沖縄芝居を堪能! 毎年5月の恒例行事「母の日公演」(後編)

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歴史文化

初回投稿日:2024.05.10
 最終更新日:2024.05.10

沖縄芝居を堪能! 毎年5月の恒例行事「母の日公演」(後編)

写真提供:劇団うびらじ

沖縄で、毎年開催される沖縄芝居の「母の日公演」。今年、母の日に公演を行う団体にインタビューしたお話を前編と後編に分けてお届けします。「劇団うない」を紹介した前編に続き、後編では、「劇団うびらじ」と「沖縄芝居研究所会」をご紹介します。

暮らしの中にある沖縄芝居を大事に。「劇団うびらじ」

(左)松田勝江さん、(中)又吉優美さん、(右)東照子さん
(左)松田勝江さん、(中)又吉優美さん、(右)東照子さん/写真提供:劇団うびらじ

2011年に旗揚げされた「劇団うびらじ」は、東照子(あずまてるこ)さんが団長を務める劇団です。照子さんは、前編でも触れた「乙姫劇団」の元団員。2002年に「乙姫劇団」が閉団した後、先輩方が残した沖縄芝居という宝を受け継いでいきたいと、再出発を決意し、「劇団うびらじ」を立ち上げました。子供の頃は、沖縄芝居が好きだったお母さんと一緒に「母の日公演」へ。自身も沖縄芝居が大好きになり、高校卒業後、父親の反対を押し切り、19歳で「乙姫劇団」に入団。「芝居一筋」の人生を送ってきたと語ります。

2023年上演「てぃんさぐぬ花」より
2023年上演「てぃんさぐぬ花」より/写真提供:劇団うびらじ

「芝居以外の仕事をしたことがないんです。すべて『乙姫劇団』で叩き込まれました。先輩方のお芝居を見て、そこで体に染みこませたものを『劇団うびらじ』で自分なりに表現しながら、後輩たちにも教えています。沖縄芝居は、暮らしの中から生まれてきた。そういううちなーんちゅの肝心(ちむぐくる)を失いたくない、大事にしたいという思いで頑張っています」

2023年上演「てぃんさぐぬ花」
2023年上演「てぃんさぐぬ花」より/写真提供:劇団うびらじ

今回上演されるのは、時代明朗歌劇「結び玉ぬ緒(むしびたまぬう)」。「乙姫劇団」の看板女優として活躍した玉木初子(たまきはつこ)さんによる作品で、照子さんも入団したての頃、台詞はないながら舞台に出演した思い出が残る演目だそうです。
 
「これまで『母の日公演』といえば、泣かせる人情劇を選ぶことが多かったんですが、最近の世の中は騒がしいので、楽しく笑って頂いて福を授かって頂けたらと思い、明朗劇を選びました。『乙姫劇団』は人情劇が多かったので、少しカラーの違う作品と思われるかもしれないですが、先輩方はこういう楽しい劇でお客さんを沸かせる側面もありました。見どころは、なんといっても二景のドタバタ劇。大いに笑ってください」

沖縄芝居の一番の魅力は“肝心(ちむぐくる)”

2023年上演「てぃんさぐぬ花」
2023年上演「てぃんさぐぬ花」より/写真提供:劇団うびらじ

「劇団うびらじ」の顧問で、舞台の演出を務める松門正秀(まつかどまさひで)さんは、劇団の名付け親。当時のことをこう振り返ります。
 
「あるとき、沖縄市の『NPOコザまち社中』の方が、照子の芝居を見て感激したそうで、劇団立ち上げに協力したいと申し出てくださったんです。それが、思いがけず突然なことだったので、その状況をそのまま表して、沖縄の言葉で“突然に”という意味の“うびらじ”と命名しました」

2024年「母の日公演」稽古風景
2024年「母の日公演」稽古風景

松門さんは、1960年から今なお続く沖縄テレビの長寿番組「郷土劇場」にて、1971年から38年もの間、制作を手掛けていた方。「郷土劇場」は、郷土芸能文化の継承・発展をテーマに、沖縄芝居の舞台を放送する番組です。放送開始から1981年までは「水曜劇場」というタイトルで水曜日の夜に放送されており、この時間帯は、銭湯から誰もいなくなるほど人気を博していたのだとか。
 
