200年以上受け継がれてきた久米島唯一の獅子が舞う兼城十五夜<後編> 「十五夜村あしび」と獅子頭の想い

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初回投稿日:2021.09.18
 最終更新日:2024.03.27

200年以上受け継がれてきた久米島唯一の獅子が舞う兼城十五夜<後編> 「十五夜村あしび」と獅子頭の想い

安積美加のコラム

<当コラムについて>
当コラムは、2019年9月に取材させて頂いた久米島「兼城の十五夜」祭祀を安積美加が2年の想いを募らせて、前編・後編と綴りました。兼城のみなさま、いつもいっぺーにふぇーでーびる。

<前編> 毎年必ず奉納される神事「拝所まわり」

 

3年ぶりの開催となる「兼城十五夜村あしび」(2019年9月14日)

2019年9月14日。久米島(くめじま)兼城(かねぐすく)集落で、十五夜の神事「拝所まわり」が奉納された翌日、「兼城十五夜村あしび」が開催されることになっていました。十五夜の神事は旧暦十五夜に必ず毎年奉納されていますが、神事の後に開催される「村あしび」は不定期だそうで、開催は3年ぶりとのことです。

「十五夜村あしび」の横断幕
 県道から兼城港へ入る辻に掲げられた「十五夜村あしび」の横断幕【撮影】2019年9月13日

夕暮れ時となった6時過ぎに兼城公民館へ行ってみると、広場には島中から多くの老若男女が集い、たくさんの子どもたちが遊んでいます。おいでおいでと招くように、ビールや食べ物の露店が並び、この日のために建てられた屋外ステージの前には、芝生に腰を下ろせるようダンボールが、その脇にはパイプ椅子が並べられています。

さっそく生ビールを買ってきて、ステージ前のダンボールのひとつにペタンと座りました。暑すぎるということはなく、ビールがおいしい適度なよい暑さです。

兼城婦人部による「十五夜村あしび」の座開き「かぎやで風」
 兼城婦人部による「十五夜村あしび」の座開き「かぎやで風」【撮影】2019年9月14日

幕開けに、兼城婦人部による「かぎやで風」が演じられると、兼城子ども会による元気な「子どもエイサー」と続きました。和やかな雰囲気のなか、兼城に伝わる3つの伝統芸能、「白瀬走川(しらしはいかわ)節」、「しゅんどう(醜童)」、「獅子舞」も披露されました。

久米島兼城の伝統芸能「白瀬走川(しらしはいかわ)節」

兼城に伝わる「白瀬走川節」は、約200年の歴史を有するとされる久米島を代表する古典舞踊です。最後の御冠船(※うかんせん)で踊られた、もしくは振り付けされたのではないかという伝承を持ち、「恩納(うんな)節」、「白瀬走川節」、「立雲(たちくむ)節」の3部構成となっている伝統的な女踊りの型となっています。

兼城の三大伝統芸能のひとつ「白瀬走川」
 「十五夜村あしび」にて。兼城の三大伝統芸能のひとつ「白瀬走川」【撮影】2019年9月14日

白瀬走川とは、兼城湾に注ぐ白瀬川のことで、「白瀬走川に流れる桜花を掬って花輪をつくり、愛しい人の首にかけて差し上げたい」と女性の恋心を詠っています。女性らしい優雅な古典舞踊です。

※御冠船・・・琉球国時代、国王の代替わりの際に中国皇帝が遣わせた冊封使の乗った船のこと。転じて、冊封そのものを意味することもあります。

久米島兼城の伝統芸能「しゅんどう」

「しゅんどう」は、古典舞踊の中で唯一仮面を使用する打ち組踊りで、優美さと滑稽さ、美女と醜女の心情を表現したユーモラスな演目です。江戸上りや、冊封使を歓待する際、演目の最後に「御後段踊り(ウグダンウドゥイ)」として組まれていたとされる楽しいユニークな舞踊です。

