うるま市の山芋愛好家たちが山芋で『ギネス世界記録™』へ挑戦!!
うるま市の山芋愛好家たちが山芋で『ギネス世界記録™』へ挑戦!!
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歴史文化
初回投稿日:2016.02.25
最終更新日:2024.08.30
最終更新日:2024.08.30
南の島にも冬の足音が聞こえるはじめる12月。沖縄本島中部のうるま市、読谷村(よみたんそん)、恩納村(おんなそん)あたりの県道を走っていると、ときどき、「山芋スーブ」という看板が掲げられています。ひょっとしたら、ご覧になったことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
那覇市内ではまずお目に掛かることのない「山芋スーブ」の看板。初めて目にした観光客の方は、「山芋のスープ? お汁のことかな?」と疑問に思う方もいらっしゃるはず。「スーブ」は、沖縄の言葉で「勝負」という意味。「山芋スーブ」は、「山芋勝負」のことで、おもに山芋の重さを競い合う大会です。
集落単位はもちろんのこと、個人グループでも開催されるほど、山芋スーブは本島中部で大人気。12月頃から大小さまざまな規模で開催されている山芋スーブの発祥は、うるま市石川(旧石川市)。嘉手苅(かでかる)地区では1925年頃からはじまったと言われ、伊波(いは)地区では1947年には山芋スーブが行われていたと記された資料があるそうです。
2016年2月7日、うるま市合併10周年記念事業のひとつとして「やまいも勝負」が開催。今大会は、うるま市の山芋を愛するみなさんがなんと、『ギネス世界記録™』に初挑戦! 「大物勝負」と呼ばれる山芋1個の重量で、世界に挑みます。ギネス世界記録公式認定員・マクミラン舞さんが東京からお越しになり山芋の重量を記録していきます。「うるま市からギネス世界記録が誕生するかもしれない!?」と、うるま市具志川運動公園内の特設会場は熱気ムンムン。
ちなみに、過去の大物賞記録は、2014年開催の「第16回全沖縄やまいも勝負インうるま」で39.3キロ! 山芋1個の重さが30キロを超えるなんて、ちょっと想像がつきませんよね。実は、沖縄で「ヤマン」、「ヤマイモ」と呼ばれている山芋は、内地とは少し種類が違うのです。
世界に600種類以上あるといわれるヤマノイモ科ヤマノイモ属。日本では一般的に大きく3つ、「山芋(やまいも)」、「自然薯(じねんじょ)」、「大薯(だいしょ、だいじょ)」に分類されます。内地でおもに栽培されているのは長芋や銀杏芋(いちょういも)、捏芋(つくねいも)などに代表される「山芋」や、強い粘り気で知られる「自然薯」ですが、沖縄ではおもに「大薯」が栽培されています。
沖縄県内でも地域によって、粘り気や大きさ、色合いなど少し違うそうですが、大薯はとても大きく成長する傾向があるので、山芋スーブに出品されている山芋は「大薯」と言ってもほぼ間違いないでしょう。また、スーブの際には、山芋の色分けで「赤やまいも」と「白やまいも」の2部門が設けられることもあります。
山芋愛好家が集う会場で、『やまいも大物勝負計量記録表』なるものが貼り出されているのを発見。赤やまいもの部18点、白やまいもの部39点、計57点のやまいもの出品者名と山芋の重さが記されています。眺めていると、うるま市石川山城(やましろ)の「山城(やましろ)」さんが見事に並んでいます。山城集落は、住民の約9割が「山城」さんということで知られる地域。山城集落には本当に山城さんばかりだな~と改めて感心です。
せっかくなので、お土産に山芋を買って帰ろうと探してみました。が、今回出品された山芋は来年の種芋になるとのことで、販売用の山芋は見当たらず。かわりに、ニーニー(お兄さん)のステキな笑顔と「山芋イリチャー」を発見。山芋イリチャーは、蒸かした山芋をスーチカー(豚肉の塩漬け)などと炒めたもの。少し珍しい調理法かもしれませんが、昔ながらのお正月料理であり、沖縄の家庭料理のひとつです。もちろん即購入、その場でペロリ。スーチカーの塩気を含んだ山芋イリチャーは、泡盛のおつまみにいい感じです。機会ございましたらぜひお試しくださいね。
会場には読谷村からお越しの方もいらっしゃいますが、山芋愛好家のネットワークなのか、すっかり顔馴染みのご様子。「読谷も山芋スーブが盛んなんですよ!」とお話を伺っているうちに、お待ちかねの結果発表の時間となりました。マクミランさんがステージ中央に登壇。ざわついた会場から一転、会場の視線はステージへと注がれます。結果発表の前に、今回の挑戦について、マクミランさんの説明がはじまりました。
「今回、うるま市のみなさんが挑戦されるのは、正式名称『The heaviest yam(最も重いヤマイモ)』です。ひとつの塊としての形状を保っている食用に適した状態のヤマノイモ属の食用イモであることが条件です。こちらは新しいカテゴリーですので、世界一として認められるためには、標準記録70キログラムを超えなければなりません。山田正さんの山芋が正式にギネス世界記録への挑戦対象となり、専門家おふたりの立ち会いのもと審査、計測いたしました」。今回、ギネス世界記録へチャレンジされた山田正さんは過去9回も優勝されている山芋作りの名人。果たして、うるま市からギネス世界記録が誕生するのか!? ドキドキの瞬間がやってきました。いよいよ結果発表です。
「計測の数値を発表いたします。長さ76センチ、周囲192センチ、もっとも重要な重さは50.25キログラムであるということが判明いたしました。残念ながら標準記録の70キログラムを超えることはできませんでした」。凛としたマクミランさんの声が会場に響き渡りました。新設カテゴリーへの世界初のチャレンジ。もしかしたら、シーブン(おまけ)ででも認定してくれるのではないかな、なんてちょっぴり甘い考えは打ち砕かれました。ギネス世界記録のために準備されたくす玉は割られることなく、世界の壁は高くて、厳しいのだと知りました。
その後、表彰サポートにミスうるまカトレアの桃原鈴奈さんが華を添えつつ、「赤やまいもの部」、「白やまいもの部」、「トビ賞の部」が次々と発表されていきました。賞品が泡盛のほか、草刈機だったり、一輪車だったり、肥料だったりと、農業に関するものであるあたりが、なんともなごみます。
ギネス世界記録には届きませんでしたが、山田さんは「赤やまいもの部」優勝、「白やまいもの部」準優勝。さすがです。日々データを取り、熟考を重ね、繊細に育てているとおっしゃる山田さん。「すごく悔しいですね。次の目標はギネスになりました。自分との闘いであり、楽しみでもあります」。悔しいと言いつつも、山田さんはとても清々しい笑顔でした。
うるま市の比嘉政孝さん、読谷村の松田昌次さんをはじめ、山芋スーブ愛好家の方々の声に耳を傾けてみると、共通しておっしゃることがあります。それは、一番大切なのは勝ち負けではなく、山芋スーブを通して地域コミュニティをもっとも大切にしているということ。そして、掘ってみるまでわからない、掘ってみて初めて姿を現すところが魅力であり、お金にはかえられないロマンを山芋スーブに感じているということでした。
ステージ前の大きな金色のくす玉は、まぁるい球状を保ったままです。近い将来、あのくす玉が割れ、色鮮やかな紙吹雪が舞う日をお楽しみに。バンザイ! 山芋スーブ!!
安積美加
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