与那国馬と「いる」ことでその価値を知る「うみかぜホースファーム」(南城市)

与那国馬と「いる」ことでその価値を知る「うみかぜホースファーム」(南城市)

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初回投稿日:2024.08.10
 最終更新日:2024.09.06

最終更新日:2024.09.06

与那国馬と「いる」ことでその価値を知る「うみかぜホースファーム」(南城市) クリップする

しまんちゅ旅はじめました

沖縄の在来馬「与那国馬」のちいさな牧場

与那国馬

沖縄本島の南部、南城市にある「ユインチホテル南城」は、部屋からのオーシャンビューと、敷地内に天然温泉があることでも人気のホテル。その敷地を奥のほうまで進んでいくと、これまた見晴らしの良い芝生の広場に行き当たる。さらにその奥に目をやると、ちいさな馬舎。一般的な馬よりもちょっと小ぶりな馬が、のんびりと過ごしている。ここは、沖縄の希少な在来馬「与那国馬」と触れ合うことができる「うみかぜホースファーム」。

草食動物との、心地よい距離感

「いろんなことをもらえると思うんです。人間は。この馬から」

体験ツアーで出かけた、とあるちいさな自然そのままのビーチ。与那国馬が草を喰むそのすぐ横で、強い日差しを避けるように手を空に翳しながら中川美和子さんは、きっぱりと言った。

「いろんなこと」ってなんだろう。「学ぶ」というか、「気づく」ことができるんだ、と、中川さんは言葉を続ける。

「馬って自分の鏡ってよく言われるんです。接し方ひとつで馬の反応が変わる。強引に言うことを聞かせようとすれば反発されるし、そういう反応がわかりやすい。また、そういうことを許容してくれる馬だとも思うんです。

それと、人間に忖度しない。馬には“いま”しかなくて、未来のことなんて考えない。だから自分が馬と向き合うことによって、馬っていま幸せなのかな、自分はどうだろうな、とかいろいろ考えるきっかけになる。長く生きているうちに閉じてしまった感受性を開いていく、と言うことが馬と接することによってできるんじゃないかと思うんです」

一見すると何を考えているかわからないようでも、よくみていると、中川さんのそばで馬は時に顔を擦り寄せてきたり、手綱をひきづって別の場所に移動しようと催促したり、中川さんと馬がコミュニケーションをとっているのがわかる。犬のような近さではなく、草食動物の近くも遠くもない、不思議な距離感。慣れてくると、それが心地よいらしい。

「言葉を持たない相手をよく見て、何をしたいか感じ取って。それを続けていけば、人との関係性もよくなるはず。

人と人とは言葉でなんとでも言えるし、言語がコミュニケーションの先頭にきているこの時代で、きっと雰囲気だったり、呼吸だったり、言葉じゃない部分で感じる力というのが鈍くなっちゃっていると思うんです。馬と触れ合うことで、その感覚を取り戻してもらえると思っています」

突然始まった与那国島での馬との暮らし

東京都出身で、雑誌の編集や翻訳の仕事をしていた中川さん。はじめて与那国島に行ったのは2001年のこと。

1日中ずーっとパソコンと向き合う生活にちょっと疲れた中川さんは、当時ブームが来ていたこともあって沖縄を旅行することにした。好きだった版画家の名嘉睦稔さんが、ギャラリーで「与那国ションカネー」を歌っていたこと。果てへ行ってみたいと訪ねた波照間島(はてるまじま)で出会った、与那国島の人たち。いつしか頭の中に「与那国島」というキーワードがインプットされていた。とはいえ遠いし、お金もかかるしすぐには行けないな、と思っていたところにお父さんから、「航空券のポイントが貯まってるから使って良いよ」というありがたい申し出が。

渡りに船とはこのことで、さっそく与那国島に行ってみることにした中川さん。「与那国馬」の存在は知っていて、当時、島にあった「ヨナグニウマふれあい広場」へ、乗馬しにいってみることにした。

「そしたらはまっちまいまして」

そこからかれこれ23年。中川さんと馬との“離れられない”関係が続いている。

島の風景にも、そこらじゅうを与那国馬が我が物顔で歩いている光景にも衝撃を受けたし、「ヨナグニウマふれあい広場」がボランティアだけで運営されていることもすごいと思った。最初に乗せてもらったのが「クー」という名前の馬。乗せてもらったんだけど、なんといきなり馬が転んで落馬した。普段、転ぶことなんてほとんどないのに。実は当時クーは妊婦さんで、お腹の中には後にうみかぜホースファームを支えてくれることになる「トゥバル」がいた。

「トゥバルにすっ転ばされたんだと思ってます。運命みたいな感じ。それからジェットコースターみたいな、ハラハラドキドキの人生。飽きないですけどね 笑 何かあっても、いつもすんでのところで救われる」。

