「安座真に集うみんなの笑顔」あざま共同売店

斎場御嶽と久高島の間にある南城市安座真。この地に惹かれ移住した藤原明美さんは、2018年「あざま共同売店」をオープンしました。岡山県出身の明美さん。一度も沖縄に出かけたことがなかったのに、なぜか「沖縄に住みたい」という夢を抱き続け、息子さんが沖縄の大学へ進学することを機に初めて来沖。以来、移住への夢がふくらみ、たびたび旅で訪れるように。

あざま共同売店の外観

ついに夢が叶って、最初に住んだのは那覇市。けれど、せっかく沖縄に住んだのだから、もっと自然のあるところで暮らしてみたい。そう考えていたとき、たまたま訪ねた安座真の地が大好きになり、引っ越しを決めました。自治会に入り、地域の皆さんと交流するうち、よく耳にしていたのは「買い物が不便だよね、みんなで集まっておしゃべりできる場所がないよね」という声。そこで、買い物ができる売店と、椅子と机を並べてみんなが集まれる場所を作ろうと共同売店を開く決意をしました。

「あざま共同売店」藤原明美さん

とはいえ、どこに売店を構えたらいいのかわからず、資金もままならない状況。明美さんは、日々の散歩中、安座真の拝所「マルチャ石」に立ち寄り、「いい場所が見つかりますように」と祈りを捧げていたそうです。その帰り道、突然、地域の人から「この土地を使ったらいいよ」と声をかけられ、店を開く場所が決まったのだとか。資金は、クラウドファンディングに挑戦。地域の人たちをはじめ、多くの人たちの応援によって「あざま共同売店」が誕生しました。

「あざま共同売店」店内の様子

「最初はよその土地から来た人がどう受け入れられるか心配だったんですけど、地域の方々がいろいろなことを教えてくれて、助けてくださって。だから、皆さんのためになることして恩返しをしたいと思っています。安座真に骨を埋める気持ちで暮らしています」

看板猫の「ぷー」

「あざま共同売店」は、今や地域の顔というべきお店。南城市の公共バスチケット販売から荷物の一時預かり、地域図書館まで。ときには模合の場として利用されたり、明美さん主催で生バンド式のカラオケ大会や紙芝居のイベントが開催されたり。地域の人たちにとって憩いの場であり、困ったことがあると訪ねる公民館のような存在です。

カラオケ大会の様子

「一番多い相談ごとは、携帯の使い方ですね。あと、特に雨の日は商品を配達してほしいというお願いが多いです。コロナ禍のときは、給付金申請の書類について書き方がわからないとたくさんの方が訪ねてきて、相談所のような状態になっていたことも（笑）。そうやって自分を頼ってくれる人が、もしも自分の親兄弟だったらと思ったら放っておけないですよね。『ありがとう、助かった』って言って頂けると、やっていてよかったなって思います」

明美さんと常連客の皆さん

毎朝のように立ち寄る常連さんからは、「この店ができてから、地域が良くなっているね。明美さんは、地域の人のために活発に動いて、良くやってくれているよ」という言葉が。

「ベーカリーマイルストーン」の坂本歩さん

「あざま共同売店」があるのは、久高島へ向かうフェリー乗り場、安座真港のすぐ近く。そのような立地上、観光で訪れた人たちも多く立ち寄ります。明美さんの人柄に惹かれ、リピートする人は多く、地元の常連さんが観光で来たお客さんに気さくに話しかけてくれることもあり、地元の人と観光客との出会いの場、交流の場にもなっています。

久高島と安座真港を行き来するフェリー

「安座真は久高島の玄関口で、山の向こうは斎場御嶽、海のほうにはテダ御川があって、改めてすごい場所に位置しているなと感じます。地元の人たちのゆんたくの輪に入ると、安座真の歴史や自分たちが過ごした昔話を聞くことができて、いつも地域を知るための勉強になっています」

散策ツアーで巡る場所を案内してくれた明美さん

明美さんは、もっと安座真のことを知りたいと、地域の行事に積極的に参加。安座真の集落は、拝所や御嶽などが多く、昔からの文化や信仰を大事に受け継いでいる神聖な場所だということを知りました。

地域に残る拝所「古墓（村番）」

その魅力をたくさんの人に知って頂きたいと、オリジナルの地図「azamap」を配布したり、以前は自らがガイドとなり、安座真を案内する散策ツアーも実施。昨今は安座真で生まれ育った地元の方にガイドを依頼し、「あざま共同売店」ではそのツアーの受付を行っています。

