日々の暮らしにすーっと溶け込む新しい沖縄の器たち〈一翠窯(読谷村)〉
日々の暮らしにすーっと溶け込む新しい沖縄の器たち〈一翠窯(読谷村)〉
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歴史文化
初回投稿日:2019.04.10
最終更新日:2024.07.26
最終更新日:2024.07.26
“確かに鮮やかな色使いは南国的。けれども読谷村(よみたんそん)の北窯や那覇市(なはし)の壺屋(つぼや)で見かけるやちむん(沖縄の伝統的な陶器)とは世界観がどうみても違う。和にも洋にも、そしてアジアにも、琉球にも、いろんなスタイルに合いそうな器。シュッとしてるようで、どこか素朴な味わいがある。そんな独自の器を作っているのが読谷村にある一翠窯の高畑伸也(たかはた・しんや)さんだ。
「独立した時は、唐草とか、三彩とか、伝統的なモチーフで民芸的な香りが強い器をつくっていたんですよ」と高畑さん。確かに見渡せば、刃物の先で引っ掻いたような小さな窪みが点々とある伝統的な技法“飛び鉋”の皿とマカイ(ご飯茶碗)が並べられている。オリジナルのスタイルが生まれ始めたのは独立して4~5年経った頃のようだ。
「新しい世界を切り拓いていくことに価値を置いているんです。出尽くしている感もありますから、簡単にはいきませんが、新しいものが生まれた時の喜びはそれはすごいですよ。年に一回あればいい方ですが、心の底から『これだ!』と喜べる瞬間があるんです」。そう言って見せてくれたのが、一見すると漆器のように見える器だった。シルクロードからトルコを通ってヨーロッパに届けられたようなオリエンタルな花柄が、拭き漆を思わせるベースの上にあしらってある。
こちらは昭和レトロなポピーが配置されたキッチュな平皿。「沖縄市にコザ一番街という昭和チックな商店街があるんですけど、そこについ最近まで工房を構えていたんですよ。あそこで感じた空気感がこの作風につながっているんです」。先ほどの漆器風の器と同様、オリジナルでデザインを起こし、印刷会社に特注したデカールを使った新しいシリーズだ。
小さい頃から昆虫が好きだったという高畑さんのマイワールドが繰り広げられているのが東南アジアで手に入れた昆虫標本を図案にした渋目の一枚。マニッシュな趣がなんとも言えない。「新作を完成させるまでには一年以上かかることもよくあるんですよ。試作しても思うように色が出ない。改善策を考えて、また試して。その繰り返しです」。そのようにして、うぶ声を上げる新作は高畑さんにとっては我が子のようなものだろう。
続いて案内されたのは自身でタイに薪窯を築き、そこで焼いた南蛮焼締のラインが並ぶ一角だった。「最初に心を動かされたのは、実は焼締の器だったんです。土の質感が前面に出てる、釉薬がかけられてない焼き物でした」。その時の感動を形にした焼締の作品。薪を使って焼かれている器たちは、どれも一期一会的な、世界にただ一つしかない表情をしている。炎や土が醸し出す泥臭さは一点もののアート作品を思わせる。
沖縄で独自の世界を築きつつある高畑さんが初めて沖縄に旅行に来たのは1999年のこと。大阪から沖縄経由台湾行きのフェリーが出ていた頃のことだ。乗り込んだ船には数名しか乗船者がおらず、船中で話に花が開くのに時間はかからなかった。そのうち一人が沖縄県出身者で、那覇の港に降りてから、あっちこっち連れて歩いてくれたおかげもあって沖縄好きに。
沖縄を2度目に旅した時は那覇のゲストハウスに滞在した。たまたま壺屋の街を散歩していたある日、電信柱に「見習募集」の張り紙が。未経験者でも陶芸を身につけられることを知り、縁あって読谷村の窯元にて修行を始めたという。週6日、毎日12時間働いても、給料は10万円にははるかに届かない。それでも伝統的なやちむんの基礎を学び続け、2005年に見事独立。一翠窯を開業した。
工業高等専門学校を卒業後、大手の製紙会社の工場で機械のメンテナンススタッフとして勤務した高畑さん。巻き込まれたら命を失ってしまう大きなローラーのすぐ側で保守作業に従事することもあったそうだ。今振り返ればそこで物作りの厳しさとプライドを教わったのだという。その後、思うところがあって会社を辞めて、インド、ネパールを皮切りに、タイなど東南アジアの国々を放浪する旅に出かけた
「昨日は50個だったけど、今日は60個も組み立てられた」。ビデオカメラの組み立て工場で働いていた時もものを作る喜びは間近にあった。「仕事の成果が目に見えるからわかりやすいし、仕事にリアルがある」。そう語る高畑さんは根っからのものづくりタイプなのだろう。
「相変わらず沖縄で手仕事をやってみたいという移住者は多いけど、以前に比べて長続きしない」。そんな話が手仕事の世界では珍しくはなくなっている。沖縄移住前の「下積み」とものづくりが大好きな性分が、憧れだけでは長続きしない修行期間を乗り切るベースになったと高畑さんは振り返る。手にしただけではわからない作り手のストーリー。作り手を一人ずつ回って歩くと、今まで気づかなかった世界が見えてくる。
一翠窯
- 住所 /
- 沖縄県中頭郡読谷村 字長浜18
- 電話 /
- 098-958-0739
- 営業時間 /
- 9時00分~17時00分
- 定休日 /
- なし(12/31〜1/3のみ休み)
- サイト /
- https://touki.biz/
琉球民芸センター(那覇市)https://www.rm-c.co.jp、
CALiN(カラン)カフェ+ザッカ(名護市)https://www.facebook.com/pg/calinamie/、
琉球ザッカ青空(宮古島市)http://aosoragr.com、
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