ヨナグニウマふれあい広場

与那国島から本島へ

「ヨナグニウマふれあい広場」が長期滞在できるボランティアスタッフを募集していたこともあって、中川さんはチャレンジしてみることにした。もともと翻訳・編集の仕事をフリーランスでしていた中川さん。インターネットが使えれば与那国島でも仕事が続けられると思っていた。が、そこは離島、あまくは無い。当時のインターネットの速度が遅すぎて仕事にならず、結局翻訳・編集の仕事はあきらめて、ボランティアだけでなく、アルバイトをしながら、という生活が始まった。

製糖工場で働き、塩を作る工場でも働いた.空港のグランドホステスをすることもあった。その時の空港への交通手段は馬だった.馬と一緒に朝9時に出勤し、午前中唯一の飛行機に対応したら12時には退勤.近くの木陰のある原っぱで草を食べていた馬にまたがり帰宅する、そんな「のんびりした時代」だった。
とはいえ、いつまでもそんな暮らしは続けられない.石垣島に移住して翻訳業を再開しようかなどと考え始めていたころ、もともとやりたいと思っていた「ホースセラビー」についての研究を沖縄本島でやってみないかという話が舞い込む。

与那国馬はとても寛容で懐が深い馬.だから一緒に過ごすことで人を癒す「ホースセラピー」には向いている。その研究は助成金で進める予定だったが、結局助成金を得ることができなくてうまくいかず、それでも沖縄市にある「沖縄 こどもの国」から「馬と触れ合える体験を、こどもの国でやりませんか?」と、声がかかり、中川さんはトゥバルを含めた3頭の馬と共に、本島に移住することになった。

3年弱ほど「こどもの国」での仕事が続き、場所を移さなければならなくなったときは、与那国馬を支援してくれている方から「南城市親慶原(なんじょうしおやけばる)にしばらく使わない土地があるから、そこを利用して良いよ」と提案してもらい、うみかぜホースファームを開くことに。その後、その親慶原が開発によって立ち退かざるを得なくなると、「ユインチホテル南城」を営むタピック沖縄株式会社から声がかかり、2022年に今の場所へとやってきた。

どうしようどうしようと思っていると、どこからともなく救いの手が伸びてきて、中川さんと馬との関係は続いていく。

中川さんと馬との関係

馬と何を「する」のではなく、 馬と「いる」ことを体験する

牧場

朝、「ユインチホテル南城」の敷地内にある牧場に行くと、餌やりが始まった。うんちを掃除して厩舎をきれいにする。少し離れた牧場に移動して、放牧されている馬たちに会いにいき、今日という日を一緒に過ごす馬を捕まえて、ブラッシングをし、顔を拭いてあげ、蹄の泥を取る。どの作業をする時も先に道具の匂いを嗅がせ、止まっている(ことがOKのサイン)ことを確認してから作業へ移る。

ブラッシング

馬運車に馬を乗せてビーチへと移動し、馬と一緒に過ごす。この日は乗馬さえしなかった。草を喰む馬を眺め、手綱を引いて海に入り、水をかけて遊ぶ。海から出てきたら砂浜で遊ばせ、疲れたらまた馬運車に乗って牧場へと帰る。

馬の感情に気持ちを寄せるようになっていた

馬としては小柄とはいえ体重は200kgぐらいあるし、表情だって読み取りづらい。どんなふうにコミュニケーションを取れば良いのかわからないんだけど、ただ乗るだけじゃなくて、そうやって長い時間を一緒に「いる」ことで、馬たちの体温を感じ、息遣いに触れ、生き物と生き物としての、言葉ではないコミュニケーションを感じられるようになってくる。気持ちよさそうだな、お腹が空いたのかな、あっちへ行きたいのかな。そんなふうにして、いつの間にか馬の感情に気持ちを寄せるようになっていた。

馬

いなくなったらもったいない

「包容力があるなと思っていて、無理させても、しょうがねーな、いいよって感じで許してくれますね。本当に寛容な馬だと思います。あと、お構いなしにやってるように見えて、いろいろ考えているし見てる。人の話をよく聞いてくれるんです」。

なんだかこっぱずかしいからこの言い方は好きじゃないけど、と、前置きしつつ、中川さんは与那国馬の魅力を語り続ける。

「神秘的って言えば神秘的。

不思議な力はあるんじゃないかなって思ってます。日本の在来馬8種類いるなかで、うまく行ってるのって与那国馬だけかなと思っていて、それには特別な何かがあるのかなって思ったり。

ほっといたらいなくなってしまう与那国馬を、いなくならないように、いろんな価値があるんだよって知ってもらうことで、絶滅を防ぐのが私たちの活動なんです。だからまずは存在を知ってもらう。一緒に過ごす、遊ぶことで、なんか良いよねっていう感覚を持ってほしい。

いなくなったら勿体無いんじゃないっていう気持ちを、人々の中に醸成していくことがゴール。
だからもっとこの馬の価値を高めたい。いろんなことをもらえると思うんです、人間は、この馬から」

うみかぜホースファーム

セソコマサユキ

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