「首里城復興を願う 首里の朝市」 首里城下町商店会

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放送日:2024.09.30 ~2024.10.04

初回投稿日:2024.10.08
 最終更新日:2024.11.11

最終更新日:2024.11.11

「首里城復興を願う 首里の朝市」 首里城下町商店会 クリップする
写真提供:真栄城潤一

琉球歴文化体験モニタープログラム

商人たちが力を合わせてつくる朝市

かつて琉球王国の王都として栄えた首里。現在、首里城の復興が進む中、首里の街を盛り上げようと、今春「首里の朝市」がスタートしました。主催するのは、城下町で商いをする人たち。首里に住み、首里で商いをする人たちが、力を合わせて作り上げる朝市です。

 

第1回は2024年3月17日、首里城公園内の首里杜館前広場にて、約20店舗が集い行われました。第2回は「龍潭通り編」として同年7月7日に開催。首里城の向かいにある龍潭池沿いの通りを「龍潭通り」と呼び、その通り沿いにあるお店や、首里各町にある名店が朝8時に一斉オープンするというもの。25会場、44店舗が参加しました。

 

龍潭池と首里城を望む龍潭通りからの眺め

龍潭池と首里城を望む龍潭通りからの眺め

 

「首里の朝市」の発端となったのは、首里の城下町で商いを営む人たちが立ち上げた「首里城下町商店会」。年に2回交流会を行っており、その場の雑談から有志によって実行委員会が発足し、朝市実施に向けて動き出したことが始まりでした。

 

「首里城下町商店会」には、LINEグループがあり、2024年10月現在74名が参加しています。みんなで集まり相乗効果で首里の街を盛り上げていこうという思いから発足した会ですが、決して堅苦しくなく、「道で会って挨拶できる人を増やそう」、「お客さんにおすすめできる仲間のお店を増やそう」といった、身近なことでつながっているのが魅力です。グループの出入りは自由、名簿や会費はなし、リーダーは特に設けない、役割負担はなくすなど、ゆるやかで心地よいつながりによって、商い人同士の素敵な輪が作られています。

 

「首里城下町商店会」皆さんの集合写真
「首里の朝市」第1回開催時、「首里城下町商店会」皆さんの集合写真。写真提供:真栄城潤一

 

ジャーマンスタイルのビールと自家焙煎珈琲の店「ウォルフブロイ」の戸村由香さんは、朝市実行委員のひとり。お店では、ドイツ生まれのご主人、ウォルフラム・オーピッツさんがクラフトビールをつくり、由香さんが珈琲の豆選び、焙煎を担当しています。ビールの特徴は、ドイツの純粋令に則り、副原料を使用せず、麦芽・ホップ・酵母・水のみを原材料としていること。戸村さんいわく、「いろいろな地域の水を試す中で、首里の水がとてもおいしかった」のが、首里にお店を構えた理由のひとつ。琉球王国時代、泡盛が造られていた酒処、首里ならではの水のおいしさに惹かれたのだそうです。

 

「ウォルフブロイ」の戸村由香さん、ご主人のウォルフラム・オーピッツさん。

「ウォルフブロイ」の戸村由香さん、ご主人のウォルフラム・オーピッツさん。

 

戸村さんの朝は、二匹の愛犬との散歩から始まります。朝から活発に動いている地元の人たちと出会い、「おはようございます」と挨拶できるのが1日の始まりの喜び。「首里の朝は、歩くと楽しい、気持ちいい」。それをもっと皆さんに体感してほしいと、朝市を思いついたのだそう。目標として思い描いたのは、世界遺産・首里城での開催。それには、まず自らの店で月に1度「ウォルフブロイの朝市」を開催してみようと、試験的に始めてみることに。結果、予想以上にたくさんの人が訪れてくれたことで、首里の街で朝市が求められていることを実感。「首里城下町商店会」のみんなと、首里城公園内での開催に向け、企画を練り上げていくことになったそうです。

かつて栄えた市場の跡地で

「ウォルフブロイ」の向かいの池端交差点付近に、「首里市跡(シュリマチアト)」の碑があります。実はこの一帯には、琉球王国時代から明治時代にかけて「大市(ウフマチ)」と呼ばれる首里地域最大の市場があったそう。市場がなくなった後も、この通りは商店が建ち並び、賑わいを見せていたとか。「朝市をきっかけに、その頃のような活気を取り戻したい」と話すのは、実行委員のひとり、「おやつとコーヒー、自然派ワイン パポテペパン」(以下パポテペパン)の中森周さん。

