人と人で元気をつなぐ、栄町市場《栄町市場》

人と人で元気をつなぐ、栄町市場《栄町市場》

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歴史文化

放送日:2024.03.18 ~2024.03.22

初回投稿日:2024.04.12
 最終更新日:2024.04.09

最終更新日:2024.04.09

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琉球歴文化体験モニタープログラム

1「ゆんたくから始まるお買いもの」

那覇市の安里駅東側にある栄町市場は、迷路のような筋道に八百屋、乾物屋、精肉店、鮮魚店などが軒を連ねる場所。歩いていると、さまざまなところから、楽しそうなゆんたく(おしゃべり)と、笑い声が聞こえてきます。ここの魅力は、なんといっても昔ながらの対面販売。お客さんとお店の人が顔を合わせて、ゆんたくすることから買い物が始まります。

はいさい食品
楽しい会話が弾む「はいさい食品」

お客さんにとって、栄町市場のお店の人たちは、頼れるごはんの相談相手。「今日はどんな料理にするの? 何人で食べるの?」。そんな会話から、その日の献立や、一緒にごはんを食べる人数に合った材料や量をアドバイスしてくれます。

「この市場ならではの相対売りが好きで、来てくれているお客さんが多いはず」と、語るのは、創業65年「はいさい食品」の糸数多美子(いとかずたみこ)さん。店先いっぱいに新鮮な野菜や果物が並び、日用品や生活雑雑貨まで、なんでもそろう商店です。

糸数多美子
市場の女将3人で結成された「おばぁラッパーズ」の一員でもある糸数多美子さん。

「地域のお年寄りや若い人たちまで、いろいろな人が立ち寄ってくれて話ができるのが楽しい。お客さんに喜んでもらえるのが一番。『この前のあれがおいしかったよ』なんて言ってもらえると本当に嬉しいですね」。

あの人とまた会いたい、この人から買い物をしたい。そんなふうに思わせてくれる人たちがいる場所。訪れる人と迎える人とのあたたかなやりとりに満ち溢れているのが、栄町市場の魅力です。

2「帰ってきた、鰹節の香り」

夜の飲み屋街という顔も併せ持つ栄町市場。昨今、夜が賑やかになった一方で、全盛期に比べると、昼のお客さんが少なくなってきたと言います。そんな状況を知り、市場に元気を取り戻したいと、近年、若い世代の人たちが続々とお店をオープン。2019年より、実家である「はいさい食品」の3代目として働く上原壮介(そうすけ)さんも、そのひとり。2024年1月17日には、「はいさい食品」のななめ向いに「削りたてカツオ節専門店 出汁ダシ」を開店しました。

上原壮介さん
市場の商店街振興組合の副理事も務める上原壮介さん。

「昔は、市場に鰹節屋がたくさんあったんですけど、高齢化や後継者不足で閉業が続いて、遂に最後の鰹節屋さんがなくなってしまって。『はいさい食品』に来る客さんから、『寂しいね』という声をたくさん聞きました。沖縄の料理に必要な食材をまとめて買えるのが、この市場の特徴だったので、『困ったねぇ』と言われることも。自分も子供の頃からここでよく遊んでいて、市場に漂う鰹節の香りは覚えていたので、あの香りを蘇らせたいという思いがあり、自分で鰹節屋をやろうと思い立ちました」

鰹節を載せた定食のごはん
豊かな香りと風味の鰹節を載せた定食のごはんは格別なおいしさ。

「削りたてカツオ節専門店 出汁ダシ」は、店先で、必要な分だけ鰹節を削ってくれる昔ながらのスタイル。また、朝8時から14時まで、イートインで鰹節ごはんセットも味わえます。

料理を担当するのは、壮介さんの兄・上原寿雄(ひさお)さん。すぐ隣でスムージーや野菜ジュースを提供する「野菜と果物Factoryコツコツ」を営みながら、「削りたてカツオ節専門店 出汁ダシ」とコラボという形で、削りたての鰹節を使った定食を作っています。

削りたてカツオ節専門店 出汁ダシ
「野菜と果物Factoryコツコツ」で作られた定食が、隣の「削りたてカツオ節専門店 出汁ダシ」で食べられる。

「地道にいいものを作って提供して、食べてくれた人に喜んでもらって、少しずつ続けていけたらいいなと思います」と、寿雄さん。

「コツコツ」という店名の由来は、この店の軒上にお祖父さんが残した「コツコツ」という手描きの文字があったことからだそう。子供の頃の記憶や、家族との思い出。ふとしたところに、大切なことが息づいているのが、栄町市場らしさです。

3「市場に響く、ひめゆりの歌声」

戦後、「この地が再び栄えるように」という想いを込めて、当時の村長が命名した栄町。現在、栄町市場がある地には、戦前、ひめゆり学徒隊の母校である沖縄師範学校女子部、沖縄県立第一高等女学校がありました。1968年、市場内に、ひめゆり同窓生たちが力を合わせ、平和発信の拠点として「ひめゆり同窓会館」を建立。2017年に改修が行われ、現在は「ひめゆりピースホール」となり、さまざまな舞台公演が行われています。

同窓会の看板
「ひめゆりピースホール」の入り口には同窓会の看板が残る。

同窓会の看板は今も健在。「ひめゆりピースホール」の入り口には、沖縄師範学校女子部、沖縄県立第一高等女学校の当時の写真も展示されています。階段を登っていくと、聞こえてくるピアノと歌声。実は、同窓生の皆さんが、このホールに月2回集まり、コーラスの練習を行っているのです。もともと「同期生みんなでさえずろう」と「さえずる会」を設立したのが始まりなのだそう。