「VTRがない時代は、48分のお芝居を生中継していました。当時はたくさん劇場があったから、そこに役者さんたちを集めて、いろいろなお芝居を演じて頂きましたね。中でも『乙姫劇団』は印象深い。人情劇も明朗劇も得意で、役者それぞれがどんな役でもこなせるという特徴があった。今回の『劇団うびらじ』の舞台も、一人ひとりの役どころに良さがあるので、それを楽しんで頂きたい。観客の皆さんが、彼女たちの表現を見て、それぞれの個性を見つけ出して頂けたら、芝居鑑賞もぐっと楽しくなると思います」
 
沖縄芝居の魅力は、なんといっても「肝心(ちむぐくる)」と松門さん。
 
「“肝心”というのは、キリスト教で言う“愛”と同意語だと思うんです。“心”という言葉では伝わりきらないですね。体でいうまさに肝臓。大事な肝です。この肝心が沖縄芝居の中に生きているということがとても素晴らしいと思います」
 
劇団うびらじ

「劇団うびらじ」母の日公演

日時 /
2024年5月12日(日)13時開演、17時開演の二部制
会場 /
沖縄市民小劇場「あしびなー」
住所 /
沖縄県沖縄市中央 2-28-1 旧コリンザ3F
チケット料金 /
2,500円(前売)、3,000円(当日)、中学生以下1,000円、障がい者割引:前売り価格より2割引き
予約・お問い合わせ /
劇団うびらじ事務局 090-7455-0957/沖縄市民小劇場「あしびなー」098-934-8487
「劇団うびじらじ」インスタグラム /
https://www.instagram.com/ubiraji_uchinashibai?igsh=YjFxanB6aDNqdGl2

沖縄芝居の研究を深める「沖縄芝居研究会」

2012年に設立した「沖縄芝居研究会」は、伊良波(いらは)さゆきさんが代表を務める団体。その名のとおり、沖縄芝居の研究をテーマに定例会を行い、芝居の時代背景を考察したり、劇の舞台となっている場所を訪ねたり、うちなーぐちの勉強、発声や化粧、着付けなどの稽古を重ねている団体です。さゆきさんと共に研究会を率いる金城真次(きんじょうしんじ)さんに、そうした活動を行う背景について聞きました。

稽古風景
2024年「母の日公演」稽古風景。(左)嘉数道彦さん、(右)伊良波さゆきさん

「沖縄芝居の全盛期を支えてこられた先輩方は、昼に稽古して夜本番というように毎日舞台に立ってお芝居をされていました。それに比べると、私たちの時代は沖縄芝居の公演が少なく、舞台に立てるのは年に数えるほどで、鍛えられる場が少ない。一つの公演が終わって、次の公演まで時間が空いてしまうので、そのブランクで芝居のクオリティーが下がることのないように基礎訓練するというのが立ち上げの経緯です。研究会が主催する公演は年に1~2度ですが、そのときは公演の稽古に集中することで訓練になりますし、最近はおかげさまでメンバーが別の公演に呼ばれることも多くなり、鍛えられる場が多くなってきたと感じています」
 
稽古風景
2024年「母の日公演」稽古風景。(左)金城真次さん、(右)奥平由依さん

4歳で本格的に舞踊を始めたという真次さん。初めて沖縄芝居の舞台に立ったのは小学校2年生くらいのとき。憧れの役者のひとり、久高将吉(くだかしょうきち)さんが出演する時代歌劇「桃売アン小(むむういあんぐゎー)」の三良小(さんらーぐゎー)役だったそう。現在は、組踊の実演家としても活躍し、沖縄芝居と組踊、両方の舞台に出演。真次さんは、それによって「それぞれのおもしろさがよりわかる」と語ります。
 
「かつての先輩方は、幕開け舞踊で踊って、芝居を2~3作品やって、最後に組踊を演じるという舞台を当たり前のようにされていました。戦後、分業になっていくわけですが、自分としては沖縄芝居をやっていると、これは組踊から来ている台詞だなと発見があったり、各々の良さが見えてくることがたくさんあります。どちらも核となるのは踊り。まず踊りができることが前提で、その延長で組踊、沖縄芝居が深まっていくものと思っています」