 

池端交差点付近にある「首里市跡」の碑
池端交差点付近にある「首里市跡」の碑

 

「首里は、レンタカーや大型バスで首里城に寄って、そのまま帰っていく人が多いように感じます。なかなか人が歩かない街というイメージですが、実は歩いてこそ楽しい街。古都ならではの歴史深い場所はもちろん、老舗のお店から新しいお店まで、個人経営で頑張っている素敵なお店が点在していて、見る価値、行く意義のある場所がたくさんある。それをもっといろんな方に知っていただけたらいいなと思っています」

 

「おやつとコーヒー、自然派ワイン パポテペパン」の店内
「おやつとコーヒー、自然派ワイン パポテペパン」の店内

 

「パポテペパン」は、2020年5月にオープン。周さんが自然派ワインと珈琲の提供、奥様の早紀さんがおやつ作りを担当しています。店名は、フランス語をもとに早紀さんが生み出した造語で、「おしゃべりの種」という意味。おやつも、ワインも珈琲も、それがあることで、人とゆんたく(おしゃべり)する時間が生まれる。自分たちの提供するものが、ゆんたくのきっかけになってくれたら……という思いが込められています。

 

首里にお店を構えた一番の理由は、早紀さんが首里高校出身で、首里で過ごしたいい思い出が残っていたことから。

 

パポテペパンの「首里城SAIKOUクッキー」
パポテペパンの「首里城SAIKOUクッキー」

 

「ここでお店をやると決まった直後に、首里城火災があって、周りからは『首里はやめたほうがいい』と言われたこともあったんです。でも、だからこそ首里でやりたいという思いが強くありました。この『首里城SAIKOUクッキー』は、オープン当時から提供しているおやつ。『最高』と『再興』をかけて名付けたもので、首里城復興への願いをこめて作りました」

 

「首里城下町商店会」が誕生したことで、首里で商いをする人たちの横のつながりが生まれたことが嬉しい。そう語る、周さんと早紀さん。

 

「パポテペパン」の中森早紀さん、周さん

「パポテペパン」の中森早紀さん、周さん

 

「今、LINEグループに74人参加していますが、それだけ首里に仲間がいるんだと思えるし、頼れる人が近くにこれだけいるってわかったことがとても心強い。みんなを勝手に味方だと思っています(笑)。業種も年代も違う人たちの集まりなので、この会がなかったら出会えなかったと思う。とてもありがたいですね。それから、朝市を機に気づいたことは、首里の街にはゴミが少ないということ。朝市開催の前と後にゴミ拾いをしたんですが、集まったのは小さなビニール袋ひとつにも満たないくらい。地域の人が日常的に掃除をしていることを実感したし、そうやって首里の街がきれいに保たれていることに感動しました」

首里の街を盛り上げて、恩返し

「パポテペパン」から歩いてすぐの場所にお店を構える「山下珈琲店」は、東京生まれの山下俊祐さん、首里生まれの美奈子さんが営む喫茶店。実は、美奈子さんと、「パポテペパン」の早紀さんは、首里高校時代の同級生。俊祐さんが「パポテペパン」内で珈琲を提供していた時期もあり、「山下珈琲店」の物件が見つかったときは、「まさかこんなに近くでお店ができることになるとは!」とお互い驚いたそうです。現在も、「山下珈琲店」の自家焙煎珈琲豆と「パポテペパン」のタルトケーキをお互いのお店に納品し合い、それぞれの「おいしい」を分け合うという素敵な関係が続いています。

 

「パポテペパン」の中森早紀さんと「山下珈琲店」の山下美奈子さん

「パポテペパン」の中森早紀さんと「山下珈琲店」の山下美奈子さん

 

「山下珈琲店」のコンセプトは、街のふつうの喫茶店。お二人は「首里に、珈琲とデザートを楽しめる喫茶店がもっとあればいいのに」と感じていたそうで、「こんなお店が欲しい!」と思っていた喫茶店を自分たちで作ってしまったのだとか。ふつうの喫茶店とはいっても、仕入れたものを提供するのではなく、飲み物も食べ物も自分たちで作るのが、こだわり。できるだけ体に優しい食材にこだわり、安心して食べられるものを提供しています。

 

「山下珈琲店」の山下俊祐さん

店内は珈琲のいい香り。「山下珈琲店」の山下俊祐さん

 

首里は、美奈子さんが生まれ育った街。しばらく首里から離れていましたが、結婚して子どもを授かり、実家があるこの街で子育てをしたいと思い、新しい家族と共に地元で暮らしていくことを決めました。