兼城の三大伝統芸能のひとつ「しゅんどう」
 「十五夜村あしび」にて。兼城の三大伝統芸能のひとつ「しゅんどう」【撮影】2019年9月14日

地元兼城の2組のご夫婦で、奥様たちが美女を、旦那様たちが醜女を演じておられます。コミカルな動きの醜女ふたりに目が釘付けになってしまいます。

久米島兼城の伝統芸能「獅子舞」

約200年の歴史を有する兼城の獅子舞は、昨夜の十五夜神事に引き続き「村あしび」でも大活躍。主催者を代表して田端智(たばた・さとし)区長がごあいさつをされた後、獅子舞が披露されました。

はじめにメーモーイ(前舞)の美女が登壇。次に、美女の優美な舞に魅せられたハチャブローが登場して、獅子を誘い出します。こちらでも暴れ獅子は荒々しく歯を打ち鳴らし、舞台狭しと厄払いの獅子舞を披露しました。

兼城の三大伝統芸能のひとつ「獅子舞」
 「十五夜村あしび」にて。兼城の三大伝統芸能のひとつ「獅子舞」【撮影】2019年9月14日

18時半から始まった「兼城十五夜村あしび」は、久米島の小中高生が演舞する現代版組踊『ガサシワカチャラ』のメンバーによるダンスアンサンブル、民謡ライブなど、次々と余興が披露されていきました。

子どもたちの活き活きとした演舞や楽しい民謡ライブ。島風に吹かれながら、生ビールや島酒で心地よく喉を潤せば、時間を追うごとに“いいあんべ~”となるのは必然。民謡ライブではステージ前に躍り出て、気持ち良さげにカチャーシーを踊る男性たちの姿がありました。

「十五夜村あしび」
 3年振りに開催された「十五夜村あしび」【撮影】2019年9月14日

数々の余興で盛り上がりをみせた会場に、「いよいよ村あしび最後のプログラムとなりました。兼城の三大伝統芸能のひとつ獅子舞の最後の舞いです!」とアナウンスが響きました。村あしびのラストを飾るのも獅子舞なのでした。

「十五夜村あしび」での獅子舞
 「十五夜村あしび」での獅子舞【撮影】2019年9月14日

ステージに二度も獅子舞が登場するなんて! 少し驚きましたが、島の人たちが久米島唯一の獅子舞をどれほど楽しみにされているのかがよくわかりました。

「十五夜村あしび」での獅子舞
 「十五夜村あしび」での獅子舞【撮影】2019年9月14日

ステージの上で舞っている獅子に向かって、広場から少年たちがわぁわぁと囃し立てています。何を言っているのかよくはわからないのだけれど、少年たちはとても楽しそうです。

しばらくすると突如、獅子はなんとステージからぴょーんと飛び降りて、少年たちのもとへ走っていくではありませんか!

これにはみんなびっくり仰天! 「わぁあああ!」、「きゃー!」、「逃げろー!」と大騒ぎしながら子どもたちは驚き逃げ回りはじめました。

「十五夜村あしび」での獅子舞
 「十五夜村あしび」での獅子舞【撮影】2019年9月14日

暴れ獅子はそのまま会場を縦横無尽に駆け回り、小さな子どもからお年寄り、島の人々にやさしく噛み付いて廻りました。無論、獅子が人の頭を噛むのは、健康祈念と厄払いのためです。

あぁ、これが「村あそび」の醍醐味なのかも。暴れ獅子の動きに沸き立つ会場で、思わず笑みがこぼれました。

200年以上継承されてきた獅子舞を受け継ぐ獅子頭の想い

約3時間の「村あしび」がお披楽喜になると、祭りの興奮と熱気が冷めやらぬなか、テキパキと片付けが始まりました。手際よく撤収作業が進められ、今日中にやるべき祭りの片付けはあらかた終えたようです。

関係者全員が公民館のなかへ入り終えたその瞬間、ザーッと夜雨が降り出しました。

十五夜神事と村あしび、ふたつの祭祀が無事に終わるまで待ってくれていた。神様も兼城十五夜を祝福してくれているに違いない。そう思えました。

ザァザァと打ち付ける秋雨をBGMに、兼城公民館で賑やかな慰労会がはじまりました。

ハチャブロー役
 久米島は、県外からの移住者や離島留学生を受け入れる体制が非常によく整っており充実しています。島の人たちが見守るなか、練習から参加していた離島留学生もハチャブロー役を立派にやり遂げました。【撮影】2019年9月13日