100年以上愛され続ける「奥山の牡丹」

奥山の牡丹
2022年「沖縄芝居研究会創立十周年記念公演」より「奥山の牡丹」/撮影:大城洋平、写真提供:沖縄芝居研究会

今回上演する演目は、四大歌劇のひとつで長編悲劇の「奥山の牡丹」。1914年に初演された作品で、作者は、「沖縄芝居研究会」代表の伊良波さゆきさんのお祖父さんであり、偉大な歌劇作者、舞台俳優として沖縄芸能史にその名を刻む伊良波尹吉(いらはいんきち)氏。
 
「四大歌劇のほかの3作品は男女の恋愛ものですが、『奥山の牡丹』は、前半で恋愛が描かれているものの、当時の身分制度や親子の情愛など、いろんなテーマが盛り込まれた作品です。芝居ファンは何度も観ている方が多い作品だと思いますが、それでも繰り返し観に来てくださる方が絶えないということは作品の力だと感じます。私たちが子供の頃、この作品を素晴らしい役者さん方が演じられていました。そのイメージを壊さないように、作品の良さを役者の力で精一杯表せたらいいなと思います」

奥山の牡丹
2022年「沖縄芝居研究会創立十周年記念公演」より「奥山の牡丹」/撮影:大城洋平、写真提供:沖縄芝居研究会

沖縄芝居で昔の沖縄を知ってほしい

沖縄芝居の魅力は、「ひとつの舞台を観るだけではわからない深みがあるところ」と真次さん。
 
「沖縄芝居は、廃藩置県以前の時代を描いた“時代劇”と、明治・大正・昭和時代を描いた“現代劇”があります。描かれる時代によって、衣装や風景、道具や仕草、そして人々の価値観も変わるので、いろんな舞台を観ることによって、さまざまな時代の暮らしを体感できます。たとえば、現代劇だと、男性がシャツにズボンで登場したかと思えば、老女はうちなーからじ(沖縄の結い髪)で、若い女性は和装だったり、入り乱れているのがおもしろい。芝居を通して、100年前、50年前、昔の沖縄を知って頂きたいですね。それから、いろんな劇団の舞台を観て、それぞれの座風を感じたり、好きな役者さんを見つけられたりすると、より楽しくなると思うので、ぜひいろいろな公演に出かけてみてください」

奥山の牡丹
2022年「沖縄芝居研究会創立十周年記念公演」より「奥山の牡丹」/撮影:大城洋平、写真提供:沖縄芝居研究会

沖縄芝居は、役者さんたちの演技や舞踊に合わせて、ステージ袖で奏でられる音楽も魅力。歌三線、箏、笛、太鼓などの奏者である地方(じかた)の皆さんが、人物の感情表現や物語の展開を効果的に演出しながら、熟練の技で盛り上げる様子は、沖縄芝居ならではです。
 
毎年5月の恒例行事「母の日公演」。今年も当日はきっと、沖縄のお芝居好きなお母さん方がたくさん劇場に詰めかけるはずです。是非、そうした皆さんと共に沖縄の暮らしを体感しながら、お芝居に泣き笑い、楽しんでみてください。
 
そして、母の日以外にも、沖縄芝居の公演は開催されているので、そちらもチェックを。団体のSNSなどでは、公演の情報や演目のあらすじ、鑑賞ポイントなどを投稿しているので、ぜひ役者さんたち自身が発信する沖縄芝居の魅力に触れてみてくださいね。

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「沖縄芝居研究会」母の日公演

日時 /
2024年5月12日(日)11時開演、15時開演の二部制
会場 /
パレット市民劇場
住所 /
沖縄県那覇市久茂地1-1-1
チケット料金 /
4,000円(前売)、4,500円(当日)、高校生1,000円(当日同料金)、中学生以下無料(事務局で要予約)
予約・お問い合わせ /
沖縄芝居研究会事務局 080-1706-4438
「沖縄芝居研究会」Facebook /
https://www.facebook.com/okinawashibaikenkyukai?locale=ja_JP

岡部 徳枝

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