宮古島の味と人と文化と。嬉しい出会いが広がる「カフェ ウエスヤ」

Reading Material

食べる

初回投稿日:2023.08.30
 最終更新日:2024.03.27

宮古島の味と人と文化と。嬉しい出会いが広がる「カフェ ウエスヤ」

宮古島(みやこじま)に出かけたら、訪れたい店がある。会いたい人と味がある。宮古空港から車で約15分。飲食店が並ぶ市街地に、ちょっと目を引くコンクリートの外観とブリキの看板。小さな階段を降りると、広がる緑の中庭。隠れ家のような趣に胸躍る「カフェ ウエスヤ」だ。

楽しい会話と笑顔が自然と生まれる集いの空間

カフェ ウエスヤの看板
ウエスヤ2代目の看板はBEBICHIN氏と「あさと木漆工房」安里昌樹氏の共同作品

 

「カフェ ウエスヤ」(以下:ウエスヤ)の設計は、おもしろい。中庭を半円状でぐるっと囲むように平屋が建てられていて、ところどころに大きな窓がある。だから、室内のダイニング席から中庭が眺められるし、中庭のテラス席からも室内を見ることができる。それぞれの席で食事を楽しむ人が、窓越しに手を振りあったり、出入り口の階段に続く中庭の石畳でばったり会った人たちが声を掛け合ったり、いつもどこかで会話と笑顔が生まれている。心地よい集いの空間が自然とできあがっているなぁと感じる。



カフェ ウエスヤの庭
 

「ウエスヤがオープンしたのは2015年。もともとは、ここから歩いて5分くらいの場所でスタートしたんです。そこは、主人の母方の実家でね、みんなでとってもとっても大事にしてきた場所でした。だけど建物の老朽化が進んで、建て替えもうまく進まなくて困っていたとき、ここが見つかって。今の場所に移ったのが2019年12月なので、新生ウエスヤとしてはもうすぐ5年になります」。そう教えてくれたのは、ご主人・羽地歩(はねじあゆむ)さんと一緒にお店を切り盛りする奥様の由華子さん。



ご主人・羽地歩(はねじあゆむ)さんと奥様の由華子さん。
 

「私は福岡県出身なんですけど、2016年に初めて宮古島に遊びに来たとき、『おいしいごはん屋さんがある』と友達に誘われて行ったのが、前のウエスヤだったんです。そこでオーナー兼料理人の歩くんと出会って、トントン拍子でその年のうちに結婚、移住。福岡から一度も出たことがなかった私が、まさか初めて旅に出た宮古島で結婚(笑)。人生っておもしろいですよね」。

 

歩さんは、宮古島出身。20代から東京へ出て飲食業に就き、30代初めのころ、島に帰郷。家族の思い出がたくさん詰まった場所に、島の食材を使ったアジアン創作料理を提供するウエスヤをオープンした。



旧ウエスヤの前で撮影した写真。歩さんと由華子さん
旧ウエスヤの前で撮影した写真。歩さんと由華子さん
 

「あの場所は、昔じいちゃんがずっと歯科医院をやっていて、その後、母ちゃんが屋号の『うえす』をとって、カフェ&ギャラリー『うえすやー』を始めて、自分の代になって『カフェ ウエスヤ』として継いで。三代続けて大事に守ってきた場所だったんですよ」と、歩さん。

思い出の場所から新拠点へつないだ大きな窓の縁

当時の「うえすやー」の写真を収めた冊子「うえすやー物語」と、その後を継いだ「カフェ ウエスヤ」の写真集がある。「ほら、これ」と、ページをめくりながら、歩さんが教えてくれたのは、まるで絵画のように美しい景色を縁取る大きな窓。

