石垣島、白保の獅子保存会に密着

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あそぶ

初回投稿日:2016.09.30
 最終更新日:2024.03.27

石垣島、白保の獅子保存会に密着

八重山の旧盆といえば、八重山だけの独特の行事、アンガマが有名です。アンガマももちろん見学にいきますが、もうひとつ毎年必ず足を運んでいる行事があります。それは、白保(しらほ)集落で行われる獅子舞。
 
新石垣空港からすぐの白保集落は、穏やかな海岸に面し、赤瓦屋根と石垣の塀の伝統的な家屋が多く残る、静かで趣のある集落。旧盆の夜、その集落内の家々を獅子舞がめぐって祖先供養をします。旧盆中毎日獅子舞を行うのは、八重山では白保だけ。地域の人たちだけでなく、市街地からも、毎年多くの人が見学に訪れます。
 
白保(しらほ)集落で行われる獅子舞
 
初めて白保の獅子舞を見たとき、その躍動、大人も子どももその場の誰もが夢中になっている姿、舞わせている男性たちの情熱、そして夜の集落に厳かに響く三線や笛の音、それらすべてに心奪われました。獅子を舞わすのは、見習いの中学生から、熟練の大人まで、“シシブサー”約50人が活動する白保獅子保存会です。いつかじっくり取材させてもらいたいと思って数年。今年の旧盆に叶いました。
 
四つ足で歩く毛むくじゃらの体、息をして動くお腹、呼ばれたら反応し、威嚇もし、まるで感情を持っているかのような様子。ふだんは石垣の山の中で暮らしていて、人里に姿を現してきたかのよう。
 
獅子舞の準備
 
旧盆迎えの日の夕方、1軒の屋敷に続々と人が集まってきます。そこは、“メーレ”と呼ばれる白保の獅子の家元である宮良家。毎年この日にメーレでの儀式で獅子舞がはじまり、また旧盆明けの深夜にメーレで行われる儀式で4日間がしめくくられます。初日の儀式を終えると、獅子舞は招待された家々をめぐりはじめます。今年まわった家は30軒ほど。
 
初日の儀式
 
白保の子どもたちは獅子舞が大好き。遅い日は24時すぎまで行われている獅子舞ですが、子どもたちも遅くまで追いかけてまわっています。子どもたちは決まって、獅子の顔の前に指を出して「れーるれ、れーるれ」と獅子を誘います。ちょっかいを出しすぎると、かまれて容赦なく引きずられるのをわかっていて、それを繰り返すヤマングー(いたずらっ子)な男の子たち。それを見て大笑いの大人たち。
 
獅子舞での赤ちゃん
 
白保の獅子舞には、獅子が赤ちゃんを口からすっぽりのみこんで、そのままお腹から取り出される習わしがあります。子どもの無病息災を願うもので、のまれた赤ちゃんは健康に育つと信じられています。大きな口にのみ込まれて、ぽかーんとしている赤ちゃんもいれば、泣き叫ぶ赤ちゃんもいますが、親たちは笑顔で満足げ。
 
五代目となる赤嶺幸一さん。中学3年生の息子の幸太くん
 
会長は五代目となる赤嶺幸一さん。中学3年生の息子の幸太くんは現在見習い中。去年からは親子獅子も披露しています。
 
会の最年長であり、獅子使いを約35年務める宮良裕久さんは、これまでにのませた赤ちゃんは300人にものぼるのだそう。やすぼー兄と呼ばれ慕われる宮良さんは、「しょうごとか、なーかーなんかも僕がのませたんだよ」といいます。なんと、現在会で活躍する青年を、赤ちゃんの時に獅子にのませていて、いまは保存会としてともに活動しているのでした。長間翔悟さんも子どもの頃から獅子を追いかけ、必ずシシブサーになりたいと思い続けてきた少年のひとり。中学生になって会に入り、15年近く保存会として活動しています。
 
中学生から大人までの幅広い年代の人たちがのめり込み、そこまで彼らを獅子舞に駆り立てるものとは。

広い庭にびっしりの人
 
最終日のメーレでの儀式は、広い庭にびっしりの人と、塀のそとからのぞく人たちでいっぱい。もう22時になろうとしているところだけれど、獅子舞のしめくくりを見ようとたくさんの人が集まります。大勢の人たちが見つめるなか、三線の音が響き、獅子が草むらから現れます。
 
獅子を見つめる宮良さん
 
厳かなだけでなく、子どもも大人も獅子を囃しに飛び出してきたり、とても賑やかにしめくくられました。すべて無事終わり、とても晴れやかな表情の保存会のみなさん。「今年も夏が終わったなぁって感じ」と清々しくもしみじみとする方も。
 
獅子を見つめる宮良さん
 
儀式の最中、獅子を見つめる宮良さんの目には光るものが。この時、赤ちゃんの頃に宮良さんがのませたふたり、長間さんと宮良央(なか)さんが、シシブサーとして儀式の重要な役割を果たしていたのでした。「白保にとってとても大切なもの」である獅子。それを誇りを持って保存、継承していくみなさん。
 
このあと打ち上げの席で、あいさつを指名された宮良央さんが、4日間を振り返って涙を流しながらあいさつをしました。今年初めて任された、儀式での名誉ある役目。そしてそんな彼を優しい目で見守る先輩方。仲が良くて大家族のようなみなさん。そんな彼らをうらやましくも感じて、あたたかい気持ちになって、満月の夜がふけていきました。
 
打ち上げの席
 

笹本 真純

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