沖縄芝居を堪能! 毎年5月の恒例行事「母の日公演」(前編)
沖縄芝居を堪能! 毎年5月の恒例行事「母の日公演」(前編)
Reading Material
歴史文化
初回投稿日:2024.05.09
最終更新日:2024.05.10
最終更新日:2024.05.10
写真提供:劇団うない
沖縄芝居で泣き笑い「母の日公演」
沖縄で、毎年開催される沖縄芝居の「母の日公演」をご存じでしょうか? その始まりの年月は定かではありませんが、沖縄芝居の文化が興隆するとともに、母の日に合わせてさまざまな劇団が沖縄芝居の舞台を行うように。やがて年に一度の恒例イベントとして定着していきました。
役者にとっては1年の中でも気合いが入る重要な腕の見せどころ、また観客にとっては、仕事も家事も忘れて、大いに笑って泣いて楽しむ場。ある時代には、母の日を含む前後で1週間から10日間かけて連日「母の日公演」が行われていたこともあるそうで、沖縄県民にとって特別な娯楽だったことが伺えます。
近年は、主に母の日のみの開催となりましたが、1日に2公演行う劇団がほとんど。昼公演にはこちらの劇団を観て、夜公演にはあちらの劇団を観る。そんなふうに劇場をハシゴする人も多く、「母の日公演」にかける期待、沖縄芝居の人気は未だ健在です。
役者にとっては1年の中でも気合いが入る重要な腕の見せどころ、また観客にとっては、仕事も家事も忘れて、大いに笑って泣いて楽しむ場。ある時代には、母の日を含む前後で1週間から10日間かけて連日「母の日公演」が行われていたこともあるそうで、沖縄県民にとって特別な娯楽だったことが伺えます。
近年は、主に母の日のみの開催となりましたが、1日に2公演行う劇団がほとんど。昼公演にはこちらの劇団を観て、夜公演にはあちらの劇団を観る。そんなふうに劇場をハシゴする人も多く、「母の日公演」にかける期待、沖縄芝居の人気は未だ健在です。
庶民の要望から生まれた沖縄芝居
「泊阿嘉」/撮影:大城洋平、写真提供:沖縄芝居研究会
沖縄芝居の歴史の始まりは、1879年の廃藩置県の頃までさかのぼります。琉球王朝時代、首里城で組踊などの宮廷芸能を演じていた士族たちは、王府が亡びたことによって職を失いました。そこで生計を立てるため考えたのが、町に下り、庶民から料金をとって演じる商業劇。しかし、優雅な宮廷芸能は、市井で長くは受け入れられず、演者たちは庶民の声を取り入れた新しい芸能を創作。それが、軽快な音楽に乗せた雑踊り(ぞうおどり)や、民の暮らしを描いた沖縄芝居でした。
「伊江島ハンドー小」/撮影:大城洋平、写真提供:沖縄芝居研究会
沖縄芝居のジャンルは、大きく分けて、歌、台詞、演技、舞踊で構成される「歌劇」と、沖縄の言葉で演じられる「方言せりふ劇」の2つ。中でも、明治・大正時代に初演された「泊阿嘉(とぅまいあーかー)」、「伊江島ハンドー小(いーじまはんどーぐぁー)」、「奥山の牡丹」、「薬師堂」は、四大歌劇と称され、今も不動の人気作として演じ続けられています。
「薬師堂」/撮影:大城洋平、写真提供:沖縄芝居研究会
2024年の母の日は、5月12日。今年も、さまざまな団体が沖縄芝居の「母の日公演」を行います。ここでは、その中から3つの団体「劇団うない」、「劇団うびらじ」、「沖縄芝居研究会」をご紹介。各団体の特徴や、演目のみどころ、そして沖縄芝居の魅力についてお聞きした話を、前編と後編に分けてお送りします。
姉妹という名の女性一座「劇団うない」
劇団うない5周年記念公演「月城物語」/写真提供:劇団うない
前編では、2004年に結成された「劇団うない」をご紹介しましょう。“うない”とは、沖縄の言葉で“姉妹”という意味で、その名のとおり団員は女性のみで構成。劇団名は、数多くの沖縄舞台を手掛けてきた演出家の幸喜良秀(こうきりょうしゅう)さんによって命名されました。
