宮城島で”スーテー”みんな一緒に《あごーりば食堂》

宮城島で”スーテー”みんな一緒に《あごーりば食堂》

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放送日:2025.03.03 ~2025.03.07

初回投稿日:2025.03.11
 最終更新日:2025.03.11

最終更新日:2025.03.11

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しまんちゅ旅はじめました

沖縄本島と橋で繋がるうるま市の宮城島に、毎週土曜日だけ営業している古民家を改装した食堂があります。

食堂の名前はあごーりば食堂。あごーりばとは宮城島の言葉で「どうぞお召し上がりください」を意味します。

食堂を運営しているのは、それぞれに本業を持つメンバーで構成する地域団体、SU-TE(以下スーテー)。

スーテーとは「みんな一緒に」という宮城島の方言です。

平安座島と伊計島の間にある宮城島
平安座島と伊計島の間にある宮城島

スーテーの代表を務める新屋秋夫さん
スーテーの代表を務める新屋秋夫さん

島のリビングのようなあごーりば食堂

土曜日の朝11時。食堂はオープンと同時に、島の人たちでいっぱいになります。メニューは日替わり、沖縄そば、豚丼、鶏の骨汁、自家製酵素ドリンクなど。

 

料理を担当するのは、スーテーメンバーの一人、土田芳枝さん。土田さんはもともと金武町の出身ですが、長く東京で暮らした後、6年ほど前にご両親の故郷である宮城島に移住し、スーテーに参加しました。普段は島の学童で仕事をしています。

今日の日替わりメニューは「チーイリチャー」。豚の血炒めです。

「最初はね、どんな料理を作っても、味が濃い、薄い、もっとこうしろ、あーだ、こーだ、口うるさくて。まるで自分の家族に注文をつける感覚。でも、私が自分のおうちの味で行こうって決めたら、誰も何も言わなくなりましたよ(笑)」と土田さん。

その他、あごーりば食堂では、ヨガや三線教室、高齢者向けのお弁当配達や子ども食堂なども行っています。誰かが何かを実現できる場所でもあるようです。

テーブルを囲む人たち
親が島外で働く家庭にとって、子どもだけでも行ける食堂は見守り的な役目も果たしています

料理長の土田さん
料理長の土田さん。要望があれば、土曜日以外でも島の高齢者たちのお弁当や、行事ごとのオードブル、冠婚葬祭の重箱を作ることもあります。毎月第二木曜日は地域食堂として、農家の方や企業から食材の提供をいただき、50食のお弁当を必要な家庭にお届けしています

鍋をしゃもじでかき回す
みんなが大好きなチーイリチャー。集落の旧正月に欠かせない一品は、寒い日の体をポカポカ温めてくれます

チーイリチャー定食は1000円。白米、ミニそば、小鉢つき
チーイリチャー定食は1000円。白米、ミニそば、小鉢つき

食堂内の様子
宮城島を始め、うるま市の島しょ地域に移住してきた家族にとって、食堂は地域の人たちと交流を深められる大切な場所。三線を弾く人や、住民同士のユンタク、読書をする人…、それぞれの過ごし方が楽しめるので、この心地よさを求めリピートする観光客も多いようです

はなりそば
はなりそばは大600円、小400円

宮城島の集落散歩

この日は、スーテーメンバーの名護盛徳さんが、北海道からのお客様に集落を案内しました。

過疎化が進む集落ですが、湧き水が豊富な宮城島では、昔は生活用水に湧き水(ヤンガー)を使っていたことなどを説明しながら、歩きます。

集落散策をする人たち
昔はパイプを繋いで湧き水を組み上げたこと、今でも旧暦行事や旧正月には皆できれいに掃除をして、自然に感謝するなど、沖縄の自然崇拝についてお話しします

島バナナ
島の豊かな自然にお客様は大興奮。止まらない質問に名護さんは丁寧に答えていきます

テーブルの前で芝居の練習をする人たち
個性的すぎるスーテーメンバーと島の人たちで、ウチナーグチの創作村芝居を計画中。今日は、中部で活動する劇団、「ウチナーグチ演劇集団比嘉座」の比嘉陽花さんを招いて第一回のお稽古です。島の湧き水の神様が登場するお話には、水への感謝の気持ちが込められています

宮城島の湧き水
宮城島上原区の湧水には、常にこんこんと水が溢れ、地域で大切にされています

本当の豊かさとは何か教えてくれた宮城島

スーテーの立ち上げメンバーである石川優子さんは、もともとやんばるの出身。県外で働いた後、10年前にうるま市の島嶼活性事業に参加するため伊計島へ移住。

8年前からはお隣の宮城島で活動を始め、個性豊かで人間味の溢れる島の人たちとの関係性を築いていく中で、食を通して島のみんなが集る島のリビングのような場所を作りたいと思うようになりました。

