船大工と一緒に沖縄の海を帆漕する、帆かけサバニクルーズツアー。「ヘントナサバニ」

船大工と一緒に沖縄の海を帆漕する、帆かけサバニクルーズツアー。「ヘントナサバニ」

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歴史文化

初回投稿日:2024.10.17
 最終更新日:2024.10.17

最終更新日:2024.10.17

船大工と一緒に沖縄の海を帆漕する、帆かけサバニクルーズツアー。「ヘントナサバニ」 クリップする

帆かけサバニクルーズツアーを運営するのは、沖縄県大宜味村(おおぎみそん)の「へントナサバニ」。陸地に大きく入り込む静かな内海「塩屋湾」の入口にある小さな島「宮城島」で、サバニ製作も手がけている。

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ヘントナサバニの看板

待ち合わせ場所に登場したのは船大工でもある“テッペイ”船長こと邊土名徹平(へんとなてっぺい)さん。HENTONA SABANIと刺繍が入ったデニム生地のキャップを被ったお洒落で爽やかな風貌で、船大工と聞いて思い浮かべていた勝手なイメージとはかけ離れた印象。
 塩屋湾の海

ヘントナサバニのある「宮城」という集落は、北と南に橋が架けられた離れ島。時折、車が通るだけで人の往来も少なく、とても静かな環境だ。
 
船長こと邊土名徹平さん

「およそ200年程前から父の幼少期まで先祖代々生活をしていたのが宮城島。そんな私自身のルーツであるこの土地で、自然と深く関わり合いながら、これまで4年半活動してきました」。

きっかけは心奪われた一艘の帆かけサバニ

20代の頃から「沖縄に貢献できる仕事がしたい」という想いを抱いていたというテッペイ船長。 

約10年間ホテル業界で働き、日本各地で勤務。31歳の時に、カナダで1年間生活した経験は特別だったという。
 
ヘントナサバニの邊土名徹平さん

多人種が集まるカナダのバンクーバーの公園でサッカーをしていると、乱闘騒ぎに遭遇することもあったという。多種多様な考えが混じり合う環境で日本では考えられないようなことが起こる。これまでの常識は自分の小さなコミュニティで構成されたものだったことに気付かされた。 

世界と日本の違いを肌で感じ、深めた知見を活かせたらと考え、帰国後に石垣島(いしがきじま)の旅行会社に就職した。 

そこで八重山諸島の素材を活かした観光プロモーションを行っていたときに、一艘の帆かけサバニに出会う。金属の釘やネジを使用せず木材のみで製作され、自然に溶け込むフォルムの美しさに心を奪われた。その帆かけサバニを手がけた船大工の手しごとの質の高さにも感銘を受けた。
 
サバニ

1960年代ごろまで実用的に活躍していた木造の帆かけサバニだが、エンジンや繊維強化プラスチックが主流になるにつれ、一時期失われつつあったという経緯がある。 

「技術の進歩で途絶えかけていたものを継承していきたい。それが私にとっての”沖縄に貢献できる仕事”になるのではないか」 

船大工の世界は決して甘い世界ではない。生半可な努力では認めてもらえないだろう。しかし、本気で学び、実践すれば自分にもできるはずだ。そんな熱意と覚悟を持って、心を奪われた帆かけサバニを手がけた船大工に弟子入りを願い出たのだった。

修行期間から大切にしてるもの

船大工は職人の世界。道具にすら触らせてもらえない下積みの長さを覚悟していたが、そんなことはなかった。 

「まずは一艘作ってみなさい」

今となってはすごくありがたい言葉だった。材料を自己資金で用意して、1から10までを教えてもらうのではなく、1と10を教えてもらい2から9は自分自身で考えて取り組む。修正ができる範囲の失敗をたくさん経験させてもらえる恵まれた環境だった。

船大工の道具

修行をすること1年半で、帆かけサバニを造れるようになったテッペイ船長。しかし、帆かけサバニを造れるようになったからといって船大工として満足には至らない。初心を忘れず技術を磨き続けるために、度々見返すものがある。それはフンドウと呼ばれる木のチギリ。生まれて初めて手にしたノミで造ったもので、とても不格好で使えなかったため捨てる予定だったものだが、独立して5年経ったいまでも大切に持っている。 