当時の「うえすやー」の写真を収めた冊子「うえすやー物語」

ウエスヤの店内の写真

「母ちゃんがギャラリーを始めるとき、壁をぶち抜いて、大きな窓を作ったわけ。それで、『大きな窓の小さなギャラリー』って言ってね。母ちゃん自身も染織をやっていたり、ギャラリーでは東松照明さんとか著名な写真家さんを呼んで個展をやったりして、文化を大事にする人だったんですよ」。

そういえば、現在のウエスヤにも大きな窓があるけれど、あれは前の店に合わせて作ったもの? そう尋ねると、「それがね、もともとあったんです」と、由華子さん。

現在のウエスヤにある大きな窓
現在のウエスヤにある大きな窓

「建て替え問題で困っていたとき、前のウエスヤにごはんを食べに来てくださったお客さんが、なんと今の建物の大家さんだったんです。私たちの事情は知らなかったんだけど、たまたま自分の持ち家をカフェとして使ってくれる人を探しているって。なんてタイミングなのって大興奮して翌日すぐ歩くんと見に行って、そしたらこんなに素敵な場所で、しかも同じ大きな窓があって、ますます興奮して。この場所に引っ越してお店を続けようってすぐ決めました。2人とも夢を見ているのかってくらい嬉しくて、しばらく眠れなくなるほど(笑)」
 
かつて大家さんの家族が暮らしていたというその平屋は、後に一室のみ改装したものの、ほぼ当時のままで「カフェ ウエスヤ」に生まれ変わることに。笑い声がよく響く高い天井も、その日の景色を縁取る大きな窓も、きれいな木漏れ日をつくる中庭の木々も、ずっと続いてきたこの場所の魅力なんだなと、しみじみ感じる。

ウエスヤの店内

店内を彩るのは、宮古島のバスケットアーティスト、小川京子さんの作品。クバの葉で編んだ生き生きとしたオブジェが、なんともあたたかな存在感を放つ。そして傍らには、昔の宮古島らしき景色が写った古い白黒写真。「それ、うちのじいちゃんが撮った写真」と歩さん。



「じいちゃんは写真を撮るのが好きで、歯医者をやりながら、島の人とか祭祀とかよく撮っていたらしいです。島出身の書道アーティスト、新城大地郎(しんじょうだいちろう)が初めて店に来たとき、飾ってある写真を見て『自分のひぃじいちゃんが写ってる!』って驚いて。聞いたら、うちのおじいと大地郎のひぃじいちゃんはすごく仲良しだったみたい。人の縁って不思議。いろいろつながっていくんだなぁって」

じいちゃんの飾ってある写真

エスニックな香味が効いたアジアン創作料理

「Asianまぜそば」

いつも賑わうウエスヤのランチタイム。「ここに来たら、まずはこれ」とおすすめされた看板メニュー「Asianまぜそば」を初めて食べたときの感動は忘れない。宮古そばのストレート麺の上に、宮古味噌と花椒で味付けしたひき肉、きゅうりやトマトなどの野菜、カリカリな揚げワンタン、ピーナッツ、パクチーなど具材がたっぷり。これらにレモンをしぼり、とにかく混ぜ、麺に絡ませ、食べる。多様な食感と、甘辛の妙。「もう一杯食べられるかも」と思ってしまうほど、箸が止まらない。しかも追い飯付きなので、あえて具材だけ残しておき、最後にアツアツの黒米と混ぜて食べる。これもまた、たまらない。

「Asian宮古そば」

「Asian宮古そば」は、ニラやパクチーがたっぷり、フォーをイメージした汁そば。宮古そばの出汁をベースに、エビの出汁入り特製ガーリックオイルでアジアン風味に仕立てたスープ、つるつるモチモチな生麺、ブラックペッパーの辛味が効いたトロトロ炙りソーキ、ライムとトマトのさわやかなアクセント。ほっとする家庭的なアジアン食堂の味という感じで、夢中で食べてしまう。途中、自家製ラー油やお酢で、味変を楽しめるのも嬉しい。