ずいぶんと遅い時間まで公民館で飲み語らいました。何十人と多くの方が宴を楽しんでいたのですが、気づけば数えるほどの人たちだけになっています。

このときになって初めて言葉を交わすことができたのは、兼城の新城秋人(しんじょう・あきひと)さんでした。お話しているうちに、秋人さんは今回の十五夜でも獅子頭を務められ、高校生のときから現在まで20年あまり、兼城の獅子を舞っている青年だとわかりました。

「年に一度の十五夜は絶対的なものです。一年に一度の無病息災、厄払い、招福、自分の気持ちだけではなく、先輩や字(あざ)への想いを獅子を舞うことで表現しています」。獅子頭を担われている秋人さんが想いを語られ始めました。

兼城十五夜の「拝所まわり」
 兼城十五夜の「拝所まわり」【撮影】2019年9月13日

「獅子は二人一組で舞います。前の獅子頭も大変ですが、後ろに入っている相方も大変です。後ろの相方はまったく何も見えない状態で、前にいる獅子頭の進路を読んでフォローしながらついて行くのですから。相方とは絶対的な信頼が必要です。ふたりの息がぴったりと合っていなければなりません」。

「獅子は、中腰やうさぎ跳びの状態で動き回るなど、日常生活とはかけ離れた動きをするので、練習で徐々に身体を慣らして行き、当日に向けて、獅子舞の所作と体力を戻していきます。練習して、獅子舞の動きのキツさに慣れないと本番に持っていけませんから。獅子を舞うことの厳しさが、自分自身の精神的な部分も鍛えられていると感じます」。

「抱っこされている小さな子どもには、厄払いのために進んで噛みに行くようにしています。獅子の激しい動きは、動く度に自分たちに負荷がかかりますが、子どもたちがキャーキャーと逃げ回ったり、みんなが喜んでくれるのが嬉しいんですよね。

字の発展、無病息災のために、何十年、何百年と続いてきた先輩たちの想いと獅子舞を、後輩や次の世代につなげていきたいです」。

兼城の獅子を務めることの苦労と責任、そして獅子としての歓びを語られる秋人さんの瞳は、次第に熱を帯びてきたように見えました。

兼城十五夜の獅子
 兼城十五夜の獅子【撮影】2019年9月13日

また見てみたい。また会いたい。そう思う兼城の獅子舞。想いを語ってくださった秋人さんに、「いつかまた見に来たいと思います」と告げると、秋人さんはさらりと言いました。

「いつ来ても同じことをやっていますよ、ぼくらは。何も変わらず」。

秋人さんの言葉から、先輩たちや字への想いとともに、200年以上の歴史と伝統をこれからもずっと変わらず守り続けていくのだという、揺るぎない信念が感じられました。500年以上変わることなく、同じ役目を果たし続けている兼城港のように。

久米島の兼城港と兼城集落
 久米島の兼城港と兼城集落【撮影】2019年9月15日

<あとがき>
2013年からご縁をいただき大変お世話になっております兼城伝統芸能保存会をはじめとする兼城のみなさま、いつもいっぺーにふぇーでーびる。私を含め、訪れる方たちをいつもあたたかく迎えてくださるのは、500年以上に渡り、久米島の海の玄関口として多くの人々をお迎えされてきたからなのでしょうね。

コロナの収束を願うとともに、来年2022年の十五夜には、兼城が誇る獅子舞と兼城のみなさまの笑顔にお会いできることを願っています。

そして、当コラムをご覧いただきました沖縄CLIP読者様も、コロナ禍が収束しましたら、ぜひ久米島へ、兼城へ訪れてみてください。

うまんちゅぬ あちゃー かふー うにげーそーいびーん。
みなさまに琉球弧のすべての神々のご加護がありますように。
 

安積 美加(あさか みか)

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