※チギリ:木材を繋ぎ合わせる、蝶々の形をした小さな木片のこと
 
サバニの側面

「技術の向上に終わりはないと考えています。今でも眺めては、初心を取り戻すようにしているんです」。

幸せを運ぶ帆かけサバニ

テッペイ船長には大切なバディがいる。帆かけサバニ製作やサバニツアーを共に切り盛りする奥様のマッチさんこと邊土名有佳子(へんとなゆかこ)さん。大阪出身だが海が大好きで沖縄へ移住し、シーカヤック・シュノーケル・サップのインストラクターを経験した後、帆かけサバニにも興味を持つようになった。実は、ふたりの出会いも帆かけサバニがきっかけだ。

 帆かけサバニ

「サバニは幸せを運ぶ船と信じているんですよ」。 

少し恥ずかしそうにふたりの出会いについても教えてくれた。

テッペイ船長が修行をしていた石垣島のサバニ工房へ、当時沖縄本島に住んでいたマッチが訪ねてきたそう。テッペイ船長の一目惚れだった。

 サバニを教えるマッチさん

「帆かけサバニの話はもちろん、好きな音楽や仕事のこと、なぜ沖縄に来たのかなどたくさん話をすればするほど歯車がカチッカチッと合わさっていく音がした」とマッチさんは言う。

この機会を逃してしまえばもう会えないかもしれない、と感じたテッペイ船長は、マッチさんと出会ったその日に好きですと気持ちを伝え、そこから遠距離での交際がはじまった。 

マッチさんもテッペイ船長に対して、同じ気持ちを持っていたそう。断る理由はいくら探しても見当たらなかった。それからわずか4か月後に結婚。これまで別々の道を歩んでいたふたりは1艘のサバニに乗り込み、長い人生の航海へと漕ぎ出した。

帆かけサバニ

「相手を思いやる心を持っていて、私と同じモチベーションでマリンアクティビティを楽しむことができる人柄と体力。そして何よりも私が思い描いていることを無制限に信じてついてきてサポートしてくれる世界一の妻です」とマッチさんへの思いを語るテッペイ船長。 

「一つのものに対する想いやプロセスをとても大切にする姿勢と、仕事への熱量。1年半で独立してしまう能力の高さがあるからこそ、不安もあるけど身を任せて付いていける世界一の夫です」とマッチさんからもテッペイ船長への思いも聞くことができた。

受け継ぐ帆かけサバニの魅力

船大工でもあるテッペイ船長自ら帆かけサバニクルーズツアーを行ってくれることも「ヘントナサバニ」のツアーの魅力。きっとこんな貴重な機会はめったに無い。

テッペイ船長は「他のマリンアクティビティでは味わえない魅力がサバニにはある」と、語る。
 
サバニの帆

帆かけサバニはエンジンが無く風力で進むので、とっても静かだ。実際に帆かけサバニに乗せてもらうとそれがよくわかる。エンジンの音や振動が無く、日頃の喧騒から解き放たれた静寂の海を風力だけで滑るように進む心地良さは帆かけサバニ最大の魅力だろう。
 
塩屋湾のきれいな海

またテッペイ船長は帆かけサバニを造っていても乗っていても先人の知恵が詰まっていることを感じるのだそう。帆かけサバニは金属の釘やネジを使用せず、木材だけで造る。そのため自然に溶け込む優しい佇まいをしていて、独特な船底の形状は波をいなす役割があり高波でも安定感を保てるそうだ。

 帆かけサバニで出港

先人の知恵が詰まった帆かけサバニを次の世代まで守り繋げたいテッペイ船長とマッチさん。近年、出番を失いつつあった帆かけサバニは、便利さばかりを追求するが故に失ってきた大切なものを教えてくれる。その魅力は決して途絶えて良いものだとは思えない。

 サバニツアーの様子

ぜひ船大工のテッペイ船長からたくさんサバニのことを教えてもらいながら、帆かけサバニクルーズツアーを通してその魅力を体験して欲しい。きっとそれが帆かけサバニを途絶えさせないことに繋がっていくはずだから。

(株)村上佑写真事務所

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