夏の風物詩「ぜんざい」で、懐かしい沖縄にタイムスリップ〈千日(那覇市)〉

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初回投稿日:2018.08.07
 最終更新日:2024.03.27

夏の風物詩「ぜんざい」で、懐かしい沖縄にタイムスリップ〈千日(那覇市)〉


千日外観

沖縄の中心地から一番近い海水浴場として地元の人たちに親しまれている波の上ビーチから歩いてわずか8分。かつては海水浴帰りの人たちでごった返していたという「千日」は、当時の面影を今に伝える沖縄ぜんざいの老舗だ。千日のぜんざいは、国頭村(くにがみそん)の奥間(おくま)から那覇に移り住んだ先代の金城新五郎さん、春子さんご夫婦が1952年に開店した屋船食堂から始まった。アメリカ製の手動の機械でせっせと氷を削っていた時代のことだ。


千日の沖縄ぜんざい

とんがった三角形に盛りつけたかき氷の下に砂糖で甘く煮た金時豆が隠されている沖縄のぜんざい。この冷たいスイーツが誕生したのは1950年代とも60年代ともいわれていて、その起源は定かではないが、千日のかき氷がはっきり確認できるのは1960年代後半に撮影された写真だそうだ。


氷を削る

あまーく煮た金時豆に新雪のようにふわふわと柔らかく、しっとりなめらかな口当たりの真っ白な氷。「氷を削る機械と氷の質でずいぶん変わるのよ。サラサラしすぎると、縦にきれいに伸びないし、硬いと舌触りが悪くなるでしょ。刃の状態にも影響されるし、同じようにはなかなか作れないさぁ」。


千日のスタッフ

先代が書き残したレシピを忠実に守り、三女のれい子さんを中心に旦那さん、次男夫婦、そしてれい子さんの息子の5人が昔と変わらないぜんざいと鯛焼、今川焼を提供し続けている。

小豆などと違って金時豆の場合、皮が破れやすいので軽く洗ったらすぐに圧力鍋で煮る。沸騰したら弱火で約2時間、優しく煮る。その後、いったん火を止めて、砂糖を加えてからさらに4時間火にかける。これでおおよそ完成だけれども、作業はまだ続く。豆を落ち着かせ、味をなじませるためにさらに1日、そのまま置く。「本当は 1日半か2日経ったのが一番美味しいんだけど、夏場はお客さんが多くてね、鍋も小さいから、追いつかないわけよ」。


小豆を煮る鍋

お客さんが比較的少ないからと指定された午後3時に尋ねると、3時のおやつに合わせてか、テーブルが次々に埋まり始めた。そういう忙しい中、お客さんの様子を細やかにうかがいながら、れい子さんは話をしてくれた。「父親が几帳面な人でね、ノートに作り方を細かく書き残していたわけ。どれくらいの時間煮たら良いか、ちょうど良い甘さにするには砂糖の量をどうしたらいいか。私たちはレシピ通りにやればいいわけだからそれほどの苦労はないけど、父は試行錯誤で大変だったはずよ」。


千日のいちごミルク氷

千日のミルク金時

一番人気は看板メニューの「アイスぜんざい」(300円)。沖縄でぜんざいといえばこれ!っていう定番だ。「真夏はこれが一番でるけど、涼しい時期だとアイスぜんざいに練乳がかかった『ミルク金時』(450円)とか、『いちごミルク氷』(450円)を注文する人が多いね」。


千日でぜんざいを食べるスイスからの旅行者

空手の修行に沖縄にきているというスイス人のグループはアイスぜんざいといちご金時を美味しそうに食べていた。千日がある久米周辺は空手が盛んな地域で道場がたくさんある。空手のメッカである沖縄には、本場の空手に触れたいという空手家たちが一年を通してやってくる。そうした人たちは空手以外の沖縄の文化にも興味が尽きないのだろう。


千日でかき氷を食べる家族

「最近は欧米以外からも外国の旅行者が増えて来てるね。でも、地元の人も相変わらず多いのよ。夕方になれば近くの中高生が食べに来てくれるし、週末は家族連れで来てくれる。営業を始めた頃のお客さんがひ孫を連れて来てくれることもあるのよ」。目を細めるれい子さんの視線を追うと孫を連れたご夫婦がいた。聞けば、毎年夏になると、決まってここにぜんざいを食べに来るという。ご本人たちはアイスぜんざいを、孫ふたりは「いちごミルク氷」を頬張っていた。

千日でかき氷を提供するれい子さん

れい子さんは現在60歳。小学生の頃からお店の手伝いを始め、多くのお客さんが幸せそうにぜんざいやかき氷を食べる姿を眺めてきた。年頃の中学生の頃には恥ずかしくてお店に立つのが嫌だったそうだが、友達には「美味しいぜんざいを毎日食べられていいはずー」と羨ましがられていたという。20歳から30代始め頃までは県外で看護師をしていたが、その後向こうで知り合った旦那さんを連れてUターン。今ではお店になくてはならない存在になっている。そんなれい子さんには忘れられないエピソードがあるという。「台風の嵐の日に、若い男の人がぜんざいを買いにきたわけ。どうしてこんな日に買いにくるのかと思って話しかけたら、赤ちゃんを身ごもった奥さんに頼まれてやってきたって」。つわりで食欲をなくした女性や、重い病気で入院中の人が、他のものは食べられないけど、ぜんざいなら食べられると、頼まれてお店にきてくれる人は今でも少なくないのだそうだ。


千日を紹介する雑誌などの切り抜き

「中学校が近いでしょ。やんちゃな子も結構いてね。一時は放課後に補導で見回りに来る先生や保護者もいたり…。中には学校を抜け出してきて食べにくる子もいるわけさ。ある時、授業中に抜け出した生徒を探しに先生がお店にきたんだけど、その子たちを母が厨房にかくまってね。卒業した後に、『あの時は本当にありがとうございました』ってお礼を言いにきてくれたり、色々あったわね」。15年前に他界したれい子さんのお母さんはいかにも沖縄の女性といった感じで、優しくて気さくな人柄に多くのファンが集まってきていたという。「お母さんが亡くなって、しばらくお店を休んでいたのね。しばらく閉め切っていたから掃除でもしようと思ってシャッターを開けたら、待ってましたとばかり、お客さんが入ってきたの。その時は早く再開しなきゃって思ったね」。

時代は移り変わっても、変わらない大切なものがある。父から母。母から娘と息子たちに、さらには娘から孫へと受け継がれている沖縄のぜんざいも間違いなくその一つだといえるだろう。

千日

住所 /
沖縄県那覇市久米1-7-14
電話 /
098-868-5387
営業時間 /
11:30~19:00
定休日 /
月曜日、水曜日、木曜日

沖縄CLIP編集部

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