前身は、1949年に旗揚げされ、沖縄芝居の一時代を築いた女性一座「乙姫劇団」。「劇団うない」の現団長で、82歳にして現役役者の中曽根律子(なかそねりつこ)さんは、その「乙姫劇団」の元団員。そもそも沖縄芝居に興味を抱いたのは、「乙姫劇団」のお芝居がきっかけだったのだとか。
「中学生の頃、地元の本部町(もとぶちょう)にあった『本部劇場』で初めて観て、すっかりファンになりました。皆さん髪の結い上げはきれいだし、歌は上手だし、声もマイクなしで後ろの客席まで届くほど大きくて。それからずっと『乙姫劇団』に入りたいという憧れを抱いていて、那覇に出て就職した後も、仕事が終われば劇場に飛んで行ってお芝居を観る日々。もう好きで好きでたまらなかったんです(笑)。それから、知り合いを通じて紹介して頂けることになり、念願かなって入団。24歳の頃でした。当時、劇団には4大スターと呼ばれる先輩方がいました。団長の間好子(はざまよしこ)先生、兼城道子(かねしろみちこ)先生、大城光子(おおしろみつこ)先生、上間初枝(うえまはつえ)先生。そうした先輩方の素晴らしいお芝居を観て私は育ちました。一人ひとりの動きや歌い方、台詞まわし、今でも皆さんの姿が胸に焼き付いています」
「月城物語」で蜘蛛の精を演じる中曽根律子さん/写真提供:劇団うない
先輩からの教えを後輩に継承するために
2002年、52年続いた「乙姫劇団」は、当時の団長・間好子さんが遺した「乙姫の名は自分が天国に持っていく」という言葉に添い、惜しまれつつも閉団。その後、「乙姫劇団」の副団長だった兼城道子さんが2004年に立ち上げたのが「劇団うない」でした。
(左)中曽根律子さん、(右)兼城道子さん/写真提供:劇団うない
「背中を追い続けてきた道子先生に付いて、私も『劇団うない』に入団しましたが、5周年公演を前に先生が体調を崩されて。その時に、私に後を継いでほしいという相談がありました。自信がなかったんですが、後輩の団員たちを育ててほしいという先生の並々ならぬ熱意に心を打たれて、団長を継ぐ決意をしました。大切にしていることは、前身である『乙姫劇団』の形を崩さないこと。マイクを頼りにしない声量で自分の喉で歌い上げる、踊りはズレのないように、衣装はきれいに整える。“清く美しく”ということですね。『劇団うない』は、今年で20周年。最年少は高校2年生という後輩たちが頑張ってくれていて、とても頼りになります。私が見たとおり、教えられたとおり、先輩方の芸を伝えていきたいと思っています」
2023年上演「中城情話」より/写真提供:劇団うない
(左)中曽根律子さん、(右)兼城道子さん/写真提供:劇団うない
「背中を追い続けてきた道子先生に付いて、私も『劇団うない』に入団しましたが、5周年公演を前に先生が体調を崩されて。その時に、私に後を継いでほしいという相談がありました。自信がなかったんですが、後輩の団員たちを育ててほしいという先生の並々ならぬ熱意に心を打たれて、団長を継ぐ決意をしました。大切にしていることは、前身である『乙姫劇団』の形を崩さないこと。マイクを頼りにしない声量で自分の喉で歌い上げる、踊りはズレのないように、衣装はきれいに整える。“清く美しく”ということですね。『劇団うない』は、今年で20周年。最年少は高校2年生という後輩たちが頑張ってくれていて、とても頼りになります。私が見たとおり、教えられたとおり、先輩方の芸を伝えていきたいと思っています」
2023年上演「中城情話」より/写真提供:劇団うない
芝居の中に生き続ける沖縄の昔言葉