地域の皆さんが大切にしている「安座真の神アサギ」

「レンタカーに乗って観光地をはしごするだけではなく、地域のすーじぐゎーを歩くからこその楽しみを味わって頂けたらいいなと思いますね。安座真には皆さんに歩いて体感していただきたい“たからもの”のような場所がたくさんあります。ここに住まわせてもらってお店もやらせてもらって、日々感謝の気持ちでいっぱい。そして、皆さんの“ありがとう”という言葉に助けられています。その恩返しとして、もっともっとたくさんの人に安座真の魅力を届けられたらいいなと思います」

2022年、最初に構えた場所から移転を余儀なくされた「あざま共同売店」。その移転資金を募るクラウドファンディングや、再出発のための準備や設備設置などで、明美さんを全面サポートしたのが「あざま共同売店ファンクラブ」の皆さんでした。

メンバーは、安座真に生まれ育ち、今では明美さんを姉のように慕う石川孝之さん、南城市の地域仕事を機に明美さんと出会い、常連客となっている由利充翠（ゆりみつあき）さん、「デコールデザイン」の瑞慶山成人（ずけやまなると）さん、南風亜矢子（はえあやこ）さん。

石川孝之さん

「へこんだとき、明美さんと会うと元気もらえるし、楽しいときは一緒に楽しんでくれる素敵なお姉さん。いつも助けてもらっています」（石川孝之さん）

「デコールデザイン」の瑞慶山成人さん

「明美さんは県外出身だけど、地元の人のように安座真に馴染んでいて、誰とでも壁なく話ができる人柄。地域のよりどころになっていると思います。自分の実家は遠いので、ちょっと寂しくなったら安座真に行こう、明美さんに会いに行こうって実家みたいな感覚で通っています」（瑞慶山成人さん）

「デコールデザイン」の南風亜矢子さん

「元気がないとき、忙しいからほっと一息つきたいなというとき、ここに来てパワーをもらって帰っています。明美さんはパワースポットのような存在。いつも頑張っている姿を見ているし、自然と応援したくなります」（南風亜矢子さん）

明美さんと「あざま共同売店」ファンクラブの皆さん

「共同売店には買い物の利便性があるけれど、めちゃくちゃ便利というわけでもない。それでも地域の人たちが集まっているということは、ここが地域になくてはならない存在になっているということ。明美さんがここでやってくれていることが大切で、安座真にとって宝物のようなスポットになっていると思います」（由利充翠さん）

「デコールデザイン」の瑞慶山成人さん、南風亜矢子さんは、オープン当初から売店の看板制作を手伝ったり、売店で配布している安座真の地図「azamap」の製作、オリジナル商品のTシャツやポストカードを製作するなど、デザイン面でお手伝い。外壁にみんなで絵を描く壁画ワークショップも企画・運営を担当しました。

壁画ワークショップの様子。撮影：秋本康治さん

お二人いわく、壁画ワークショップの魅力は、「知らない人同士でも一緒に絵を描くことで会話が生まれ、仲良しになれるところ」。

移転後のクラウドファンディングのリターンとして、壁画ワークショップを行った際には、地元の人たちと地域外から訪れた人たち、明美さんが一緒になって、みんなでワイワイ、新しい「あざま共同売店」の外壁に絵を描きました。

壁画ワークショップの様子。撮影：秋本康治さん

入り口横に描かれた、一際目を引くキャラクターのモデルとなっているのは、常連客のおじぃ。「個性豊かな地域の人たちが集まるのが、うちの店ならでは。特にお酒を飲みに来るおじぃは個性が強くて毎日楽しい（笑）。その様子を見てデコールデザインのお2人がキャラクターを考案してくれました。ありがたいことです」と、明美さん。

ひとりでできないことは、みんなで。そして、みんなで一緒に楽しく場を育む。明美さんのもとから素敵な仲間の輪が生まれています。

常連客の方が連れてくる愛犬とも仲良し

「立ち上げから低迷期もあって、認知されるまでたくさんの方に協力してもらって、決して一人ではできなかったこと。移転のたびにお金もかかるし、仲間がいなければ、ここに『あざま共同売店』が存在することができなかった。とても感謝しています。これからも皆さんにとって、実家のような公民館のような存在であり続けたいなと思います」