翁長安子さんと、与儀毬子さん
会長の翁長安子さんと、ピアノ伴奏担当の与儀毬子さん。

「家にいるだけじゃなく、こうして外に出て歌ったりすると体のためにプラスになる。みんなで顔を合わせて、歌って世間話をして、一緒にご飯を食べて。元気をもらうとても大事な時間なの」と会長の翁長安子(おながやすこ)さん。「四季の歌」では、翁長さんのレクチャーで手話をしながら歌うことにも挑戦したり、楽しい時間が続きます。

同窓生は、学生だった頃と変わらず、今も「〇〇ちゃん」と呼び合う仲。ピアノ伴奏を担当する与儀毬子(よぎまりこ)さんも、「若い頃のようにはいかないけれど、歌うと元気が出るねと言ってくれる。だから、これからもずっと続けていかなきゃって、みんなで気持ちを結び合っています」と語ってくれました。

手話

4「世代や店舗を超えて手を結ぶ」

1950年頃に創業した老舗店「比屋根千切り店」の比屋根和子(ひやねかずこ)さんは、お母さんの代から店を継ぎ、今年で70年目。まだ10代の頃から、店番の手伝いを始め、長年の間、栄町市場を行き交う人たち、そこにある景色を見つめてきました。「お客さんから声をかけてくれるので、市場にいるのが本当に楽しい。お家よりこっちのほうが好き」と、ちょっぴり照れ笑い。

比屋根和子さん
笑顔がチャーミングな「比屋根千切り店」の比屋根和子さん。

2023年2月には、すぐ隣にお孫さんの渡久地佑奈(とぐちゆうな)さんが、ケーキ屋「Lavie.」をオープン。市場の人の話では、「比屋根さんは、もうお店をやめようかと迷っていたけれど、『孫が隣で頑張っているから、私もまだまだ頑張ろうと思った』と言っていたよ」とのこと。

「比屋根千切り店」と「Lavie.」
隣同士にある「比屋根千切り店」と「Lavie.」

佑奈さんにとっては、独立してから初となる自身の店。「おばあちゃんが隣にいてくれるだけで安心する」と言うと、比屋根さんも「私も安心する」と一言。「父が言っていたんです。私が市場でお店を出してから、おばあちゃんがすごく元気になったって。それを聞いて、私も嬉しくなりました。2人で支え合っています」。

市場にお店を構えてから18周年を迎える珈琲屋「potohoto」は、昨年市場内に移転リニューアル。以前より広くなった店舗では、豆の焙煎も行えるようになりました。「もともと、お店の場所を探していたときに、『市場には珈琲屋さんがないから、やったらいいよ』と栄町の方が誘ってくれたのが始まり」と、店主の山田哲史さん。

COFFEE potohoto
地元の人も観光客も訪れる市場の憩いの場「COFFEE potohoto」

「『私たちが毎日飲みに行くから』と言って、本当に開店当初から一日に2杯も3杯も飲みに来てくださって。今も変わらず来てくださっています。それがこの店の原点ですね」。

店舗をハシゴしながら、ゆっくり市場の時間を味わってほしいと、「potohoto」では、「Lavie.」のケーキ、「THE SAKAEMACHI ARCADE BAKERY」のパンが持ち込み自由。淹れたての珈琲と共に、おいしいカフェタイムを味わうことができます。

世代や店舗を超えて手を結び、支え合う。栄町市場の元気な絆を感じます。

5「市場という居場所」

創業72年の「町田精肉店」は、町田直美さんと、息子さんの町田宗太(そうた)さんが、親子2代で切り盛りしています。「この部位はこうしたらおいしくなるよ、この料理はこう使ったらいいよと、お客さんに教えたり教えられたり。ここでの会話が勉強になります」。そう宗太さんが語ると、「『おいしかったよ、ぬちぐすい(命の薬)になったよ』って言われるとお店を続けていてよかったと思います」と直美さん。

町田精肉店
肉を切るダイナミックな包丁さばきを見るのも楽しい「町田精肉店」

子どもの頃は市場で遊ぶのが日常だったという宗太さん。「学校から帰ってくると、いろいろな店の人が言ってくれる『おかえり』という声が胸に残っています。自分が大人になって、今度は市場に来る子供たちに『おかえり』と声をかけている。栄町市場のいいところは、いつも誰かがいてくれるところ。孤独にならないところだと思います」。

創業56年「安里精肉店」の安里俊幸(あさととしゆき)さんは、お肉以外にも、味噌やお菓子など、さまざまな商品を扱うようになってから、お客さんとの交流の輪が広がったと言います。なにより、安里さんは、市場に来る子どもたちから大人気。子どもたちと安里さんが一緒に遊ぶ姿、その満面の笑みとはしゃぐ声に、こちらも頬がゆるみます。

安里俊幸さん
朗らかな笑顔で迎えてくれた「安里精肉店」の安里俊幸さん。

安里さんの別名は、「花咲じいさん」。お店の裏側にある中庭は、安里さんが植物の手入れをしている自慢の庭です。隠れ家のようなほっと一息できる休み処。「これは珈琲の実。これは咲いたばかりの花。きれいでしょ」などと、嬉しそうに解説してくれました。

子供も大人も大事にしたい、市場という居場所。栄町市場には、時代や世代を超えて、未来につないでいきたい大切な思いが根付いています。

栄町市場

住所 /
沖縄県那覇市安里388
TEL /
098-886-3979(栄町商店街振興組合)
営業時間 /
店舗により異なる
定休日 /
店舗により異なる
facebook /
https://www.facebook.com/sakaemachiichiba/?locale=ja_JP

沖縄CLIP編集部

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放送日:2024.03.18 ~ 2024.03.22

  • 放送日:2024.03.18

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