沖縄観光情報:<沖縄の伝説ぶらり歩き> 悲劇の占い師・木田大時 ~ 南城市玉城前川と世界遺産「玉陵」

<沖縄の伝説ぶらり歩き> 悲劇の占い師・木田大時 ~ 南城市玉城前川と世界遺産「玉陵」

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初回投稿日:2015年12月27日
 最終更新日:2024年01月01日

<沖縄の伝説ぶらり歩き> 悲劇の占い師・木田大時 ~ 南城市玉城前川と世界遺産「玉陵」

琉球王国の尚真王(しょうしんおう)時代(在位1477~1526年)のお話です。天文・暦・易学の第一人者に、木田大時(むくたうふとぅち)という人物がいました。国王からの信頼も厚く、王府に仕えていた彼は、並外れた神通力を持っていたがゆえに生命を落とすことになってしまった悲劇の占い師でした。

玉陵
木田大時の屋敷跡の近くで見掛けたウクマーミ(藤豆)の愛らしい花。
 
沖縄本島南部・旧玉城村(たまぐすくそん)、現在の南城市(なんじょうし)玉城前川(メーガー)。県内で広く知られている鍾乳洞「玉泉洞(ぎょくせんどう)」があるところです。集落の中心から東へ行った住宅地のなかに、木田大時の屋敷跡は由緒ある拝所として、ひっそりと佇んでいます。

玉陵
南城市玉城前川にひっそりと佇む木田大時の屋敷跡。
 
のちに、「木田大時」と名乗る玉城筑登之(たまぐすくちくどぅん)は、小波津親雲上(こはつぺーちん)から風水と天文学を習得し、天気を予報する、不治の病を治すなど、村の人たちを助けていました。あるとき、王子が原因不明の病に伏しました。

いくら手を尽くしても一向に良くならない王子のために、占い師として評判となっていた筑登之が呼び出されました。筑登之は王子に取り憑いていた悪霊を見事に払い、瞬く間に治してしまいました。たいそう喜んだ国王は、筑登之に「大時」の称号とたくさんの褒美を与えたそうです。国王の厚い信頼を得た筑登之は、「木田大時」と名乗り、時間係、天気予報係、作物の植え付け指示など、王府で仕事に精を出すようになりました。

玉陵
集落内で見掛けたベニヤ板製の「きび番組表」。製糖工場へウージ(サトウキビ)を運搬する日は集落単位で個々に決められています。こちらはその運搬日を記している看板。スタイルは集落によりますが、沖縄の冬の風物詩のひとつといえるでしょう。
 
王府に仕えていた大時ですが、大時を妬む者の吹聴と奸計により、国王の御前で大時は命を賭けてその神通力を試されることになります。

木箱の中に1匹のネズミを入れておき、「箱の中にはネズミが何匹入っているか当ててみよ」と大時に数占いをさせたのです。「ネズミは5匹でございます」と大時は答えました。「本当に5匹か?」「はい」。しかし、箱のなかに入れたネズミは1匹です。大時を信頼していた国王は愕然としました。

命懸けの数占いを外してしまった大時は、国王を惑わす悪人とレッテルをはられ、安謝(あじゃ)の処刑場で処刑されることとなりました。

玉陵
玉城前川にて。広い青空のもと、ウージ(サトウキビ)の花がサワサワと風にたなびいていました。のどかな風景はどこかの島に来たようです。
 
ところが、ネズミの入っている木箱を片付けようとしたところ、なんと4匹の子どもが生まれ、ネズミは5匹になっていたのです(※ネズミの子どもの数には諸説あります)。

「大時は正しかったのだ!」。国王は急いで処刑を中止させようとしますが、時すでに遅し。並外れた神通力を持ち合わせていた木田大時は帰らぬ人となってしまったのでした。

玉陵
玉城前川のハルマーイチヂ展望台からの眺め。肉眼で県庁まで見渡せる絶景ポイント。
 
過って木田大時を処刑してしまったことをたいそう悔いた尚真王は、第二尚氏王統の歴代国王が眠る陵墓「玉陵(たまうどぅん)」に、木田大時を大切に祀ったと伝えられています。

玉陵
那覇市首里金城町の世界遺産「玉陵」。王族とともに木田大時が祀られていると語り継がれています。
 
1501年、尚真王が父・尚円王(しょうえんおう)の遺骨を改葬するために築かれた玉陵。現在併設されている資料館に、木田大時の解説パネルがありました。尚円王の石厨子(いしずし)と同様に立派な彫刻を施された石厨子が、通常とは異なる場所に、たったひとつだけ、ずうっとむかしから残されているとのこと。言い伝えではこの石厨子が木田大時のものだといわれているそうです。 ※石厨子とは蔵骨器のこと。

玉陵
玉陵の遥拝所。拝みが目的の方は入場料不要でここからお参りができるそう。
 
木田大時のご子孫のあいだでは、玉陵に木田大時が祀られている伝説は脈々と語り継がれ、先祖供養の行事である清明祭(シーミー)のときには大時の子孫の方々が大勢で玉陵へお参りにいらっしゃるそうです。

玉陵
玉陵にて。清掃員の方に教えて頂いた「サイハイゴケ」。とても珍しい苔だそう。
 
 
<沖縄の伝説ぶらり歩き>
テーマの通り、ぶらりと歩いていたからこその発見もあります。玉城前川の心がなごむ風景、そして、玉陵で清掃員の方に教えて頂いた苔、「サイハイゴケ」です。清掃員の方のお話では、とても珍しい苔だそう。

確かに、見たことのない苔です。気になって後日、少し調べてみました。苔の専門家ではありませんので、自信を持っては言えないのですが、おそらくこの苔は、「オキナワサイハイゴケ」かと思われます。

ジンガサゴケ科のサイハイゴケは国内で5種あるのだそう。そのうちの1種、「オキナワサイハイゴケ」は琉球列島固有のもので、環境省の準絶滅危惧(NT)に分類されています。琉球列島固有の苔「オキナワサイハイゴケ」をぶらり歩きで探してみるのも一興かもしれませんね。
 
 

世界遺産「玉陵」

住所 /
沖縄県那覇市首里金城町1丁目3

安積 美加(あさか みか)/フォトライター

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