5年前に、集落内で廃墟になっていた古民家を借り、コツコツ自分たちで修理を始めたところ、行政職員が県内の専門学校『インターナショナルデザインアカデミー』で建築を学ぶ学生たちをつないでくれ、建築家の卵たちがたくさんアイディアを出してくれました。そして、何のお礼もできない中で、移住者や観光客、通りすがりの方なども手伝ってくれました。これまでに総勢50人ぐらいのボランティアが関わり、週末を中心に、1年半をかけて建物が完成しました。

あごーりば食堂は、全員がボランティアですが、無償で手伝ってくれる方々は口々に「ボランティアではない」と胸を張るので、敬意を込めて「ティガネー(お手伝い)マン」と呼んでいるそうです。

食堂をスタートして以来、とにかくスーテーが持続可能でありたいと、状況に応じて営業日や時間を柔軟に変えて、今は週に一度、土曜日だけの営業に落ち着きました。

食堂の営業は土曜日だけですが、平日もできるだけ建物を開放し、島の人たちが訪れた時には、お茶を出してゆっくりできるようにしています。

「ここは、島のシェアキッチンのようなもの。例えば、一人分のオードブルを作ってほしいとか、好みの味付けでお弁当を作ってほしいとか、誰かにとって台所が必要なのであれば、そこには応えたい」と石川さん。

 

現在では、修学旅行や企業研修の受け入れも行っていて、食堂は地域の魅力を伝えつつ、人と人とがつながる場にもなっています。

特別なプログラムを設けるのではなく、普段の島の暮らしを体験してもらうことで、訪れる人々の気づきとなり、地域住民にとっての自信にもつながる、島の子どもたちも生きたコミュニケーション力が身に付き、自然とともに暮らす中で、目の前の貴重な環境を改めて知る機会にもなっています。

こうした活動は、島嶼が単なる観光地ではなく、訪れる人々にとっても、住む人々にとっても、「生きることへの関心」を生む意義ある場所であり続けることにつながっています。

「これからはAIの時代だというけれど、私は宮城島で、人間にしかできないことをずっと味わわせてもらっています。豊かさって、いいことばかりじゃなくて、人間同士の喜怒哀楽のぶつかりあい。だけど、互いが理解し歩み寄ろうとするその先に幸せがあること、それこそが豊かさじゃないかなと思います」と石川さん。


メンバーの一人、石川さん
「島は閉鎖的な部分も多い中で、宮城島の人たちは本当に寛容だったと思います。ぶつかりながらも、いろんなものを受け入れて、とにかく聞いてくれた。今、私は島の人たちから本当の豊かさをいただいていると思います」と石川さん

大らかに受け入れる強さ

あごーりば食堂では、夜になると不定期で「あごーりBAR」が開催されます。

今日は、神奈川県で地域活動に携わるお客さんが訪れ、BARがスタートしました。

あごーりBARには、県外からの問い合わせも多いそう。お目当ては島んちゅとお酒を酌み交わし交流をすること。聞き慣れない方言や、独特のコミュニケーションに圧倒されながらも、エネルギッシュな時間を過ごせるこの空間が、どこにも真似できない力を生み出しています。

テーブルを囲んで乾杯をする人たち
スーテーメンバーもフル参加。ビールで乾杯! この空間が癖になり、中には1年に複数回、県外からBARを予約する人もいるそうです

三線や唄、太鼓など芸達者な島の人
あごーりBARを盛り上げるのは、三線や唄、太鼓など芸達者な島の人

カチャーシーを踊る人
もちろんカチャーシーで盛り上がります

 

いろんな出会いを通じて仕事が生まれたり、島らしい商品が作られたり、人財の移住につながったり…。ここに集まる寛容な人たちからつながるご縁。

仕事のこと、家族のこと、趣味や恋愛、時には複雑な人生相談が始まることもあるあごーりBAR。我さきにと喋りだす島んちゅと、あまり聞き取れない方言に耳を傾けるお客さんの様子は、さながら大家族のリビングで奏でられるカノンのようで、とても力強く美しい光景です。

あごーりば食堂

住所 /
沖縄県うるま市与那城上原21
営業時間 /
毎週土曜日 11時00分~14時(売切れ時は早く閉まります)
TEL /
070-9122-8865
Webサイト /
https://www.facebook.com/agoriba211218/

沖縄CLIP編集部

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放送日:2025.03.03 ~ 2025.03.07

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  • 放送日:2025.03.06

  • 放送日:2025.03.07

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