 

「子供の頃、このあたりは文房具屋さんや本屋さん、商店がずらりと並んでいました。食堂でお水を飲ませてもらったり、トイレを借りたり、いろいろなお店にお世話になって、地域の人たちに育ててもらったという感覚があります。首里にお店を構えたのは、そんな首里に恩返ししたい、貢献したいという思いもありました。自分たちも、子どもたちの見守りの役割を一店舗として担っていけたらいいなと。子どもの頃、連れて行ってもらった首里の街の喫茶店がすごく特別なものとして印象に残っているので、ここで過ごす時間もそんな特別な時間になってほしいなと思っています」

 

「山下珈琲店」の山下美奈子さん。デザートづくりなどを担当

「山下珈琲店」の山下美奈子さん。デザートづくりなどを担当

 

「首里城下町商店会」が発足されてからは、知り合いの輪が広がったことで、街でいろいろな人と声を掛け合えるように。子供たちには「何かあったらあのお店に行きなさい」と教えてあげられるようになり、地域の防犯面としても良い作用が生まれ、安心できる街づくりを担えていると感じるそうです。

 

「朝市の1回目は、『首里城祭以外で首里にこんなに人が集まるんだ!』って驚くほどたくさんの人に来て頂いて。皆さんの首里が好きだって思いが伝わって来ました。地元の友達からも『首里を盛り上げてくれてありがとう』って言われて、やっぱり地元が盛り上がるって嬉しいんだなって。私自身も、首里を活性化させたいという思いが一層強まりました」

挑戦したい街、未来を感じる街に

朝市の実行委員のひとり、黒坂瑛美さんは、龍潭通りでセレクトショップ「KUUÜP」を営んでいます。お店のオープンは昼12時。その前にご近所の「パポテペパン」で買い物とゆんたくをしてから、自身の店へ向かうこともしばしば。一方、「パポテペパン」の周さんや、「山下珈琲店」の俊祐さんは、「KUUÜP」で販売しているシャツを愛用していたりと、「首里城下町商店会」の人たちは、ふだんからお互いのお店を行き来して、仲間の絆を育んでいます。

 

「もともと気が合うから仲良くしているってこともありますが、同じ地域で一緒に仕事をしていくなら、仲良いほうが絶対楽しいですよね。商店会ができてからは、みんなが連携するようになって、困ったときに助けを求めたら飛んできてくれるので本当に頼もしいです。首里には12年住んでいますけど、これから盛り上がっていく予感しかなくてワクワクしています。最近は特に、今まで首里になかった雰囲気のお店が続々オープンして、新しい風が入ってきている気がする。これまで首里でお店を構えるという発想がなかった人たちも、やってみたいと思うような街になってきているんじゃないかなと感じます」

 

「KUUÜP」黒坂瑛美さんと「パポテペパン」中森周さん
「KUUÜP」黒坂瑛美さんと「パポテペパン」中森周さん

 

そんな黒坂さんの言葉に、「パポテペパン」中森周さんもこう続けます。

 

「『首里はいい場所ですよ、みんなもお店やってみませんか?』って言えるように、自分たちが楽しくお店を続けていくことが大事だと思っています。それによって、どこでお店やろうかな?って悩んでいる人たちに首里という選択肢を与えられるはず。2026年に首里城が再建したら、訪れる人はもっと増えると思うので、それまでに受け容れ体制を整えて、楽しく盛り上がっている雰囲気をますます作っていけたらいいですね」

 

通りから店内を見渡せる大きな窓が魅力的な「KUUÜP」

通りから店内を見渡せる大きな窓が魅力的な「KUUÜP」

 

「KUUÜP」は、2019年7月にオープン。以前の店舗は、首里城近くの細い道にある5畳ほどの場所でしたが、約3倍の広さがある現物件に移転しました。黒坂さんは、フランスが大好きで、店内の什器やライトは、フランスのアンティークものを中心に選んだというこだわりの空間。ほかにも、沖縄の作家が手がけたやちむん、自身でイラストを描いたオリジナルTシャツ、リメイクの1点ものなど、カラフルで個性あふれる表現に満ちたアイテムがずらりと並びます。「首里の街に突然、ド派手なお店ができたので、おじいちゃんおばあちゃんが珍しがって立ち寄ってくれるんですよ。そうやって地元の人が気軽にゆんたくしに来てくださるのが嬉しいです」

 

