像制作で使われていました。

作りたいものを漆で作っている
「漆の作品を作るというよりは、作りたいものを漆で作っているという感覚ですね」

脱胎乾漆造の作品
脱胎乾漆造の作品。右は昔読んだ童話をモチーフにした鳥の器。左は麻布の代わりにシカの皮を貼って、漆を染み込ませて固めました

制作途中の漆
制作途中の漆。ここから漆を重ねます。市販の紙カップが軽くて丈夫な器に生まれ変わります

たこやきの舟皿
役目を終えたら捨てられるたこやきの舟皿も、丁寧に漆を重ねていけば、一生物の特別な存在になります

柔軟な発想がつなぐ 伝統工芸

漆作家を目指す若者たちに、これまで培ってきた技法やアイデアを惜しみなく提供している原田さん。

「木地を手に入れる術がない」という学生からの相談に「木地から自分で作ってはどうか?」というアドバイスをきっかけに、原田さん自身も市販の紙を木地に制作を始めました。

「漆に携わる皆が技術や知識を出し合って共有し、漆業界を盛り上げていきたい」と話す原田さんの柔軟な発想や姿勢は、時代とともに変化する伝統工芸や美術・芸術のあり方に一石を投じているのかもしれません。
 

漆芸 原田

住所 /
沖縄県本部町字大堂706
TEL /
0980-48-3408(前日までの要予約)

沖縄CLIP編集部

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放送日:2024.07.29 ~ 2024.08.02

  • 放送日:2024.07.29

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