今回上演する演目は、「乙姫劇団」時代に律子さんも出演したという小島伸太郎氏作・時代人情歌劇「糸車」。ないと思っていた脚本がふとした所から見つかったことで、それをもとに上演時間に合わせて随所を削り、自ら書き直したのだそうです。
「もともと上演時間の長い作品なので、3分の2くらいは削ったと思います。書き直すのは大変でしたが、改めて台詞に向き合ってみて、とってもあったかい劇だなと感じました。義理の母を実の母親のように慕う息子、兄を励ます妹、優しい家族愛にあふれています。それから、子どものためならいくらでも強くなれるという女の意地。人間の生き方というものを教えてくれる物語です」。
2023年上演「中城情話」より/写真提供:劇団うない
一番の見どころは、「終盤の“樽金(たるがに)”という男性役の言葉」と、律子さん。
「“義理んふみたがん 志情んちくち 浮世渡ゆしど 人ぬかなみ”。義理を踏み間違わずに、情けを尽くして世を渡るのが人の大事な要(かなめ)という意味です。沖縄芝居には、こういった教訓を伝える昔言葉がたくさんあります。芝居じゃないと聞けない本当のうちなーぐち。これは絶対なくしてはいけない。“どぅーの島の言葉わしりーね、やみどぅーや”。自分の生まれ故郷の言葉を知らないということは悲しい、ということ。私が胸にずっと留めている言葉で、これがあるから私は芝居を続けられています。皆さんにも沖縄芝居で昔言葉の良さを感じて頂きたいですね」
2024年「母の日公演」稽古風景/写真提供:劇団うない
後編では、「劇団うびらじ」、「沖縄芝居研究会」をご紹介します。
「もともと上演時間の長い作品なので、3分の2くらいは削ったと思います。書き直すのは大変でしたが、改めて台詞に向き合ってみて、とってもあったかい劇だなと感じました。義理の母を実の母親のように慕う息子、兄を励ます妹、優しい家族愛にあふれています。それから、子どものためならいくらでも強くなれるという女の意地。人間の生き方というものを教えてくれる物語です」。
2023年上演「中城情話」より/写真提供:劇団うない
一番の見どころは、「終盤の“樽金(たるがに)”という男性役の言葉」と、律子さん。
「“義理んふみたがん 志情んちくち 浮世渡ゆしど 人ぬかなみ”。義理を踏み間違わずに、情けを尽くして世を渡るのが人の大事な要(かなめ)という意味です。沖縄芝居には、こういった教訓を伝える昔言葉がたくさんあります。芝居じゃないと聞けない本当のうちなーぐち。これは絶対なくしてはいけない。“どぅーの島の言葉わしりーね、やみどぅーや”。自分の生まれ故郷の言葉を知らないということは悲しい、ということ。私が胸にずっと留めている言葉で、これがあるから私は芝居を続けられています。皆さんにも沖縄芝居で昔言葉の良さを感じて頂きたいですね」
2024年「母の日公演」稽古風景/写真提供:劇団うない
後編では、「劇団うびらじ」、「沖縄芝居研究会」をご紹介します。
「劇団うない」母の日公演
- 日時 /
- 2024年5月12日(日)13時開演、17時開演の二部制
- 会場 /
- 国立劇場おきなわ 小劇場
- 住所 /
- 沖縄県浦添市勢理客四丁目14番1号
- チケット料金 /
- 2,500円(前売)、3,000円(当日)、学生1,500円(当日受付のみ)
- 予約・お問い合わせ /
- 劇団うない事務局 090-7570-8128
- プレイガイド /
- 国立劇場おきなわチケットカウンター 098-871-3350(窓口販売のみ)
- 「劇団うない」SNS /
- https://www.facebook.com/profile.php?id=100069051087075&locale=ja_JP
同じカテゴリーの記事
よみもの検索