一際目を引くカラフルなアイテムがずらり。「KUUÜP」の黒坂瑛美さん

一際目を引くカラフルなアイテムがずらり。「KUUÜP」の黒坂瑛美さん

 

首里にお店を構えると決めた当時は、周りから「首里は意外!」とびっくりされたとか。

 

「でも首里はいいところだと確信していたし、いつか『首里が盛り上がってるね』と言ってもらえるように日々頑張っています。実際今、首里はすごく盛り上がっていると思います。この街で商いする人にとっては、首里城火災、コロナ禍と続いて、大変な4年間だったけど、そんな中、試行錯誤しながら頑張った結果が首里の朝市に出ていたんじゃないかな、と。予想を上回るお客様に来て頂いて、本当に嬉しかったですね」

誰でも立ち寄れる、みんなの居場所に

2024年3月にオープンしたばかりの「エノガストロノミア ジュリエッタ」(以下ジュリエッタ)は、小池輝明さん、寿子さんが営むイタリア料理店。結婚後、2人でお店を持ちたいという夢を抱き、2015年から2年間、修行のためイタリアのトスカーナ州へ。帰国後の2017年、寿子さんの実家がある那覇市楚辺に移り住み、新しい生活をスタートしました。首里に引っ越したのは、2019年のこと。寿子さんが長男を連れて首里を散歩していた際、緑豊かで、ゆったりした時間が流れる古都ならではの雰囲気に魅せられ、「ここで子育てしたい」と思ったことがきっかけだったそうです。

 

「エノガストロノミア ジュリエッタ」のベンチで子供たちがひとやすみ

「エノガストロノミア ジュリエッタ」のベンチで子供たちがひとやすみ

 

物件を見つけたのは2022年1月。飲食営業はNGでしたが、諦めきれず、企画書を作り、1年かけて大家さんにプレゼンテーションしたと言います。そこに記したのは、地域の人たちのためのお店を作りたいという内容。二人が住んでいたイタリアには、各村に公民館のような「チルコロ」という場所がありました。いつもの顔なじみに会って一緒にエスプレッソを飲んだり、気軽に集いお話ができる大切な場所。そんな「チルコロ」のようなコミュニティーの場をつくりたいとプレゼンして、大家さんに飲食営業の許可を頂いたそうです。

 

「エノガストロノミア ジュリエッタ」の小池輝明さん

「エノガストロノミア ジュリエッタ」の小池輝明さん

 

首里には、スーパーがなく買い物に困っている人が多いことを聞き、手作りの料理を買える場所として総菜を提供しているのも、「ジュリエッタ」の特徴です。小学校が近いので、学校帰りに子供たちが、100円の揚げパン「ゼッポレ」をおやつに買っていくことも。「お水飲んでいい?」「トイレ貸して」と立ち寄ってくれるのも嬉しい出来事と語ります。

 

「エノガストロノミア ジュリエッタ」の小池寿子さん

「エノガストロノミア ジュリエッタ」の小池寿子さん

 

「このお店がそう願うように、『首里の朝市』も地域のコミュニティーの場であってほしいと思っています。食べて飲むだけではなく、ゆんたくしたり、買い物したり、朝市に行ったら誰かに会えて、楽しい朝になるという場づくりが目標。子どもたちの地元愛を形成したり、商売って楽しいなって感じてもらえたり、未来への土壌づくりの場でもあると思っています」

 

テイクアウトできる手作りのイタリアンお惣菜を提供

テイクアウトできる手作りのイタリアンお惣菜を提供

 

首里の朝市は、「ジュリエッタ」のように今年オープンしたばかりの新しい店から、2002年にオープンしたイタリアンレストラン「ヨナサルウテ」など、長年首里で愛され続けてきたお店まで、新旧店舗が協力してアイデアを持ち寄り、力を注ぐ催しです。

 

10月6日開催の第3回からは、首里ならではの素晴らしい歴史文化を今に伝えるべく、紅型、金細工、漆器など伝統工芸のお店も参加。また、包括支援センター、訪問看護ステーション、助産院などの相談ブース設置や、保護犬譲渡会も行うなど、より地域の人たちの暮らしに根ざした場づくりを実現しようとしています。

 

首里城復興に向けて、新たな風と共に歩み出している首里の街。まずは、「首里の朝市」で、そこに住む人たちの思いに触れ、その後は街をゆっくり歩きながら、ぜひ首里の奥深い魅力を感じてみてください。

首里の朝市

インスタグラム /
https://www.instagram.com/shuri_no_asaichi/

沖縄CLIP編集部

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放送日:2024.09.30 ~ 2024.10.04

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