「本日のランチプレート」

「本日のランチプレート」も人気のメニュー。この日のメインは、ほんのりスパイスをまぶしてエスニック風味に仕上げた白身魚フライ。副菜は、島野菜や島豆腐、もずくなど、宮古島の恵みがたっぷり。試しに、タルタルソースに自家製ラー油を加えてみると、これもまた美味。「どれも本当においしい!」そう叫ぶと、「お客さんのそういう声があるから、いつも頑張れる」と歩さんが嬉しそうに笑っていた。

フルーツタルト

蒸しプリン

パティシエのACCOさんがつくるスイーツも絶品だ。蒸しプリンやフルーツタルトなど日替わりで3~4種を用意。最近は、歩さんのお母さん、郁子さんのレシピで作ったという素朴で奥深いおいしさの「郁ちゃんのベイクドバナナチーズケーキ」も登場。こうしたスイーツは、ぼんやりしていると食事を終えた後には売り切れていて、しょんぼり……なんてことも多いので、食事のオーダー時に一緒に頼んでおくのがおすすめだ。

自分の生まれた場所、文化を大事にするということ

「お店のコンセプトとか計画とか、考えるのが苦手で(笑)。常に自然体。流れるようにここまで来た感じがします」と、歩さん。

「でも、父ちゃん母ちゃんから受けた影響は大きくて、それがきっとこの店の土台になっているんだろうなと思う。店の雰囲気とか、手作りの木のテーブルとか、かけている音楽もそう。うちの父ちゃんは、実は宮古島に初めてジャズ喫茶を作った人。自分はまだ小さな頃からよくその店に行って、写真家やミュージシャンの人たちがコーヒーを飲んでいる横で、遊んでいたみたい。あの屋良文雄(やらふみお)さんを呼んでライブしてもらったって後から聞いて、父ちゃんすごいじゃんって(笑)。生まれた場所を大事にしたい、文化を大事にしたいっていう父ちゃん母ちゃんの気持ち。それは自分も同じなので、そういう部分が今のウエスヤにつながっているのかもしれないですね」

カフェウエスヤのカウンター

さて、以前ウエスヤがあった場所の話。実は、現ウエスヤの大家さんが設計士だったことから、その後、建て替えを引き受けてくれたようだ。2022年5月には、晴れてアートギャラリー「PALI GALLERY」に生まれ変わり、新たな幕開けを切ることに。このギャラリーを運営するひとりが、書道アーティストの新城大地郎さん。ウエスヤに飾られた写真をきっかけに出会った「おじいとひぃおじいが仲良かった」というあの人である。そして屋上のテラスには、同年6月、ウエスヤの姉妹店として多国籍料理店「uewasora」がオープン。歩さんたちが大切に守ってきた大好きな場所は、島の人が集うカルチャー発信拠点として、今もその役割を引き継いでいる。

ご主人・羽地歩(はねじあゆむ)さんと奥様の由華子さん。

人の縁がぐるぐるとつながり、みんなから愛され続ける「カフェ ウエスヤ」。2023年5月に訪ねたときは、中庭で宮古島の道を写した上西重行さんの写真展が開催されていた。モノクロの写真に木漏れ日が揺れて作り出される、光と影の模様がとても美しかった。こうして思い出しながら書いていると、あの空間が恋しくなってくる。もう一度食べたい味、会いたい人、感じたい文化。そんな素敵な記憶が宿る旅が、皆さんにも訪れますように。

カフェウエスヤ

住所 /
沖縄県宮古島市平良下里43
TEL /
0980-73-5286
営業時間 /
ランチ11:30~14:00、ディナー19:00~22:00(火・金・土のみ、予約のみ)
※ランチは12:00までの来店のみ予約可能
定休日 /
水・木曜
駐車場 /
なし
Webサイト /
https://www.instagram.com/ayumuhaneji_uesuya/

岡部 徳枝

関連する記事

同じカテゴリーの記事