演劇で生きる力を育む。《こどものためのドラマスクール沖縄》

「こどものためのドラマスクール沖縄」は、9歳から18歳までの子どもたちが通う演劇教室。俳優で演技指導者の渡辺奈穂さんが主宰しています。

20代の頃は、東京の劇団で活動していたという渡辺さん。母の故郷である沖縄で初めて演劇のワークショップを開催することになり、俳優ではない普通の人たちが「演じる」ことで生き生きと変化していく様子を目の当たりにして、「演劇は人生に役立つ」ことに気がついたと言います。

「演劇を通して人と関わることで、人に伝わる話し方や表現力、発想力が育ちます。そして何より、お互いに認めあう過程を経て、自己肯定感を得ることにつながります」と、渡辺さん。以来20年以上に渡って、演劇のメソッドを用いた幅広い活動を続けています。


ドラマスクールの子どもたちと渡辺奈穂さん（右端）


那覇市内のレッスン場で週1回レッスンを行っています
 

演劇のレッスンにはさまざまな手法がありますが、渡辺さんが力を入れているのは「インプロ」と呼ばれる即興演劇です。インプロとはインプロゼーション（即興）の略で、演劇、音楽、アートなど芸術分野における表現手法の一つ。即興演劇は台本なしで演じられるため、思考と創作が同時に行われることが特徴です。

「私自身は30代の時にインプロに出会いましたが、子どもの頃に知っていたらもっと世界が広がっていたかも、という想いで2018年にスクールを始めました。子どもと一緒に取り組んでいると、子どもたちの発想や言動に教えられることが多くて、台本のあるお芝居以上の感動を共有させてもらっています」と、渡辺さん。

即興でお芝居と聞くと、普通の人にはハードルが高いようにも感じますが、「誰でも子どもの頃に“ごっこ遊び”や“ままごと”をしていますよね。あれもインプロです。演劇は、台本があって練習してからするものだと思われがちなんですが、本当はもっと自由なんです」 と、渡辺さんは言います。


人前でも臆せず演じることで、子どもたちは自分で自分の殻を破っていきます


即興で演じる面白さは「やってみなければわからない」そう。やればやるほど自由に、楽しくなる！


台本のない物語が展開するインプロ。目の前で起きていることに、大人も子どもも心の底から笑う！

渡辺さんのドラマスクールでは、定期的に大人向けのインプロレッスンも行っています。インプロは俳優のトレーニングのために発展した演劇手法ですが、直観力や即決力、行動力を鍛えたり、柔軟な発想力を磨くことにつながるため、ビジネスや教育の現場で「人材育成プログラム」としても活用されています。

実際に体験した方にお話を聞くと、「こんなに難しい世界があるのか...と思いましたが、やっているうちにそれが心地良くなってきました」「今まで、自分の範囲はここまでだと自分で決めていたものが、外れていく感じ」といった声が上がりました。

思いきり体を動かしたり、頭を空っぽにしたり。大人になると得ることが難しくなる「童心にかえる時間」を与えてくれるインプロは、貴重な体験になるようです。

全力で自分をさらけ出すことで、知らなかった自分を再発見することも
 

ドラマスクールの子どもたちは、今夏から新しい挑戦であるラジオ番組の配信をスタート。みんなでプログラムを考えて、即興でおしゃべりしながら自分たちの思いを届けています。その様子を支え、見守っている渡辺さんは、「見ていて面白いなぁ、結構やるなぁ、と思っています。ちゃんと会話を組み立てたり、こぼれた話を拾ったり、フォローしたりしていますよ」 と、関心しきり。

子どもたちの声を聞いてみると、「学校とは違ってのびのびと思いっきり自分を出せるから楽しい」「演じきる達成感が楽しい」「学校でも自分の意見をはっきり言えるようになった」と、スクールを通して得た自分の変化をしっかり感じていました。

 「将来、お芝居関係の仕事に就かなくても、演劇を通じて他人と関わることを楽しんでほしい。そして、自分に自信を持つことで、世界が開かれていくことを知ってほしい」と、渡辺さん。演劇が持つWell-beingな力が、これからもたくさんの人に広がっていくことを願っています。


ラジオ番組でDJを担当するドラマスクールの子どもたち。楽しそう！


「成果よりも過程を大切にしたい」という渡辺さん。子どもたちの成長をそっと見守っています


ドラマスクールのラジオ番組「私たちは思う。⚪︎⚪︎はいきる力！」はFM那覇で放送中です（毎週日曜17時30分〜18時）